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「アルカディア魔法学園の歩き方」~七人の問題児が聖杯戦争に挑むようです。~  作者: 鬼屋敷 夜雲
序章 アルカディア魔法学園入学編
7/19

第5話 どういうことですか!

 ────私の手には、確かにしっかりと()()()()()が握られていた。

「黒?!!」

「黒の、キング─────?!!」

殆ど同時に発される驚愕の声、確かに私の手の中には紛れもなく黒のキングがしっかりと握られている。

でも、黒のキングは確かに"()()()()()()()()()()()()()()()()()()()"であるはずに間違いは無い。

いや、それ以前に私の手を握ってきたあの手はなんなんだ?

 一斉にどよめきが大講堂中に広がる、学生や教師達は次々に口に出しながらその動揺が見て取れる。

中にはそれを収めようと声を張り上げる声もある。

とはいえ一向にそのどよめきが収まる様子は無い。

その異常事態に皆が慌てふためく中、その大勢の人の中から強烈で複雑な感情を持った視線だけが私を貫くように見つめていた。

だが、大講堂で起きたイレギュラーによるパニックのせいで私も思わずつられて慌てる。

「静かに!!!」

ガランガランガランッと小さな鐘を乱暴に鳴らし、学園長の荒い声が大講堂中に響き渡る。

はっとしたように一斉に静まり返る大講堂。

学園長に助けを求める長身の先生、私もこの状況に対してどう言った反応をすべきか分からず立ち尽くすばかりだった。

誰もが言葉を発することが出来ないこの場に、軽く咳払いをした学園長は───ようやくその重い口を開く。

「この学園が始まって約1000年余り、私もこの学園長を勤めてから長いですが……歴代の学園長も含めて一切見ることがなかったストレイナイツをこの目で見るとは思いませんでした」

「───── やはり、あの"()()"は本当だというのですね。」

長身の先生が、学園長に続いて言葉を漏らす。

学園長は私の方を一瞥し、静かにはっきりと頷く。

状況が一切読み込めない中、私はただこの目まぐるしい状態にただ呆気に取られるだけだった。


 正直、この後どうなったのかはいまいち覚えていない。

気づいたら私は、また再び学園長室へ戻っていた。

でも最初の頃の学園長の説明とはまた別に、クロウディア先生、学園長、長身の先生の3人によって囲まれる形で私はその席に着いている状態だった。

「それで?学園長、エヴァンズ先生。このグッドフェローズにどう説明したらいいですかね。」

まるで蛇が蛙を睨めつけるような目で私を見る、やめてくださいそんな目で見ないでください怖いです。

「まぁまぁ、どうにかこの場を収めたとはいえ……確かに彼だけにでもしっかりと説明する必要はあるでしょうね。」

「それはそうですが、この学園の歴史1000年において異常事態ですよ。これがどう転ぶかだなんて……」

長身の先生、エヴァンズ先生はそれこそ青い顔をしながら私の方を一瞥してブツブツと何かを呟いている。

正直私も何がなにやら分からない、ただ袋の中の手に掴まれたからこうなっだけだと……そう言っても誰が信じるのだろうか。

「でも、私が袋の中に手を入れた時……その、誰かが私の手を掴んだんです。」

恐る恐るだが、軽く手を挙げながら私はありのまま起こったことを話す。

「何ですって?!!」

「いやあの嘘じゃないです!!!本当にいきなり手が掴んできてビックリしたんです!!!」

怒られたかと思って身体が跳ねる、それを確かめるように聞いたエヴァンズ先生は軽く溜息を吐く。

そして確かめるよに学園長へと顔を向ける。

ビビり散らす私に、学園長は静かに私の方へと移す。

「私はこれを嘘だとは思ってませんよ、しかし───…これだと、恐らく各地には"()()"がその場に現れたということになるでしょうね。」

「だとしたら、この後此方にも連絡が来るでしょうね。」

「やれやれ、こんな奴がまさかこんな事を巻き起こすとは………世の中は分かったものじゃないな。」


 先生達が口々に呟き、また再び私へと一斉に向けられる。

本当に今日一日なんだって言うんだ、私がなにか望んでした訳じゃないのにこれはあまりにも酷い仕打ちと言ってもいいだろう。

「クロウディア先生、エヴァンズ先生。ここは私から彼にお話します、お2人は明日の準備に取り掛かってください。」

「えぇ、分かりました。」

「我々は貴方にお任せしますとも。」

学園長の一言に、二人の先生は納得したように返答だけ返し、そのまま部屋を後にする。

残されたのは私と学園長の二人だけ、変に緊張するなぁと感じながら眼前の相手を見つめる。

また刀がカタカタと鳴り始めるが、私は袋越しにぎゅっと握りしめる。

「大丈夫、私達は君の味方だ。」

「確かに知らない世界に来て、こんな大騒ぎになったら君も不安になるだろうね。でも、これは悪い方の騒ぎじゃない………少なくとも、クロさんはきっとこれを予期していたんだろうね。」

