10話 目黒1尉 ――侵入――
天鳥船に侵入するのは、目黒1尉を隊長に、隅田2尉副長、野々村3尉、秋本曹長、立川1曹の精鋭5名。高島1佐が信頼するメンバーだ。核戦争下での戦闘を想定した戦闘服に身を包み、電磁波の中でも誤作動を起こしにくい通信機や観測機器、記録装置、電動工具を装備していた。武装は自動小銃と拳銃のみ。
隊員たちはヘルメットのスイッチを入れた。頭部のカメラの映像が本部に送られて記録される。ヘルメットのシールドを下ろすと、内側に気温と方位、放射線量などが表示された。
足場を上り、できたばかりの穴の周囲に丸く集まる。内部からの攻撃に備えて自動小銃を構えた。
目黒は穴の中をのぞき込んだ。外殻の厚さは1メートル以上あった。そこから床までは3メートルほど……。外部からの明かりで視界の範囲はほぼ見えたが、外殻が厚く視界は限定的だ。視界の外に何があるのかわからない。床以外に見えるものといえば、散らばった外壁の残骸……。
緊張している自覚がある。任務は戦闘ではないが、未知の空間への侵入なのだ。放射線から身体を守るための装備は重く、身体の自由も効かない。俺はできる、と自分を鼓舞した。
「内部に人影なし」
そう告げた後、声が震えているのでは、と思った。頭を上げて梯子を担いだ立川1曹に眼をやる。シールドが邪魔で判然としないが、意外と平静な表情をしているようで安堵した。
「梯子、降ろせ」
侵入の段取りは決めてある。指示を出すと彼が梯子を降ろした。
「行け」
声と同時に、手で空気を切るように下方を指した。
副長の隅田2尉と秋本曹長が梯子を降りる。その間、残った者は万が一の場合に備え、自動小銃は構えたままだ。
降りた2人が周囲に目を配る。
『安全を確認、異常なし』
ヘルメット内で隅田2尉の声がする。
「了解。野々村、立川、下りろ」
命じると、野々村3尉と立川1曹が順に下りた。
そこは5メートル四方ほどの広さの部屋だった。穴から漏れ入る明かりで十分見渡せた。金属製のベッドとテーブルがあり、天鳥船が自分たちと同じ人類の物だとわかる。少し安堵した。
シールドに映る方位を確認する。放射線の影響で測定できないことを案じていたが、正常に方位を示していた。
ベッドとテーブル以外にあるものといえば、床に散らばる外殻の残骸だけだった。大きなものは1メートル四方ほどもあってコンクリートの塊に見えたが、小ぶりなものを拾ってみるとコンクリートより軽かった。
「残骸のサンプルを収集しますか?」
隅田2尉に尋ねられて考えた。天鳥船の科学技術を解明する手がかりになりそうなものがあれば何でも収集するよう、高島1佐に命じられている。
「荷物になるから撤収時にしよう」
「了解」
彼が応じた。
通信担当の野々村3尉が、穴の真下にデータ中継用の高精度アンテナを立てて本部へ連絡を入れる。
「内部到達、放射線量異常なし。今から映像を送ります」
『よし、データ、届いた。画像は鮮明……』
ほどなく高島1佐の声がした。




