小説の役目は終わりました
【その他】※バッドエンド
これからは参考書や実用書を買いなさい
あなたを助けてくれるものだから
小説とやらは、ただの屁理屈やまやかし
現実から目を逸らせるためのモノだから
書いている人だってきっと碌な人ではない
こんな世の中なのに『夢』や『希望』を
簡単に言葉にする
その重みも分からないのに
わかる。
あなたは本が好きだものね
でも聞いて
小説を読んでお金は稼げるの?
将来何の役に立つの?
そうだわ!
良い大学に入って公務員になりなさい
安定した生活を送ればきっとわかるわ
この時代に小説の居場所なんて無いことを
あなたを想って言っているの
この世界ではお金と権力と信頼が全て
大きな病気の治療薬だって
好きな食べ物だってお金で買える
権力があれば如何なるモノからの待遇も変わって来る
信頼があれば多少の不祥事も隠してくれる
ズルくない
それが大人なの!
あなたがずっと見続けている虚構の中に
あなたを現実から助けてくれるキャラクターは居た?
これは私の責任かもしれないわね
子どもの頃に夢を見させてごめんなさい
あなたは純粋だから現実の厳しさを知らない
もう、夢から醒めなさい
小説の役目は終わったの
じゃあ、捨てるね
全部
◇
母さん。僕の話を聴いて
小説は僕に勇気をくれた
生きる喜びを見つけたよ
お金じゃあないんだ
心の中に沢山の記憶が詰まってるんだ
捨てるなんて言わないで
僕はこれからどうやって生きて行けばいいか
判らなくなる
例えば
社会が憎いと思った時
正義のヒーローが背中を押してくれる
なんだか強くなれた気がするんだ
本当だよ
例えば
心に痛みが生じた時
ヒーラーが僕の『ココロ』の声を聴いてくれる
文字を追っているうちに涙を流したこともある
読んだあとに安心するんだ
本当だよ
それらで僕は平穏を保っているんだ
捨てないでお願い!
◇
人間は慣れるものよ
大丈夫。すぐに適応できる
あなたは賢いもの
◇
少年は捨てられていく本たちを恨めしそうに眺めていた。物言わず。ただその場で一冊一冊が乱雑にダンボールに詰め込まれていくのを見ていた。
少年の母は、(これで息子が立派に成長してくれる)と信じていた。
◇
しかし、少年は首を括って死んだ。少年の机には紙切れ1枚が置かれている。それを見た少年の母は、自分の行いを後悔した。
――――結局僕のことを知っているのは、本だけだった。あっちの方が良いな。さようなら――――
少年の母親は裁かれるべきなのだろうか。それとも、社会への適応を拒んだ少年の方が弱かったのか。今となっては判らない。でも彼はもうこの世に居ない。
少年が居た家庭の、小説の役目は本当に終わってしまったのだ。ただ、それだけのこと。彼が観た世界は、この世から一つ。消滅した。誰にも語られることもなく……。