考察2 「勇者パーティを追放された俺、真の力に目覚めて無双する。〜可愛いお嫁さんも手に入れて人生勝ち組です〜」に関するあれこれ
出雲との語らい?があった翌日。すでに最後の授業は終わっており、あとはまっすぐ帰路に着くだけだ。
「どうすっかな」
天気は晴れ。昨日のように部室に行く理由は無い。
昨日あれから、別に確かな約束をしたわけじゃ無い。だからこのまま家に帰っても、別に何も問題は無いのだが。
「あ!先輩!まだ教室いたんですかー?」
少しざわついていた教室が静まる。クラスメイトたちの視線は、教室の入り口で声を上げた出雲と、その問いかけ先の俺に集まった。
「早く行きますよー!私ここで待ってますからねー!」
「い、今行くから!頼むから静かにしてくれ!」
めちゃくちゃ恥ずい。なんかニヤニヤした視線を送ってくるクラスメイトもいるし、これは確実に追求されること間違いなしだ。
(別に、嫌々行くわけじゃないけど)
実際昨日の語らいは、なんだかんだ楽しかったのだ。だから今日だって部室に行っても良かった。いや、むしろ乗り気だったまである。
なのになぜこんな、生温かな視線を向けららなきゃならんのだ!くそっ、注意するのも意識してるみたいで恥ずかしいし!
「ほらっ、早く行きますよー」
俺は視線から逃げるように教室を出た。
出雲の晴れやかな笑顔を見て、なんか猫みたいだなって思った。
ーーーー
「勇者パーティを追放された俺、真の力に目覚めて無双する。〜可愛いお嫁さんも手に入れて人生勝ち組です〜」
「急に何を言い出すんだよ君は」
部室に到着し、とりあえず座って落ち着こうと思った矢先、出雲はそんな一文を詠唱してきた。
だけどまぁ、聞き馴染みあるなぁ。
「今日のお題は『勇者パーティを追放された俺、真の力に目覚めて無双する。〜可愛いお嫁さんも手に入れて人生勝ち組です〜』です!」
「いや長いて!頭おかしくなるからやめてくれ!」
てかそれはお題というよりただのタイトルだろ!確かにそういう長文タイトル多いけどさぁ。
「いわゆる長文モノに関して、私は色々と物申したいんですよ!!」
「お、おう……そうなのか?」
どうやら今日はそういう回らしい。今日はも何もまだ2回目なのだが。
「とにかく!今日はとことん付き合ってもらいますらね!」
「部活は?」
「サボります!」
「さいですか」
まぁ、ここにきた時点でわかってたけどね?
「まず先輩にお聞きします!こういう長文タイトル作品、最終回まで読み切ったことありますか?」
「それはもちろんあるさ。俺は基本的に更新されているのは全部読むタイプだし、原作なら全巻揃えちゃうしな。あ、でも、あれ?改めて言われるともしかして」
あんまりない、かも?
基本的に一気読みタイプなのだが、確かに最終回まで読み切ったことってあんまりないか?
「ないでしょうね!だって!完結してないから!」
「た、確かに」
このタイプの作品で、完結してる作品を俺は数個しか知らない?
「や、でも、それはさぁ。最後まで書籍化してない作品もあるし」
売れ行きによっては続きの巻が出ず、いわゆる打ち切りにされてしまう作品もある。そういった事情もあるのでは?
「そうですね。でしたら条件をつけましょうか」
部室の端に放置されていたホワイトボードを使い、出雲が提示した条件はこんな感じだ。
条件1 連載小説として、ネット上に公開されている作品
条件2 異世界ものであること
条件3 書籍化済みかは問わない
条件4 現在も連載中であること
「1から3はわかるけど、条件4の現在も連載中であることっていうのは?」
「何らかの事情で、打ち切られていないって意味です。要するに作者が、名実共に作品を閉じていないかってことです。まぁぶっちゃけ、そこは無視しても構いませんよー」
そう言うことなら、あまり気にしないことにしよう。
「さて質問です。どうしてこうも、完結していない作品が多いんでしょうね?」
「そりゃあ、あれじゃないか?作品の展望をあまり練らないで、見切り発車で書き始めちゃうからとか?」
これはネット小説の、良いところでも悪いところでもある。要は誰でも、どのタイミングでも、そしてどんな作品でも公開できるわけだ。だから未完成の作品が大量に溢れる。
「それもありますね。未完成でも途中経過で、読者の反応を知りたい作者もたくさんいるでしょうし」
ですが、と彼女は続ける。
「私はもっと大きな理由があると思うんですよね。特に長文タイトルものに関してですけど」
続ける。
「『勇者パーティを追放された俺、真の力に目覚めて無双する。〜可愛いお嫁さんも手に入れて人生勝ち組です〜』って言われて、ぶっちゃけもう、タイトルでお腹いっぱいなんですよね」
「あーそれは確かにわかるかも。だってもう、あらすじで完結してるもんな」
「そうなんです。ある程度の読者なら、タイトルとあらすじ見ただけで、どんなストーリーがどんなふうに展開されていくか、読めちゃうんですよね」
「確かに」
それは思ったことあるわ。展開が読めるも何も、そこに書いてあるんだもんな。
「でもさ、読んでみたら意外な展開かもよ?」
読む前からありきたりだと思うのは、少し早計じゃないか?
