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4-2話

 昼は持参した弁当を食べる。被災地では食事の手配などままならないからだ。サークルの仲間で丸くなり、被災状況の話や就活の話などをして過ごした。4年生は純子ひとりで、とっくの昔に内定をもらったと言って笑った。


「ヒメや住吉君は大変ね。法学部や経済学部と違って、文学部に対する企業の目は厳しいわよ」


 彼女は2人に同情の目を向けた。


「やっぱり、文学部のイメージってそうですよね」


 ため息が漏れた。


「そうなのですか?」


 比呂彦が、関心なさそうな口調で訊いた。


「文学や芸術が好きな学生は、浮世離れした人種だと思われがちよ」


「そうなのですね」


 彼は小さくうなずき、菓子パンを頬張った。その姿に、姫香はホッとするものを覚えた。彼も人並みに就職のことを意識していると感じたからだ。


「あっ、でも住吉君なら大丈夫ね。特待生なんでしょう? それを前面に押し出せば、企業の受けは良いと思うわ」


「エー」「すごいな」サークルの仲間たちから声が上がる。


 部長ったら、全然口が堅くないじゃない!……姫香はにらんだ。が、純子は気づかない。救われたのは、当の比呂彦が気にしていない様子だったからだ。


「就職のことは、その時に考えます」


 比呂彦がさらりと話し、仲間たちを驚かせた。


「さすが特待生! 余裕綽々《よゆうしゃくしゃく》だ」


 ねたみの混じった声がした。


 午後は、床板をはがして縁の下に流れ込んだ泥を運び出す作業が始まった。姫香は床板にへばりついた泥を洗い流す作業をした。


 比呂彦が声をかけてきたのは3時の休憩の時だった。


「吉本先生が参加している発掘チームの記者会見があったようです」


 差し出すスマホにニュース動画があった。


「先生が出ているの?」


 画面に顔を近づける。話しているのは30代の女性だった。


「いいえ。奈良総合大学の四条教授と北海創成大学の久保田という方です」


「この人がそうなのね」


 画面に映る女性は眼鏡の奥に知的な瞳が光る美しい女性だった。年齢は吉本准教授と違わないだろうけれど、前面に出ているのは彼女が女性だからか……。そんな気がした。それからやっと、彼女の話の内容に意識が向いた。


『発掘チームは天の鳥船と名付けました……』


 彼女は発掘した遺物の写真パネルを示し、その形状がSF映画の宇宙船に似ていると言ってその場を和ませた。


「まるで前方後円墳ね。あれが天鳥船ですって……」


 卒論のテーマに選ぼうと決めた日本神話に出てくる天鳥船の名が出て驚いた。それはイメージしていた遣隋使船けんずいしせん遣唐使船けんとうしせんといった船とは、ずいぶん形が違う。


「さすがだね」


 言葉と違って、比呂彦の顔に感動の色は見えなかった。


「さすが?」


 どうしてそう思うのだろう?


 彼は答えず動画を指した。会見は続いていた。


『遺物は巨大な一枚岩で、全面的に非常に高度な加工がされており、当初推測していた石室ではないと考えています。今のところ何らかの施設か、モニュメントではないかと考えていますが断定はできません。皆さまには現地に足を運びたいと考えている方もおられるでしょうが……』


 彼女は、遺物周辺で微量の放射線を確認しているために一般公開はすぐには行い難い、と述べて会見を終えた。


「放射線ですって。どういうことだと思う?」


 姫香は比呂彦に尋ねたが、答えてくれなかった。そんなことは初めてだった。


 何か話したくない理由があるのだろう。……彼の横顔を見守った。そうしている間に短い休憩時間が終わり、放射線のことなど頭の中から消えてしまった。


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