第2話「ドラゴンのお客様!?」
身なりはすごく大事よ。ちゃんと整えないと。
見なさい、この盛り上がった上腕二頭筋、割れた腹筋、そして立派な大腿四頭筋。
まぁこんなところね。
いつもの赤い服を着て、真っ赤な口紅を付けて、赤い頭巾を身に着けて、準備完了。
男なのにどうして女性の服を着ているのかって?これが私のスタイルなの!!
私は恋の導き手、愛の伝道師、出会いのスペシャリスト。
この私が結婚相談所を作るまで、街は1人さみしく歩く子羊で溢れかえっていたわ。
どうして?どうしてみんな狼のように狩りをしないの?
どうして鳥のように羽ばたかないの?仕方ないわね。
このわ・た・し・が、教えてあげないと。
部屋を出て、家を出て、街道を通り、自分の店まで歩く。
背筋を真っすぐ伸ばして、堂々と。店はまだ開店前。
でも今日も予約がいっぱい。気合い入れていくわよ〜。
扉をドーン。
「み〜なさ〜ん。ごきげんよ~。」
あら?なんだかいつもより騒がしいわね。何かあったの?
そうねぇ。とりあえず所長に話を聞こうかしら。
「ちょっとあなた。何かあったの?」
「あっオーナー。大変です。」
「それじゃわからないわよ。落ち着きなさい。」
「はい。すみません。それがですね。つい先ほどなのですが、ドラゴンが来ました。」
「ドラゴン?」
何よそれ。どういうこと?
「そうです。それで、うちに登録したいと要求してきまして。」
「なんですって~!!」
ドラゴンのラブロマンス?ビッビ〜ン。シビれる。シビれるわ〜。
そんな面白そ、いや、名誉な依頼がくるだなんて。
「それで?ドラゴンのお客様はどうしたの?」
「え?あぁ、とりあえずアンケートを答えてもらい、お帰りいただきました。」
帰らせた?何てことしてくれるのよ、せっかくの機会なのに。
「んもぉ〜。どうしてそうなるのよ。ドラゴンのお相手探しなんてそそるじゃないの。」
「え〜?しかしですね。どうもドラゴンは人間の相手を探しているようでして。」
ドラゴンと人間のラブロマンス?
種族の壁を越えながら、困難に立ち向かいながら、
周囲の反対を押しのけながら、積みあがっていく真実の愛。
良いわね。すごくいい。
「なら良いじゃない。私たちはそのスペシャリストよ。」
「でもドラゴンですよ?交際したいと考える男性なんていますか?」
「馬鹿ねぇ。ドラゴンは人間態になれるのよ。
異種族との恋愛を望む人は少ないけれど問題はないわ。
というかメスドラゴンだったの?」
「そうです。それと。」
「それと?」
「これは確証はないことなのですが、ドラゴンの特徴から考えると、
おそらく例のランクSSSです。」
SSS!!100年間にわたってあまたの強者を退けつづけ、
あの王国の騎士団長ですら敗れてしまったという。
なんということ。いや、ダメよ期待しすぎちゃ。
間違いだってあるんだから。
「結構なことじゃない。アンケートは取ってあるのよね?見せて頂戴。」
「はい。こちらです。」
どれどれ?ドラゴンさんのお好みは?あら?ずいぶんと控え目ね。
こんなものなのかしら。
「ねぇ。ドラゴンさんは人間のことをよく知っていたの?」
「はい。よくご存じでした。
なんでも"今まで高望みしていた"とかで、平均的な方との交際を望んでいるそうです。」
「このおバカ!!」
「え~~!?」
「ドラゴンは高貴な存在なのよ。
平均的な人間なんてふさわしくないわ。良いでしょう。
私が探してきます。お待ちなさい。」
ドラゴンが妥協するだなんて、許せないわ。
絶対にふさわしい人間を見つけ出してあげる。
扉をもう一度ドーン。
私にはね、心当たりがあるのよ。待ってらっしゃい。
私は知っているのよ。この街に勇者が滞在していることをね。
どうして知っているかって?そんなの企業秘密よ。
でも目的までは教えてもらえなかったのよねぇ。
何かと戦って、ボロボロになって帰ってきたって聞いているから、
きっと強大な敵と戦っているんだわ。
まったく。そんな大事なことを街のみんなに隠しちゃうなんて。
この街の隠蔽体質にも困ったものね。
まっ、勇者が来たから問題ないっていう考えもわからないではないけどね。
とにかく、勇者ならドラゴンさんのお相手として申し分ないわ。
たしか、あのホテルに滞在しているのよね。
では早速。扉をそ〜と開けて、あとはアポを取るだけね。
あ~~。こんなに待たされたのは久しぶりだわ。
でも勇者相手なら仕方ないわね。
さてと、身なりは整っているし、問題ないわね。
それでは気を引き締めて。ドアをコン、コン。
「どうぞ。」
「失礼します。今日はお時間をいただきありがとうございます。」
「うん。ずいぶん個性的な格好だね。」
「はい。よく言われます。ご容赦いただければと。」
「ふ〜ん。まぁいいけど。」
あれまぁ。思ったのと、かなり印象が違うわね。
もっと礼儀正しい青年を想像していたのだけれど。
ちょっとチヤホヤしすぎているんじゃないの?これ、大丈夫かしら?
「どうしたんだい?早く要件を行って欲しいんだけど。」
「これは失礼しました。
私は結婚相談所という店を経営しておりまして、
人々の結婚の支援を生業とさせていただいております。」
「ふ〜ん。それで?」
「実はこの度、ドラゴンのお客様から結婚の支援をしていただきたいとのご依頼をいただいております。」
「ほう。」
「私どもといたしましては、ドラゴンにふさわしいお相手をご紹介申し上げたく。
勇者様がご興味をお持ちであれば、是非ともご紹介させていただければと。」
「なるほどね。そうだなぁ。せっかくだし会ってみようかな。」
「本当ですか。よろしくお願いします。詳細は追ってご連絡いたします。」
「うん。よろしくね。じゃぁこの後用事があるから。」
優雅に会釈。そのままホテルを出て、お店にGO。
それにしても生意気な子。勇者じゃなかったらひっぱたいてやったところよ。
それにあの立ち振る舞い。ちゃんと鍛えているのかしら?
まぁいいわ。私の仕事は、ふさわしい相手を紹介することよ。
早く帰って書類を整えなくっちゃ。
お読みいただきありがとうございました。
作風の参考にしたいので、
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