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考察3 「ざまぁ系」に関するあれこれ

 ざまぁ。


 主人公が逆境を跳ね除け、今まで見下してきた人たちを見返したりする、アレだな。


 「ざまぁ系、ねぇ」

 「これに関しても言いたいこと、たくさんあります!!」


 机から身を乗り出して、出雲は熱のこもった視線を向けてから。そんなに見つめられたら……うーん、照れない。


 「そのいち!内容以外で、結末分かりすぎ!!」

 「と、言いますと?」


 「あらすじとかタグとか、タイトルそのものですよ!」


 あー、そういうことね。これは俺にもすぐわかった。


 「〜もう遅いとか、〜なので結構です、的な単語が題名に入ってたり、なんならタグにざまぁとか入れてる奴な」

 「その通りです!ネタバレとかそういう次元じゃないでしょ!」


 タグとは作者が設定できる、その作品の()()的なものだ。学園モノだったら「学園・日常・青春」だったり、世界観の説明のために「中世・現代・近未来」みたいにつける。ジャンルと言えばもっと分かりやすいだろうか。


 「ざまぁ系の作品において、ざまぁって最大の見せ場で、盛り上がる場面わけじゃないですか?それが全部わかってて、何が面白いんだろうっていう?っていう!」

 「あーまぁ、確かに?」


 「いわばな○う読者は、分かりきった内容の作品を、分かりきったままで読んでるわけですよね?正直、意味わかんなくないですか?」


 あ、ついに言った。多分伏せ字にしても、おそらく意味のない単語出た。


 「はい、ホラー系も同じだろと思ったそこのあなた!違いますからね!ホラー系は根元に恐怖というテーマがあるわけですから、そもそもちがう次元の話です!」

 「思ってないし、誰に向かって言ってんだよ」


 「ともかく!長文×ざまぁ系って、その文字列を見るだけで、全部わかっちゃうんですよ!酷い作品だと、あらすじに全部載ってますもん!『一方そのころ……主人公を追放した勇者パーティは……』じゃないですって!下についてるざまぁタグが、全部物語ってるんですよ!!」

 「確かに、ざまぁされてるシーンって、面白さ云々は別としても、驚きは一切ないな」


 読者にとってそれは、サプライズでもなんでもなくて、最初から決められていた結末なのだから。

 

 「言わば『この作品はこういう内容ですよ〜』っていう説明を、それはもう丁寧に受けてから読んでるわけですね。さながら友達が履修済みのアニメを一緒に見て、隣から『あ、ここ伏線ね』とか言われてるようなもんですよ?」

 「あれ、なんか腹立ってきたな」


 確かにそれでは、内容を十分に楽しめないじゃないか。


 「これは長文モノお腹いっぱい現象の、原因の一つでもありますね。だってあらすじで、賢明な読者諸君なら、全部()()()()しまいますもんね」

  「そうだな。確かに()()()()しまうな」


 そう言って、ニヤリと目を合わせる俺たち。


 何やってんだろ。


 「ではそのにです!そのに!」


 一息ついて、彼女は進める。


 「現実恋愛に長文ざまぁ系が蔓延るの、なんなんです?」

 「それは、すごく、わかる」


 ここにきて彼女の言わんとしていることが、一瞬で、わかってしまった。いや、理解った。


 「恋愛してねぇよなあれ。だってざまぁがメインじゃん」

 「そうなんですよ!もうざまぁがセットになってるやつが多すぎるんですよ!!」


 賛同されたのが嬉しかったのか、彼女は身を乗り出して捲し立てる。いつか壊れそうだな、机。


 「というか、私は恋愛が見たいんですよ!なのに一々ざまぁざまぁざまぁ……なんですか!?誰かを不幸にしないと幸せになれないんですか!!??」

 「それは、ほんとに他のジャンルも同じ感じだよな」


 どのジャンルでも、主人公の当てつけのようにざまぁされていく奴がいる。誰かを下げて、主人公の位を相対的に上げるのだ。


 「まぁファンタジー系は?バトル系はわかりますよ??勝者がいて敗者がいるわけですからね。でも、恋愛は別でしょう??だって、失恋した時点で、可哀想じゃないですか!!」


