13-1話 目黒1尉 ――古代文字――
目黒は一番近い左側のドアの前に立っていた。時間がたっても、ドアに触れてみても、それが開く気配を見せない。
「扉、反応なし」
本部へ報告した。
隊員たちは壁や天井、床に目を走らせてスイッチやセンサーらしきものを探す。
『スイッチの類は見えないか?』
高島1佐の声に応じるように、立川がカメラをドアの周囲に向けて映像を送った。
「ありません」
『壊れているのか?』『電源が死んでいるのだろう』
無責任な声がする。
「最初のドアは開いた。船は壊れていないし、電源は生きている。次のドアを調べる」
そう告げて、目黒は2メートルほど先の右側のドアに向かった。
『生体認証かもしれないな』
誰のものかわからないが声がする。
「登録された人物でないと開かないということですか?」
問い返すと『そうだ』と返事があった。
「最初のドアは開きました。生体認証だとしても、センサーがあるのではないですか?」
そう話しながら進み、右側のドアの前で足を止めた。
そのドアも開く気配がない。
「ダメです。反応ありません」
耳元で隅田2尉の声がする。
「高島1尉、この扉も反応しません。破壊してみますか?」
本部に問うと、別のドアを調べるように指示があった。
「了解」
無駄足だろうと思いながら、目黒は突き当りのドアに向かった。
推測は当たっていた。そのドアも開かない。センサーやスイッチの類も見当たらなかった。目黒たちは引き返し、入ってきたドアの左側を目指した。そこにも二つのドアがある。
ドアを調べ歩く目黒に緊張はなかった。当初、不安を覚えた未知の迷宮も、数歩あるいただけで、訓練で使う廃ビル程度にしか感じられなくなっていた。面倒な場所だが、危険な場所ではないと判断した。
ふと、不安を覚えたのは、入ってきたドアの前を通り過ぎる時だった。そのドアもそれまでに調べたドアと同じものに見えたからだ。
結果は同じだった。入ってきたドアの左側の二つのドアも開かなかった。
「入ってきた扉を確認しても良いですか?」
『何かあるのか?』
「イヤな予感がしたものですから」
本部内で何らかの打ち合わせをしているのだろう。しばらく返答がなかった。その間、目黒は入ってきたドアの前に移動した。
あろうことか、何の支障もなく通り抜けてきたそのドアも開かない。その時、はじめて焦りを覚えた。部屋から出るのには生体認証が不要でも、入るのには必要なのだろう。よくよく考えてみれば自然なことだった。
『目黒1尉の希望通りにやってみたまえ』
遅ればせながら高島1佐から無線が入った。
「はい。すでに来ているのですが、他の扉と同じです。我々は閉じ込められたようです。扉を破壊する許可をください」
焦る気持ちを押して報告した。
『科学者の皆さんがATFを破壊してしまうのではないかと恐れている。穏便な方法で頼むぞ。まずは動力部に近い西奥の扉を撤去しろ』
高島1佐は本部にいる科学者に向かって嫌味を言っているようだ。
「……了解」
何を言っているのだ、と思った。こちらは、命を懸けているのだ。
「機関部と思われる前方部側の、突き当りの扉をカッターで排除します」
退却の可能性を考えれば、入ってきたドアを撤去しておくべきだ。が、調査が始まったばかりで逃げ出すことを考えていると思われたくなかった。
西へ向かい、突き当りのドアの前で止まった。
秋本曹長がレーザー・カッターの準備をする。商店のシャッター程度なら、10秒で人が出入りできる穴をあけることができるものだ。30秒もあれば目の前のドアも撤去できるだろう。目黒はそう読んだ。
「準備完了」
秋本曹長が報告する。
「対閃光準備」
目黒は命じてヘルメットの耳元にあるボタンを押した。フルフェイスヘルメットのシールドが黒く変わり視界が暗く落ちた。
「準備完了」
部下から、次々と同じ報告が届く。




