曇らせたがりな君と雨
文芸部。
読んで字の如く、「文」で「芸」をする部活動のことだ。
だけどまぁ、どこの文芸部もそんな生真面目というわけがなく、例に漏れず我が文芸部も、そういう括りの中では不真面目な部類である。学誌なんて当然出してないし、そもそも存在すらほとんど知られていない幽霊部である。
部員も俺一人だ。我が校はいわゆる部活強制校であり、誰もがどこかの部活動に所属しなければいけない。
去年までは先輩が二人いた。だけど俺の入部以降新入部員はゼロ。そして今年、高校3年の春、晴れて文芸部最後の年となること決定した。
とはいえ、悲観することも全くない。別に思い入れは全然ないし、そもそも部室に来ることも、普段はほとんどないのだから。他にも幽霊部はいくつかあって、俺みたいな幽霊が特段珍しいわけでもないしな。
だから、偶然だったのだ。
その日は午後から雨が降っていて、俺は傘を持ってくるのを忘れていて、雨が止むまでの時間潰しに、部室で一人読書に勤しんでいた。
「えあっ!?文芸部って部員いたんですか!?」
まるで珍獣を発見したかのように、彼女は素っ頓狂な声をあげた。
これが彼女とのファーストコンタクト。
雨はまだ、止みそうになかった。
ーーーー
「あめ先輩はどんなジャンルが好きなんですか?」
「うーん。俺は正直雑食だからなぁ。格式ばった難しめの本も読むし、単純明快なライトノベルも読むし」
正面に座る後輩ーー出雲ことーーは、元気にそんな質問を投げかけてきた。
ちなみに一年生で、歳としては2個下である。
背は普通と称する高さで、髪は茶髪気味のセミロング。いかにも元気という言葉が似合う、そんな見た目をしている。
自己紹介はあっという間に終わった。いきなり元気よく名乗られたかと思ったら、そのままの勢いで名前を聞かれるもんだから、つい答えてしまったのだ。
ちなみに俺の名前は、天城あめ。
ひらがなで「あめ」である。正直小さい頃は、この名前が嫌いだった。キラキラネームみたいなもんだと思ってたし。苗字と合わせた言葉の響きが、最近になってやっと気に入ってきたというか、やっと受け入れられてきた。当て字とかだったら本当に悩んでいたと思う。
お互いひらがなで、内心親近感が湧いたのはまだ内緒だ。
いきなり名前呼び名で距離感の近い後輩に、内心ドギマギしてるのを隠しつつ会話は進む。
「はぁ〜。まだ存続してるの知ってたら、文芸部に入ったのにー!」
「それは、なんかすまんな」
なんでも、入学してからすぐに文芸部を訪ねたものの、そこには部員が誰もいなくて、すでに消滅したものと思ったらしい。
「それで、テニス部のサボりにこの部室を使ってたと」
「そうなんですよー。ぶっちゃけ友達に誘われて入っただけで、全然やる気もなかったですしー」
他にもそういう部員は多いらしい。もともと楽しむのに重点を置いてる部活だし、サボったところで大して怒られないのだとか。
「ここだとたくさん本がありますし!時間を潰すには最高なんですよ!でも、知らずとはいえ勝手に使ってたのはゴメンナサイ」
「それに関しては、本当に気にしないでいいよ。確かに、歴代幽霊部員が置いてった本がたくさんあるもんな」
実際、本好きにはとても楽しめる空間だろう。かく言う俺も、この部室にある本はほとんど読んだ。それも部室ではなく家でなのだが。
「私もめっちゃ本読むんですよ!!それはもう!たくさん!」
「お、おう。そうなのか?」
だからどうしたと、直接言うことは無いけれど内心思う。別にそんなこと、特段アピールすることでもないだろうに。
「これはもう!語り合うしかないですよね!」
「語り合うって、あーそういう感じか!」
彼女の言葉に、なるほどと思った。要は彼女は自分の読書歴と、その感想を共有したいのだ。
気持ちはわかる。そう言う感想とかって、共有することで得られる気持ち良さがあるよな。文芸部を訪ねたことがあったのも、もともとそう言う願望があったからなのだろう。
「そう言うことなら、俺でよければ相手になるよ」
「本当ですか!やったぁ!」
笑顔いっぱいで喜びを表現する出雲。まぁ今日だけの付き合いだ。話していて気持ちのいいやつだし、相手をするのに苦なタイプじゃないしな。
「それじゃあ早速、記念すべき第一回のテーマはーーーー」
まるで第二回が決まってるかのような、そんな言い回しにツッこもうとしたが、俺は彼女の言い放ったテーマに、言葉を失ってしまった。
「『エルフの森は燃やされるべきか!』です!!」
評価等々、宜しくお願いします!