3-4話
「花崗岩でなかったら、なんなのでしょう?」
久保田准教授が話に加わった。作業着姿にもかかわらずその容姿は一流企業の秘書のような華やかさがあった。彼女自身、それを自覚しているのだろう。2人の教授の間に堂々と立つのは自信の表れに違いない。眼鏡の奥の瞳も、強い光に満ちている。
「なにぶん頑丈でサンプルを削り出せないからな。調査器具をこちらに運んでくる必要がある。そのためにも必要なのが予算だ」
四条教授が顔を曇らせた。
「正確な左右対称物です。高度な技術集団が造ったのでしょう。実にユニークなものです。世紀の大発見です。その点をアピールすればスポンサーがつくかもしれません」
久保田准教授が瞳を光らせた。
吉本はずっと黙って聞いていた。四条教授の意見に疑問をはさむのを憚ってのことだ。ましてここにきて、スポンサーの話題になった。それを探せ、と話を振られたらたまったものではない。研究ならいくらでもするが、スポンサー探しといった営業のような仕事は苦手だった。
「推測ですが……」いつの間にやって来たのか、蒲生教授がいつものようにぼそぼそした口調で話し出す。「……これだけのサイズのものが運ばれてきたのです。内部は空洞ではないでしょうか? それならば、重量がかなり軽くなります」
「なるほど」
渡辺教授がうなずく。
「入口らしいものはみられませんが……」
吉本はさりげなく会話に加わった。四条教授と違い、蒲生教授は話しやすかった。
彼が口を開くより先に、久保田准教授が答えた。
「確かに見たところそれらしい部分は確認できません。けれど、底にあるのかもしれませんね」
「あれは石なのでしょうか?……」吉本は、ひと月前にも述べた感想を遠慮がちに話した。「……セラミックのような人工物のような気がします」
「セラミックなら、ツルハシで傷がつくだろう」
渡辺教授が唇の端を上げて笑った。
「とにかく内部が空洞になっているのかどうかだけでも早く知りたいものだな。久保田さん、手配をお願いしますよ」
四条教授が言った。
「はい。非破壊検査会社に調査を依頼します」
彼女は応じると坂を下った。
「構造はともかく、あれが石室でないとしたなら、何のための構築物なのでしょうか?」
吉本は蒲生教授に向かって素朴な疑問を口にした。
「モニュメントじゃないかな。この近くに宮があったという武烈天皇の……」
彼が答えた。
「ギザのピラミッドやアスカの地上絵のようなものですか?」
「ギザのピラミッドがモニュメントというのには、私は異論があるな」
四条教授が声を上げると蒲生の顔が強張った。
この老害が。……吉本は四条教授に目をやった。彼のような研究者が権威を笠に人の口を封じるから、この国はだめなのだ。口をつぐんだ蒲生教授に同情を覚える。
発掘された謎の物体を前に、研究者たちの想像は膨らんだ。その差異が微妙な緊張を生むが、結局、権威のもとに収斂していくのだ。
矢野准教授が額に汗を浮かべて坂道を登ってくる。
「大変です……」
頂上にたどり着いた彼はそう言うと、腰を曲げ両ひざに手をついて荒い息を整えた。




