表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/11

微笑むベビーカー

【ホラー】

「きゃっきゃっきゃ」


 電車の席の向かいにベビーカーを押したお姉さんが居る。微笑ましい。だけど、彼女は育児で疲れているのか、髪は長くて若干ボサボサだ。前髪で片目が隠れている。


 いろいろ察した俺は、席を譲ろうとした。

 彼女は、


「良いですよ。次で降りますし」


 そう言って断った。ベビーカーからチラッと見えた、赤ちゃんの真っ白な陶器のような整った手。少し痩せているように見えたが、俺は自分の席に戻ってスマホをいじっていた。


 SNSでさっきの出来事を呟く。


≪席譲ろうとしたら拒否られたw子どもうるせぇ≫


 俺のフォロワー人数なんて知れてる。知っているアカウントから、慰めの言葉なんかを貰って、それなりに楽しんでいた。実際に赤ちゃんの声をうるさいとは思っていないが、話はつい盛ってしまうモノだ。


 ――――ピロリン、ピロリン♪


 到着音が鳴る。電車が停まり、さっき声を掛けたお姉さんが、ベビーカーを押しながら、こちら側の出口に近づいてきた。俺はなんだか赤ちゃんの顔が気になって、ベビーカーの中を覗いてみる。

 すると、


(……!)


 なんと中に入っていたのは古い西洋人形だった。精巧に描かれたクリクリの目がこちらを見ている。俺は、背筋にだらりと水をかけられた感覚がした。うへぇ、気持ち悪ぃ。

 ちょっと声かけちゃマズい人だったか。

 

(あれ。じゃあ、ベビーカーの中で笑ってたのはいったい……?)


 お姉さんは何食わぬ顔で電車から降りて行った。俺はそのことをSNSに書き込もうとした。1件のダイレクトメッセージが届いている。おかしいな。俺の知人でいきなりダイレクトメッセージを送ってくる奴なんて居たっけ?

 しかも見たことない、真っ黒なアイコンだし……いたずらメールか?


(!)


 俺はそのメッセージを見て背筋が凍った。


≪うるさくて悪かったな≫


 そのメッセージと一緒に、さっきの西洋人形の写真が添付されていたからだ。アカウントバレでもしてるのか。あまりにも気味悪すぎる。そのことを知人に相談しようとしたら、また真っ黒アイコンのアカウントからダイレクトメッセージが来た。

 そこにはこう書かれていた。


≪誰かに話したら殺す≫


 けっ。

 そんなの知るかよ。俺は続けて、一番仲のいい友人に今あった出来事を送信しようとした。そのとき。


 ――――キキィーーーーッ!


 電車は大きくぐらついて、轟きながら横に倒れていった。


(脱線か!?)

 

 車内にいる全員が、「うぅ……」と圧迫されながら息絶えていく中で、赤ちゃんの笑い声だけがハッキリと車内に響いていた。くそぅ。俺の意識も、ここまで、だ……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