7-3話
「しかし問題は、天鳥船が放射能汚染されていることを、発表以前に知っていたということです。原子力規制委員会は、宗像博士の指摘を受けて保健所に放射線測定をさせたのですが、博士は、彼から放射能の件を聞いたというのです」
結城が説明すると、総理と官房長官が首をかしげた。ほどなく、総理が口を開いた。
「その学生がどうしてそれを知っていたのか、NSCで聴取したのだろう?」
「それが……、アインシュタイン博士から聞いたとか、天鳥船を埋めたのは自分だとか、まったく支離滅裂でして……。精神鑑定も検討しましたが罪を犯したわけでもなく、やむなく解放いたしました」
説明する結城自身、ばかげたことだと思っていた。部下からこの報告を受けた時、思わず怒鳴りつけてしまったほどだ。
「なるほど。夢でも見たのだろう」
総理が冷笑した。
「学生の妄想はともかく、天鳥船が高度な原子力装置であることは間違いないでしょう。もしあれが飛んだとするなら、動力は核エンジンだろうと、防衛省は見ています」
官房長官が言った。
「天鳥船は数千年前のものだろう。その核が生きているというのか?」
「燃料がウランやプルトニウムならば、十万年単位で生きていて不思議はありません」
「十万年もの飛行が可能ということか?」
「燃料はそうですが、船そのものが十万年の耐久性があるとは考えられないと言うのが防衛相の見解です。とはいえ、掘り出された状態を見るに、亀裂や欠損はない。そうだな?」
官房長官の鋭い視線が結城を射た。
「はい。詳細はこれからですが、現地からの報告ではそうです」
うなずいて見せると、総理の頬が緩んだ。
「もし、船体が燃料ほど持たないとしたら、船が壊れた後に核燃料だけが残るではないか?」
「そう言うことになります」
「古代人とは、馬鹿な連中だな」
総理が声をあげて笑った。
現代人が所有する原子力発電所も同じだが、結城はそれを指摘することは止めた。
「総理、今のところ、あれを造ったのが古代人なのか、宇宙人なのか、判明しておりません」
官房長官が諭すように言った。
「天鳥船だ。古代人の物に決まっているではないか」
「天鳥船は、考古学者たちが便宜的に付けた仮称です。あれが何なのかは、これからの調査にかかっています」
結城は痛みをこらえながら話した。彼の手でNSC局長に抜擢されたことに感謝の気持ちはあるが、彼の態度や物言いは好きになれなかった。
「そうなのか……。内部の調査にはいつ入る?」
「今のところは何とも……。入口の特定さえできていませんので。最悪、外壁を切断して侵入を試みるそうです」
「切断しても大丈夫なのだな? 貴重なものだぞ」
「いずれ詳細は影村のほうから説明があると思います」
「影村?」
官房長官が目を細めた。
「NSCの参事官です。現在、天鳥船の現地調査を仕切らせています」
「分かった。その件は後で確認させてもらう。報道管制はどうだ? 他国に古代人の技術が盗まれては困る」
「総理、まだ、古代人とは……」
注意すると彼が舌打ちをした。
「古代人だろうが宇宙人だろうがどちらでもいい! 重要なのは天鳥船の技術を守ることだ」
「はい、そのために万全を尽くします」
そう応じながら、もし天鳥船がただのモニュメントだった場合、どのようにしたものか、と頭の隅で考えた。




