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11話 影村辰夫 ――隠されたリスク――

 隊員たちのヘルメットに取り付けられたカメラの映像や放射線計のデータが本部に届いた。立川1曹の映像は通常の可視光線による映像だが、他の四人のものは、サーモカメラ、ガンマ線カメラ、エックス線カメラなどと機能が異なっている。それらの映像も本部の大型モニターに投影された。


 5人が降り立った場所は居室のような場所のようで、金属製のベッドとテーブルがあるだけだった。装飾品のようなものはなく、南側の壁にドアが一つ。カメラがパンする度に、モニターには緊張した隊員の顔が映った。


「ベッドとテーブルか……。人類の物で間違いないな」「古代文明のものに違いない」「大発見だぞ」「歴史がひっくり返るな」「人類とは限らないだろう。人型の宇宙人ということも……」


 ある者は真剣で、ある者は冗談交じりだった。本部内は感想を述べ合う声が飛び交った。


「外殻の防御システムといい、放射線のセンサーといい、ATFのシステムが生きているのは間違いないだろう。影村さん、慎重に取り扱ってくれよ」


 山川博士が言った。


「もちろん、そうします」


 影村はいなすように応じ、高島1佐に向く。


「その部屋には何もないようです。ドアを出てみてくれ」


 依頼すると、彼はそれを目黒1尉に伝えた。


『了解』


 スピーカーから声が流れると、ざわついた空気が静まった。仕事のない者は誰も、食い入るように送られてくる映像に見入った。


 隊員がドアに向かう。モニターはその背中を映した。


 ドアは一般的な自動ドアのようだった。隅田2尉が近づくと、すべるように開いた。


 廊下に明かりはなく、隊員が廊下に出てドアが閉まると本部のモニターは薄暗くなった。隊員のヘッドライトの光が闇を走る。


「ドアが閉まっても電波は遮断されないようですね」


 井島博士が言った。


「右に行ってみよう」


 影村は機関部があると想像される前方部へ向かうルートを指示した。


「目黒1尉、15時方向、西へ向かえ」


『了解、15時方向へ向かう』


 立川1曹のカメラが廊下の映像を送ってくる。モニターに三つのドアが映った。左右に一つずつと、正面に一つだ。


「部屋を一つずつ見ていこう。経路のトレースは本部で行う」


 高島1佐がマイクに向かって指示を伝えた。


『了解。扉をひとつずつ確認する』


「あれを!」


 声をあげたのは山川博士だった。その視線は別のモニターを見ている。


「どうしました?」


 彼の驚いた顔を見てから、その指がさすモニターに眼をやった。天鳥船の外殻、調査部隊が侵入した場所を映したモニターだ。


「外殻が復元している。……自動修復システムだ。これこそ理想の外壁ですよ」


 鮫島の顔が喜悦の色を浮かべていた。


「天鳥船は有機体かもしれませんな」


「井島博士、冗談を言わないでください。隊員が乗り込んでいるのですよ」


 高島1佐が非難した。


「冗談ではない。傷ついた部位が自動的に復元している。有機体の特徴だ」


「自動修復ぐらい、コンピューターのプログラムにもあるでしょう」


「高島さん。プログラムの自動修復など、子供のオモチャのようなものだ。モデルと常時比較することで簡単に実現できる。しかし、物質は違うのです。変形や欠損を認知し、あるべき形に修復する。それができるのはDNAを持つ有機体だけだ」


 井島博士の語調は強かった。


「お言葉ですが……」鮫島が割って入る。「……我々の技術でも、無機物の軽微な傷の自動修復は可能なのです。天鳥船の科学技術なら、完璧な自動修復システムがあっても不思議ではありませんよ」


 鮫島のとりなしで井島博士と高島1佐は黙った。


「その技術、何としても欲しいものです」


 影村が口にすると、鮫島がうなずいた。


「そんなことより、出口がふさがったことを連絡しなければならないのではありませんか?」


 そう問う渡辺教授に対して、影村は手で制した。


「外殻は破壊できることがわかったのです。出る時にもそうすればいい。今は調査を優先しましょう。本来の出入り口も見つかるかもしれない。高島さんも、いいですね」


 高島1佐に目配せする。


『扉、反応なし』


 スピーカーから目黒1尉の声が流れた。


「命令とあれば……」


 高島1佐はそう応じてから、マイクに向かった。


 影村はその場を離れ、天鳥船の内部侵入に成功したことを結城長官に報告した。


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