 そうなのだ。わざわざ可哀想な目に遭わさなくていいのだ。だって、負けヒロインはそれだけで憐れみの対象なのだから。


 「最初からヒロインとイチャイチャしとけよ!わざわざ『その頃一方……』って展開にする必要あります!?」

 「ないなぁ」


 「でしょ!?しかもこれの厄介なところは、長文モノじゃなかった時ですよ!あらすじでわかれば自衛できますからね!でもそうじゃなくて、いきなり風俗落ちさせられる元カノ見せられて、こっちはどんな顔すればいいんですか?可哀想は、無差別に可愛いわけじゃないですからね????」

 「言いたいことはわかる。だからな、一旦落ち着け?」


 どうどう。な?机ミシミシ言ってるから、ね?


 「だからぶっちゃけ、彼らはざまぁができれば何でもいいんですよね。その土俵に選ばれたのが恋愛ジャンルってだけで、そこにファンタジーとの差はないわけですよ」

 

 つまり彼らが書いているのは、厳密には恋愛小説ではないと?

 

 「私はそう思ってますよ?失恋に悲しむ女の子は、描写として恋愛作品に深みを与えてくれますけど、その女の子がひたすら苦しむ描写って、本当に恋愛作品に必要ですかね?」


 確かに、やりすぎなのかもな。恋愛作品という括りでは、その少女もまたヒロインであり、読者にとって魅力的であるべきなのだから。


 「作品に重みがないんですよね。だって結末がわかってるから。主人公が誰を選ぶのかわかりきってるし、誰が不幸な目に遭うのかもわかってる。そんな予定調和、読んでて面白みがないんですよー。それがランキングに並ぶ毎日……正直、ね?」

 

 そう言って項垂れる出雲。気持ちはわかるよ。


 「俺もいつしか、毎時ランキング見るのやめたもんなぁ」


 「まぁ、そのにはこの辺にしときましょう。正直まだまだ文句はありますけど、時間もなくなってしまいますし」

 「さいですか」


 時間、ね。そんなにまだ時間は経ってないんだが?これからの話が長くなるってこと?


 「では大事な大事なそのさんです!」

 

 またぶっ込んできそうだな。


 「果たしてざまぁが無いその主人公に、魅力はありますかね?」

 「ざまぁが無い主人公?」


 と、言いますと?


 「作品としての価値ですね。ざまぁを抜きにしてその作品を読んだ時、果たして主人公に、そのヒロインに魅力が溢れているかって話です」

 

 そりゃあ、あるんじゃないか?仮にも主人公として描かれた登場人物だ。そりゃ特徴や人を惹きつける要素があって然るべしだしな。


 「じゃあ質問です。主人公の目的ってなんですかね?」

 「目的?そりゃ作品によって変わるだろ」

 

 魔王を倒す?囚われた姫君を救う?スローライフ()を送る?何だってあるだろう。それこそ、作品の数だけあっておかしく無い。


 「実はそうでも無いですよ?主人公の目的は決まってます。『ざまぁを遂行すること』です」


 かなりメタい話になりますけどね、と彼女は続ける。


 「言ってしまえば、主人公は舞台装置です。ざまぁを引き起こすためのトリガーであり、言い換えればそれだけでしかない」

 「それは、でも、舞台装置なのは当たり前じゃ無いのか?」


 だって作者が作り上げた舞台の、一つの装置であるのはどの作品だって同じじゃないか?


