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彼、口説いてくれるのかしら?


 待っていられると落ち着かないので、なんとか説得して(というか押し切って)、女性騎士にはお帰りいただいた。


 そしてふたりはカフェに入った。――屋内ではなく、通りに面したテラス席を選ぶ。


「良い天気ですね」


 ガートルードはなんだか気持ちが明るくなってきた。


 フルーリエン伯爵は対面に着席したガートルードが美しく微笑んでいるのを、謎めいた瞳で見つめた。


「あなたの金色の髪には、日向が似合います」


 この返しに、ガートルードは少し驚いた。一拍間を置いてから、穏やかに口角を上げる。


「……なるほど」


「何がなるほど、なんです?」


「確かにフルーリエン伯爵はモテそうです」


「なんです、それ」


「人から聞いたんです。あなたはとても女性に人気があると」


「そんなことはありませんよ」


 淡い笑み。


 ガートルードは感心してしまった。……絶対にモテるのに「ええ、そうなんです」とは言わないのね。


 大人の男性と社交的な会話をしたことがないから、ちょっとしたことでも「へぇ」と驚いてしまう。特にフルーリエン伯爵の場合は、言葉そのものよりも、間の取り方や物腰などが、ただ者ではないと感じさせるのだった。


 ガートルードは考えを巡らせる。……この人を相手に、私ごときが駆け引きなんてできるのかしら? なんでもする覚悟でやって来たけれど、それが有効でなければ意味がない。


「何か言いたげですね」


 フルーリエン伯爵にそう指摘され、ガートルードは素直に答えた。


「社交的会話は難しい――それに気づいたところです」


「おや」


 サファイアとエメラルド、ふたつが混ざり合った複雑な輝き――彼の瞳がこちらに据えられる。


「ギブアップが早くないですか? まだ会話を始めて、数分とたっていない」


「あなたの受け答えは、私を戸惑わせるわ」


「どこがです?」


 問われ、ガートルードは微かに眉根を寄せる。


「だってあなた、『モテそう』という私の投げかけに対して、『そんなことはありませんよ』と言うんだもの」


「ああ――……うん? それが何か?」


「謙遜は美徳?」


「さぁ」


 フルーリエン伯爵が笑みを浮かべた。……さっきより、少し楽しそう、かしら? ガートルードはそう感じたけれど、錯覚かもしれない、とも思った。


「じゃあ、ミス・カリディアはなんて答えるんです? 『あなたはモテそうですね』と言われたら」


「どうしてそう思うの? と問い返すわ」


「その返しはあまり賢いとは思えないな」


「まぁ聞いてちょうだい」


 ガートルードは少し前のめりになった。彼女の金色の虹彩は悪戯に輝いていた。


「そう問われたら、フルーリエン伯爵は私の好ましい点をいくつか挙げなくてはならないでしょう? これこれこういう理由でモテると思いました、と」


「確かにそうですね」


「それを聞けば、あなたが私をどう思っているか分かるかも」


「僕がどう思っているかが重要?」


「ええ」


「ミス・カリディアはもっと注意深く振舞うべきだ――興味本位の問いかけをきっかけに、僕に熱心に口説かれて、逃げられなくなるかもしれませんよ」


 ガートルードはびっくりした。


 え……彼、口説いてくれるのかしら?


 私のほうから口説かなくても、すみそう?


 こんなに物事って、上手く行くの?


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