「だからこそ、長文タイトルは良くないと思うんですよね。『あーはいはい。こういうタイプの作品ね。勇者パーティはざまぁされるのねっ』って思われたら、ワクワクも何もありませんよね?正直な話、読む気なくなるんですよね」
「た、確かに」
ま、まずい。このままじゃ確かにbotと化してしまう。
「さて、ここで一番の問題が出てきます。どうして完結まで持っていかれないか、ですね」
うむ。続けたまえ。
「要はお腹いっぱいなのは、読者だけじゃなくて、作者も同じなんじゃないかなって思うんですよ」
「作者も?」
作品を書いてる張本人なのに?
「これは多くの作品に言えることだと思うんですけど、タイトル回収が早すぎるっていうのが問題なんですよ」
「タイトル回収……あー!!そういうことか!!」
ここでようやく、出雲の言いたいことを理解する。
「第一章で真の力に目覚めて、可愛いお嫁さんをゲットするところまでやっちゃうってことか!」
「いぐざくとりー!!そういうことです!」
つまりだ。一番書きたい部分であろうタイトル部分が、早々に書き終わる。
なぜって?そこしか考えてないから!そこがメインの作品だから!
「つまり作者も、タイトル回収して満足しちゃうんですよね。そこからは単純作業です。かわいそうな女の子を生み出して、それをハーレムに入れて、それの繰り返し。先輩もありませんか?更新されているところまで読んで、ブックマークはしたけれど、その後全く手をつけていない作品が!!」
「あるな。めちゃくちゃある。だけど正直、続きが気になってるわけでもない」
「そうでしょうね。だってその時点で、きっとタイトルは回収されていて、後は単調な物語が続くんですから。要するに自分のつけたタイトルに、首を絞められているわけです」
うーん。でも、でもだよ?
「それでもやっぱり、長文タイトルで人気ある作品もたくさんあるだろ?」
「そんなのあれですよ。タイトル関係ないぐらい面白いからですよ。面白さが全てに勝ってるから成立するんです。本当に面白い作品は、タイトル関係なく売れるときは売れるんですよ。まぁだから、その辺は例外ってことで!」
結構強引だな!で、でもだ!
「それでも読んでもらわなきゃだろ?だからある程度目を引くタイトルっていうか、見てわかるタイトルにしなきゃいけないんじゃないか?」
まず読まれなきゃ意味がないんだからな。
「それです!私それにも言いたいことあります!」
彼女は食い気味に続ける。
「ちょっとみんな、タイトルで勝負しすぎじゃないかと。というよりも、PV気にしすぎじゃないですか?」
「PVを気にしすぎ?」
PV。つまりは読まれた数ってことか?
「読んでもらえればそれでOKって作者はいいですよ?でも!評価をちゃんと気にしてるくせに、3〜4桁台のPVをSNSに上げちゃう人とか!何言ってんだこいつ?ってなるんですよ!!」
「お、おいおい」
やばい、勢いと圧がすごい。これ本当に俺に向けて話してます?
なんかもうこれ、長文云々の話じゃなくなってませんか?
「PVなんてですね!4桁ぐらいすぐに稼げるんですよ!だってあれ、作品全部に目を通さなくてもカウントされるんですから!わかります?PVなんてタイトルで稼げるんですよ!大事なのは!ブクマと評価でしょ!」
ブクマ、つまりブックマークをしてもらうこと。読者にとっての栞みたいなことで、続きを読みたいって思ってもらうことか。
「そういう奴に限って、ブクマ1桁を恥ずかしがってSNSに上げないんですよ。なんで!逆でしょ!1000のPVより一人のブクマ!!その凄さに気づいてない人多すぎるんですよ!!ありがとうございます!励みになってます!!」
彼女の嘆きは終わらない。てかこいつ。
「そんでPVとブクマ数の差に勝手に萎えて、自分で筆を折っちゃうんですね。意味わかんないですよね。読んでもらうためのタイトルで、内容で勝負できていない証拠ですよ」
あぁ、もうこれ間違いないな。こいつ……
絶対、書いてる。
だって完全に、作者目線の意見が多すぎるもの。
と言うかいつの間に書籍とかアニメとかの話じゃなくて、ネット小説限定の議題になった?最初から?それじゃあ仕方ないか。
「もうすでに、長文モノは珍しいものじゃありません。だから物珍しさじゃなくて、面白さで戦うしかないんですよ。だからあらすじと最初ぐらいは読まれても、よっぽど面白くなきゃ読まれないんです。だから長文タイトルには、そろそろ限界が来ると思ってるんですよ」
流石に書いてるだろとは指摘しない。知られたくないタイプかもしれないしな。うわ、でも、どうしよ。出雲の作品長読んでみたいかも。
「さて!長文タイトルの現状を語ったところで、ここからが本題です!!」
え、ここまで前菜?ちょっとそれはカロリー高すぎませんか?
「長文モノのお約束。今や恋愛ものでもお約束になりつつある……『ざまぁ』についてです!!」
感想欄では、出雲ちゃんとお話しできます。
ブクマ評価等々、宜しくお願いします!!