ゆっくりと、不安で荒れる私の心を優しく宥めるように学園長は語りかける。

私も色々と聞きたいことがある、その為にまずはこの心を落ち着かせようと……またひとつ深呼吸をする。

「それで、色々と聞きたいのですが。」

「うん、どれから聞きたい?」

「─────まずは、試練についてだけ教えてくれませんか?」

「それでいいのかい?」

「はい、私個人としても預言については知りたいですが………それより先に調べたいこともあるので。」

ようやく絞り出した言葉、ハッキリとした意志を伝えると学園長は困ったように腕を組んで顎を擦る。


 一瞬だけ、間が空いた後に私へと視線を移す。

真実を知りたい、それだけを考えた私は真っ直ぐ学園長を見つめ返す。

「分かった、後で他の生徒達にも教えることなんだがね……実はこの魔法の国を含めた八つの国には、とある伝説が残っている。」


─────とある遠い遠い昔の物語。

 かつて世界には"()()"と呼ばれる災害や害獣などが世界に蔓延っていたという。

人々はその厄災によって多くの被害を出し、ある時は厄災と戦い、そして厄災を退けようとしたこともある。


「だけどね、彼らの力じゃ到底及ばないくらいに厄災の力はとても強かった。」


 このままでは自分達は、ただ厄災によって滅ぶだけの存在になってしまう。

人々は願う、この世界を救う ────英雄が来る事を。

そんなある時、ひとつの流れ星が世界樹の近くへと降り立った。

それが、それこそが紛うことなき世界を救う英雄である「黒騎士」だった。

黒騎士は各地を訪れて、その土地で困っている人々を助け、時にはその強大な力を持って厄災を退けた。

助けられた人々は感謝し、そしてその黒騎士の力になろうとした者たちが集っていった。


「やがてそれは五つの英雄となり、後世では彼らの事を───"五大英雄"と呼ばれるまでになった。」


 五大英雄は次々に世界に蔓延る厄災を全て打ち倒し、そしてその厄災の元凶たる獣を封じ込める事に成功した。

世界を救った英雄、黒騎士はやがて人々に崇められるようになった。

そして世界を救った御礼として神から一つの贈り物が授けられる。

それは"星の祝福"と呼ばれる、一つだけの器を手に入れた。


 ─────星の祝福を手に入れた黒騎士は、その器にたった一つだけの願いを叶えてもらった。

「自分が元の世界へ戻りたい。」

それを聞き届け、叶えた星の祝福は黒騎士の願いの通りにどこかに在る元の世界へと送り返した。


「そして、願いを叶え所有者を失った星の祝福は、その役目を終えて八つの星の欠片へと砕けていき世界へと散って行った。」

「再び、星の祝福を受ける資格のあるものが現れその時に……その星の欠片は集うというものがあるんだ。」

 私は伝説を聞き、思わず感嘆の声を漏らす。

まさかこの世界にもそれこそ"()()()()"のような伝説が残っているとは思わなかったのだ。

それが今こうして、自分がストレイナイツ寮に選ばれたという形でそのおとぎ話と思われていた伝説が現実として起こっているのだ。

「恐らく他の国でも、その試練が今動き出したのを知っているだろうね。」

「その試練っていうのが、もしやその星の欠片が納めている場所というのですか?」

私の推理じみた言葉に対し、肯定するように軽く身を乗り出して悪戯っぽく笑みを浮かべる。

この国を含めた八つの国において、星の欠片を求めて戦争が始まろうとする。

「とはいえ、今まではあくまでその"星の祝福"を求めた試練という名の学園対抗の競技だけは行われていたんだ。」

もしかしたら、今回ばかりはそれ以上のものがあるかもしれない………もしそうなった場合はもう一度君から返答を待つとするよ、と学園長は言った。

 あまりにも現実味を感じないこの状況に、私はただ言葉を詰まらせるだけでしか無かった。

「それはそうと、私の寮はどうしたら良いんでしょうか。」

「そういえばそうだったね、他の寮はあるんだけど………うーん、強いて言うならずっと使われてない屋敷のような場所があるから…そこを使って貰えないかな。」

「分かりました。」

 学園長はごめんよ、と呟き私がこれから過ごすであろうストレイナイツ寮への行き方と地図、そしてその寮の証である黒い羽根、腕章代わりの黒いリボン、そし黒のキングを象ったワッペンのようなものを渡された。

「それでは失礼します。」

私はそのまま学園長室を後にしようとした。

その時、私の背中に向かって学園長から声が掛けられる。

「一応君達の荷物はそれぞれ寮に運んであるからね。

四夜くん、いつでも私を頼ってくれたまえ。」

ありがとうございます、と私は静かに返答を返した。

例え六人のメンバーがいても、どうしようもない事だってある。

そんな時に掛けられた優しい言葉に、私はしっかりと背中を押された気持ちになったのだ。

 こうして、波乱に満ちた寮の選定は幕を降ろすこととなったのだ。

とはいえ、これから向かう寮は一体どんな有様になってるのだろうか。

流石にこれから掃除する必要もあるだろうから、清掃用具を先生から借りようかな………なんて思いながら私は思い足取りのまま静かな学園の廊下を歩いていくのだった。

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