第4話 寮の選定とイレギュラー。
学園長の魔法により、大講堂内に転移された七人。
学園に入っていた時から思っていたが、やはりかなり広い。
大理石で出来た床、数百人程度が収容可能なホール。
何よりも、廊下で見た時以上のシャンデリアの数々……やはりお城的な場所のせいか、煌びやかな場所という印象が強かった。
寮の選定も半ばに入っていたのか、私が確認する限りの人数の大半は既に寮分けされてその寮ごとの列に並んでいた。
「2分オーバーですよ学園長。」
「いやぁごめんごめん、つい話が込み入っちゃってね。」
先程のクロウディア先生が、眉間に皺を寄せながら学園長に詰め寄る。
それに対して学園長の方は悪びれた様子もなく、頭を掻きながら謝罪した。
そそくさと学園長は自分の席へと向かい、クロウディア先生は私達に対して言葉を発することも無く並べと指で指し示す。
私達は先生の無言の指示に従い、半ば渋々並ぶ。
先程の長身の先生が名前を呼び、その呼ばれた生徒が前に立ち……袋の中に手を入れる。
そうして出てきたチェスの駒によって組み分けされるというシステムのようだ。
「では次の方、レイ=エルウッド。前に出なさい。」
「はい。」
名前を呼ばれた1人の男子学生、すらっとした出で立ちでラベンダー色の艶やかな髪が特徴的だった。
呼ばれて前につかつかと歩く姿は、まるでパリコレのモデルがランウェイを歩く様に、それはもう様になっていた。
私は思わずその美しい姿に息を呑む、この世には本当に美しいと呼べる人が居るのだと言うことが思い知らされる。
それとは別に、微かに聞こえる学生達によるざわめき。
よく耳を澄ましてみると、どうやらこの世界における名門貴族と思われる家の出であるようだ。
私にとってはあまり馴染みのない文化性を感じると同時に、やはりそういった名のあるところからも優秀な候補生というものは出るのだな……なんて変な感心を覚えてしまっていた。
先程の長身の先生が少し古臭い皮袋をエルウッドの前に差し出す。
エルウッドはなんの躊躇もなくその皮袋に手を入れ、何かを探すように袋の中をまさぐった。
「袋の中で掴んだものをそのまま袋から取りなさい。」
その言葉に応じ、エルウッドはゆっくりと袋の中から手を引き抜く。
何か紫色の駒のようなものが見えたが、イマイチなんの駒なのかよく見えなかった。
「あれは、クイーンか。」
犬鷲がポツリと呟く、どうやら選定に当たる駒は白黒ではなく何かしらの色があるようだ。
取り出した駒を確認した長身の先生は、大きな声を張り上げる。
「ルミナスマギア寮!」
おぉ───っ!!と歓声が一時上がる。エルウッドは選ばれた紫のクイーンの寮、ルミナスマギアへと向かう。
「やっぱりエルウッドはルミナスマギアか、流石ストレイナイツに最も近い生徒と呼ばれるだけはあるな。」
そんな言葉がふと聞こえる、素質と言うものはそういったところから選ばれるのだろうかと少し考える。
私の住んでいた世界では、そんな差なんて聞いたことは無かった。やはりお国柄や世界によってそういった違いもあるのだろうか………と心の中で呟く。
そんなこんなで、半分ほどまで行っていた寮の選定もまた順調に進んでいく。
だが学園長からも聞いていた通り、次々に出される駒は赤のナイト、緑のビショップ、青のルーク、紫のクイーンといった四種類ばかりだった。
壁に掛けられたタペストリーには………赤のナイト、緑のビショップ、青のルーク、紫のクイーン、そして黒のキングの刺繍が施された5つがそれぞれ掛けられている。
学園が始まって以降、黒のキングだけは選ばれなかったと学園長から聞かされていた。
───黒のキングは、この学園において一体どんな秘密が隠されているのだろうか。
「それでは次、リンリィ=クロスハート。」
「はぁい。」
実の所、大講堂へ向かう直前にこの世界においての自分たちの名前をどうするかを学園長へと伝えていた。
私に関しては、今後のトラブルを考えて偽名を考えておいたが……他のメンバー達も一部はその世界に合わせたように別の名前を学園長へと提示していた。
流石に普段の名前があまりにも浮いてるから、そういった意味で変なトラブル巻き起こしたくないからね!
