6-1話 宗像倫子 ――親愛なるアインシュタイン博士――
マンションの10階、自分の部屋に帰った宗像倫子は玄関で座り込んだ。警視庁といくつかの警察署を訪ねまわったものの、住吉比呂彦の居所はわからなかった。身体の疲れ以上に、後悔が精神をむしばんでいた。
「ママ、おかえり。比呂君、見つかった?」
リビングから姿を見せたのは高校生の娘の晴海だった。洋一の妹だ。
「いいえ。……あちこち回ってみたのだけれど、彼を取り調べているという部署はなかったわ」
首を振ると、晴海の表情が陰った。
「パパみたいに、行方不明になったの?」
海洋生物学者だった夫は3年前、不慮の事故で南太平洋に沈んだ。しばらくして遺体は見つかったものの、その時のトラウマが行方不明と死を連続させているのだろう。娘が不憫でならなかった。
「パパとは違うわよ」
倫子は声に力をこめた。
比呂彦に話があると言われたのは、彼が被災家屋の清掃ボランティアから帰ってきた夜だった。彼は、奈良で発掘された天鳥船という遺物は古代人の原子力機関で危険なものだと言った。にわかに信じられない話だったが、倫子が彼と出会った経緯を考えれば、一笑に付すことはできなかった。それで、仕事上の付き合いがある原子力規制委員会の会員に通報した。それが一週間ほど前のことだ。するとその数日後、比呂彦と晴海だけのところにスーツ姿の男性が数人訪れ、比呂彦を連行していった。
「本当に刑事だと言ったのよね?」
「うん。手帳を見せて、警察です、って」
「いったい、どこの警察なのかしら……」
床に向かって怒りを吐きだし、靴を脱いで立った。
「ごめんなさい。私がちゃんと聞いておかなかったから。だって、驚いちゃって……」
晴海もまた、比呂彦を警察の手に委ねたことで自分を責めているようだった。
「自分を責めないで。住吉君の方が大人だし、彼は強いのよ。心配いらないわ。ママが必ず見つけて助け出すから」
倫子は娘を慰めながら、途方に暮れる自分を励ました。天国にいる夫に比呂彦を守ってくれるよう祈った。
「さあ、食事にしましょう。晴海が作ってくれたのでしょう?」
「カレーだけどね」
彼女の表情に、少しだけ明るさが戻った。




