フルーリエン伯爵、ガートルードから先制攻撃を受ける
ブルックからの元気づけるような声。
「怖いことがあったら、その笛を思い切り吹いてください。すぐに駆けつけます。そして私がそばにいない時でも、何かあったら吹いてください。きっと誰かが聞きつけて、助けてくれます」
一周目、ロブソン公爵の一味に攫われた時、ポケットにこの笛を入れていた。お守りだから。
でも大人数に囲まれて、すぐに拘束されてしまったから、取り出すこともできなくて。
あの時ほんの少しでも時間があり、この笛を吹けていたら、ブルックがどこかから駆けつけて、助けてくれたかしら。あるいは別の誰かが。
……切ない。
心配して気にかけてくれた人が確かにいたのに、ちょっとした不運が重なって、あの時は助からなかった。
でも次こそは。
「ありがとう、ブルック」
「お礼を言われるような大層なものではありません」
「そんなことないわ。私、すごく嬉しいの。大切にする」
ガートルードがはにかんでそう伝えると、ブルックも照れたように頭をかく。
「その……ガートルード様はこれからフルーリエン伯爵とお会いするのに、『怖かったら笛を吹いて』というのも、お相手に失礼な話かもしれませんが」
「確かにそうね」
ガートルードはくすりと笑みを漏らした。
「伯爵はおモテになるので、女性に何かを無理強いはしないと思います。……それなのに私は何を心配しているのだか」
ブルックは色々複雑な心境らしく、顔を顰めている。
「――ミス・カリディア」
爽やかで落ち着いた声が響いた。
ガートルードが声のほうを振り返ると、フルーリエン伯爵がこちらに近づいて来るのが見えた。まるで宝石のように輝くオレンジ色の髪。
ああ……確かに彼、すごくモテそう。こうして改めて対面してみると、びっくりするほどハンサムだわ……ガートルードは理由のよく分からない衝撃を受けた。
「――ごきげんよう、フルーリエン伯爵」
ガートルードは気を取り直し、にっこり笑って彼を見返した。
「店の前でどうかしましたか?」
彼が不思議そうにこちらを見おろしてくる。
女性騎士、ガートルード、フルーリエン伯爵が歩道に佇んでいる図は、なんとも奇妙なものである。
ガートルードは可笑しくなってきて、彼に尋ねた。
「もしかしてだけれど……私とあなたは相性が悪いかしら? こちらの騎士様は、それを心配しているのかも」
女性騎士は渋い顔で『むしろ相性が良すぎることを心配しているのですが』と考えていたのだが、その想いはガートルードには伝わらない。
そして突然そんなことを問われたフルーリエン伯爵は呆気に取られている。
「さぁ、どうでしょう……ミス・カリディアはどう思いますか?」
「私はね、相性は良いと思うの」
「それはなぜ?」
「理由は簡単――さっきのあなたの登場の仕方が気に入ったからよ」
「え」
「――あなたの声は、ライムを絞ったみたいに爽やかね」
ガートルードがキュートに微笑んでみせると、クールで滅多にペースを乱さないはずのフルーリエン伯爵が、二の句を継げなくなってしまった。
そして女性騎士はまったく関係ないのに、頭を抱えたくなった。
ああ……やはりものすごく心配……。