そんな事を誰に言うまでもないことを言ってる暇は無い。
先程呼ばれたリンリィは、他の人と同じように前に出て、古ぼけた皮袋の中に手を入れる。
そして袋に手を入れてから程なくして、出てきたのは紫のクイーンだった。
「ルミナスマギア寮!」
「ありがとうございます。」
軽く髪を軽くかき上げ、カツカツと優雅な足取りでルミナスマギアの列へと並ぶ。
やはり魔法特化の人ゆえに、選ばれるのも当然だろうと感じる。
「それでは次、エクル=リンドブルム。」
「はい。」
犬鷲が取り出したのは、赤のナイト……リオーネ寮。
「次、ケーナイン=ロウ。」
「はい。」
バルトが取り出したのは、青のルーク………グランツィレーナ寮。
「次、ユーギ=ラピス。」
「はい。」
優義が取り出したのは緑のビショップ、フェイバーウッド寮。
「次、エルド。」
「はい。」
なべが取り出したのは、バルトと同様の青いルーク………グランツィレーナ寮。
ここに来てようやく被りが出た、私からしたら軽く考察しても何がきっかけでこうして選ばれる基準になったのかさっぱり分からないままだった。
「それでは次、スミレ=クロギリ。」
「はい……。」
どうやら気づけば残りは妹と私だけのようだ。
最後に私の出番が回ってくると考えると、かなり緊張してくる。
バクバクと心臓が高鳴る、もう少しで自分の出番となり……一体なんの寮として選ばれるのかが、検討すらつかない。
もしかしたら、なんの寮にも選ばれない………といった可能性すらもあるのだ。
もしそうなったら、私は一体どういう顔をしたらいいのか分からないだろう。
そんなどうしようもない不安に駆られる中、妹である菫は恐る恐る古ぼけた皮袋の中に手を入れる。
慎重にまさぐるように手を動かすのは見え、ようやく何か掴めたのかゆっくりと手を引き抜く。
その手には緑のビショップが握られていた。
「フェイバーウッド寮!」
「あ、ありがとうございます…」
ぼそぼそと呟き、足早にフェイバーウッド寮の列に向かう。
優義が一緒の寮ならば、妹が独りじゃないから多少は安心出来るだろうと胸を撫で下ろす。
「では最後に、アシュレイ=グッドフェローズ。」
私の出番だ、このアシュレイ=グッドフェローズはかつて私が暮らしていた時の名前である。
身体が強ばるのを感じつつ、息を大きく…ゆっくりと吐き出す。
ツカツカと歩き出しながら、一歩一歩しっかりと足を踏み出す。
視線が私に注がれるのを、更に緊張を煽り出す。
私の背中にしっかりと背負われている刀も、私の緊張が伝わったのかカタカタと震え出す。
まだ出てくる出番では無い、と軽く撫でて宥める。
長身の先生の前に足を揃えて立つ。
「この袋に手を入れて、その中で掴んだものを取り出しなさい。」
「はい。」
そうして先程の人達と同様に差し出される皮袋。
私は恐る恐る手を入れる。
感覚としては、まるで粘度の高いスライムのようなものに手を突っ込んで探している感覚が伝わる。
とはいえその中はとても暖かく、手当たり次第に手を動かしていく。
ふと、指先に硬いものが当たる。
だが掴もうとすると、それは複数あるのか……沢山の硬いものに触れていく。
なぞるように手は動かせるが、一向に掴めそうになく……私は焦りを感じながらひたすら手を動かす。
袋を差し出した先生も、やや怪訝そうな顔をしている。
やめてくれ、私も正直何も掴めなくて滅茶苦茶焦ってんだ。
どうにか適当にでも良いから何か掴んでくれ!
そう思った時に、ふと急に冷たいような誰かの手が私の手を握る。
「うわぁぁっ!!」
それに驚いた私は一気に手を引き抜いた。
その手に握られていたのは、今まで見た事がなかった色………─────黒のキングがその手にしっかりと握られていた。