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38-2話

 倫子は比呂彦に電話を掛けて燃料の搬出について聞いた。彼はジングウに利用されない場所に移すべきだと賛成した。同時に、ジングウが内部で爆薬を使ったことに触れた。


『配管は自動修復機能で元に戻っているとおもいます。しかし、床に漏れ出た液体燃料は残っている可能性が高い。かなりの放射線量でしょう。覚悟しておいてください』とても慎重な物言いだった。


「他にアドバイスはある?」


『僕の記憶は一部、壊れているので確実とは言えません。間違いないと思いますが。……僕の記憶が正確なら、中性子の遮蔽しゃへい用にカドミウムが利用されているはずです。汚染に気を付けてください』


「有毒ガスも出るわね」


 話しながら、これは困った、と思う。放射線や化学物質に対する完全装備という動きにくい状態で核燃料の回収ができるだろうか?


『ガスは発生しているでしょう。しかし、外部の放射線量が上がっているということは、換気システムがまだ生きていると考えていいと思います』


「そうね、ありがとう」


 礼を言って電話を切り、比呂彦に教えられた情報を、全てスタッフに伝達した。


「ねえ、影村さん……」


 倫子は、再度、彼を招聘することを要求した。


「ならば、ここに呼ぶことは認めよう。しかし……」


 彼は、頑として比呂彦が天鳥船に入ることを拒んだ。


「そうですか。私、降りますね。私が単独でやったら、何年かかるかわからない。そのあいだにジングウに襲われてしまう」


 席を立つと、糀谷博士と鏑矢博士が「まあまあ……」といってなだめに入る。それでも倫子は、首を縦に振るつもりはなかった。実際、上手くできる自信はなかった。その状態で仕事を引き受けるのは無責任だと思う。


「彼は、ATFの核燃料が液体だと言ったわ。固体燃料より不安定な液体なのよ。それがどういうことかわかりますか?」


 倫子は影村に向かって声を荒げた。


 彼はムッとした表情で口をつぐんだ。


「彼が天鳥船に詳しいからこそ、あなたが住吉彦比呂を不審に思うのは仕方がないと思う。でも、だからこそ私は彼が必要なのよ。確実に、そして安全に液体核燃料を抜き取るためにね。わかる?」


 倫子は、頑なな官僚を睨んだ。


「影村さん、自分も彼を呼ぶべきだと思います」


 出入り口のところから声がした。高島1佐だった。彼は続けた。


「らしくない、と思います。自分には核のことは分からない。しかし、人のことなら少しは分かるつもりです。彼はこれまで何度か協力してくれた。自分たちの方が彼の警告を受け入れず、問題を拡大させてきたのに、だ。しかも、これからも彼のアドバイスが必要になるに違いない。その彼を認めないのは、全てにおいて目標達成を優先してきた影村さんらしくない」


「私も同意見です……」糀谷博士が言った。「……ATFは未知のことばかり。内部構造さえわかっていない。原子力に携わるものとして情けないが、ATFの核燃料を回収するためには、彼の力が必要だ」


「あいつは、天鳥船を解体しようとしているのだ。そうでしょう、宗像博士?」


 影村が語気を強めた。


 倫子が頷くと、影村は話を続けた。


「これから手に入れなければならない技術を、彼は消し去ってしまうかもしれない。そのために彼がJと連携している可能性がある。私の目標はJを倒すことではなく、天鳥船の技術を手に入れることです。高島1佐、それでも彼を呼びますか? 糀谷博士どうですか?」


「内部の汚染はひどい。今のままでは技術の解明は難しいし、すでにJの爆破によって、重要な設備が破壊されている可能性もある。それは高島さんが詳しいのではないかな?」


「軍人なら、敵に渡りそうな武器や機密は撤退前に破壊するでしょう。Jの爆破の意図がそういうことなら、あの船の価値は半減しているかもしれない」


「半減していても、まだ得られるものはあるはずです。そのためにも、彼の力を借りて、早急に核燃料を撤去する必要があると思いませんか、影村さん?」


 井島博士が語気を強めた。


 科学者は皆、比呂彦をメンバーに加えるべきだと主張した。影村がようやく折れた。


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