 「ええ、そうですね。だけど『ざまぁ』作品に多く見られる特徴として、ざまぁ特化であることがあると思うんですよ」

 

 ざまぁ特化、か。


 「望ましいのは、目的のために進む主人公が、その過程でざまぁすることが、作品としては健全だと私は思うんですよ。だけどそれらの作品群は、ざまぁのためにざまぁする。先ほども言った通り、タイトル通りのことしか起こらない」

 「まぁ、それは確かにそうかもな」


 結末のわかる作品に、ワクワクしないのは道理だ。


 「だから着眼点が、『どこまで敵役が不幸になるか』になってしまう。ほら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()んですよ」

 「た、確かにそうかもしれん。正直、主人公のことを気にしながら読む作品じゃない気がしてきた?」


 「ええ、そうですよ。どれだけ敵が不幸になるか。それを美しく見せるのがざまぁ作品であり、最近の主流だったわけですね」


 彼女は続ける。


 「それでも面白い作品は、その辺がしっかり描写されてるんでしょうね。どこまでいっても、それは『主人公の物語』になっているとか」


 なるほどなぁ。んーでもやっぱり。


 「それでもやっぱり、わかりやすいってのは一つの魅力だと思うけどな」


 分かってたって、読む人間がそれで面白ければいいのだ。そして流行るということは、読者にとってそれは十分で、作品として破綻していないことを表すわけで、メリットたりうると思う。


 「ええ、私もそう思いますよ?てか、何なら私も好きですし。()()()()()()()()()()()、好きなジャンルなことは間違いないですよ」


 あら、そうなのか。てかそう言えばこいつ、曇らせ好きだったな。


 「じゃあなんでここまで?」

 「それは懸念です」


 「懸念?」

 「ええ、先輩も先ほど言ってましたよね?毎時ランキング読むのやめたなぁって」


 ああ言った。一番の理由としては、似たようなタイトルがたくさん並んでるからたが。


 「それはきっと、先輩だけじゃないと思ってます。どころか主語をでっかくすれば、それは市場にまで及ぶと考えています」

 「市場とは大きくでたな。つまり、ざまぁ系はもう廃れていくと?」


 「それに近いかと。正確には、より内容が重視されていくのではないかと」

 「内容か。だからさっき、ざまぁががない作品がどうとかって言ってたのか」


 そう言うことです、と彼女は続ける。


 「読者の皆さん、もうタイトルで「面白そう」って言うようなフェーズは超えてるんですよね。だからタイトルには簡単に釣られない。そうなるとあとは、内容による差別化が起こります。そうなったとき、果たしてどれだけの作品が生き残れるでしょうか?」

 

 問いかけに、俺は答えられない。


 「私はほとんどの作品がダメだと思います。だって、ハードルが高いから。ざまぁ系にはこれから、相当のクオリティと独創性が求められるます。ありふれたテンプレート作品であったはずなのに、何よりもオリジナリティを求められてしまうんです」


 彼女は続ける。


 「要は穴埋めでよかったんです、これまでのざまぁ系は。面白いテンプレートに、少し能力をひねれば、量産型ざまぁチート主人公の出来上がり。それが面白いと言う共通認識のもと生産消費を繰り返し、結果似たような作品が溢れかえった。そしてそれに、消費側は気がついている」

 「つまり、長文ざまぁ系はすでに限界だと?」


 いぐざくとりーと、彼女は辿々しい英語を披露した。俺も横文字好きだけどさぁ。


 「まぁぶっちゃけ、そうしたら次の流行りができて、それの繰り返しかもしれませんけどね?その時はその時です。面白いジャンルが生まれるのは喜ばしいことですから」

 「そうだな、その通りだ」


 なんか着地した。話の熱からしたら温厚な落とし所?


 てか、つまり何が言いたかったんだ?


 「先輩も気をつけてくださいね?」

 「ああ……気をつけーーえ?」


 気をつけるけど、ってなにが?


 「そりゃあ決まってるじゃないですかぁ!」


 どうやら決まっているらしい。何が?


 彼女の好み。市場の現状。そしてこの明らかに企みのこもった目。


 ーーーー嘘でしょ?


 俺は悟った。理解った。気づいてしまった。


 思い返せばここで、出口に向かってダッシュすれば間に合っただろうか。や、無理だっただろうな。だってすでに、ガッチリ腕を抱え込まれている。


 かくして、幕は切って下ろされた。


 「先輩が最高の作品を作るんですよ!!」

感想欄では、出雲ちゃんとお話しができます!


評価等々よろしくお願いします!!

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[一言] 書き手にする為の洗脳だったのかw
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