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「アルカディア魔法学園の歩き方」~七人の問題児が聖杯戦争に挑むようです。~  作者: 鬼屋敷 夜雲
序章 アルカディア魔法学園入学編
3/19

第1話 起きたら異世界でした。

 日常というものは、いつだって突然のきっかけが理由で崩れ去ることがあると言う。

それが、例え"()()()()()"などという馬鹿げた理由でも。

─────この日、黒霧 四夜はどうやらいつもの仲間達と共に魔法世界に転移してしまったようです。


 眼前には(そび)え立つ城、とはいえきっと日本のものを想像するより西洋によくあるような、それこそおとぎ話にすら出てきそうなお城。

その城に続く道の前に大きく立ち塞がる鉄の門。

きっと映画を見た事がある人なら、柵のような大きな門。

その両端には、入国審査官のような門番らしき人が二人ほど在住しており、私は思わず立ち竦む。

私を連れてきたであろう馬車の御者はその門番の人に話をしていた。

ふと気になって、自分の後ろを見ようと振り返る。

微かに見える同じような黒い馬車がこちらに向かってくるのは見えてきた。

何故、私がこんな場所に来てしまったかと言うと………覚えてる限りで約数時間程前に遡る。


 私はあの日、夏の残暑が一向に消えないこの9月をどう乗り切ったものかと悩みながら扇風機を付けた。

涼しい風がその羽に回しながら私に向かってくる。

今日の仕事もようやく終わり、やってくる人もいない。

それだけでも充分に良い休日が送れそうだと感じながらベッドに横たわる。

特に何をするつもりもないが……天井を見つめながら、静かに何をしようか考えを巡らせる。

久々に自分の趣味に耽るのも良い、何だったら図書館に行って読みたい本を一日読み漁るのも良いだろう。

そんなことを考えていくうちに、私の意識は徐々に深い深い眠りの海の中に沈みこんで行った。


 ───次に聞こえたのは、いつもの自分を起こすような声でもなければ、近くの雀の(さえず)る鳴き声でも無かった。

小刻みにガタガタと揺れる様な感覚、パッカパッカパッカパッカとリズミカルに聞こえる馬の足音。

そしてそんな退屈さを凌ぐように微かに聞こえる誰かの鼻歌のようなものが聞こえた事に思わず目を覚ました。

「何だ?此処……あれ?俺さっきまで自分の部屋で寝ていたよな?」

「いや、にしても妙に暗いし……一体なんなんだ?」

 得体の知れない感覚に襲われ、戸惑いながらも身体を起こす。

中は思ったよりも広く、寝てる体制としては1人だけ馬車の中にあるソファーらしき場所に横たわっていたようだ。

私が起きたことに気づいたのか、馬車を引いてると思われる人間から声が掛けられた。

「お目覚めになりましたか。」

「お、おはようございます。」

「えぇ、おはようございます。もう直ぐ到着なさるので、そろそろ起こそうかと思いましたよ。」

中年の頃の男性と思われるような人の声は、どことなく聞いているだけで落ち着いてくるような感じがする。

私は彼の言葉にある「もうすぐ到着する」ということが、どことなく気になり思わず質問を投げかける。

「あの、質問良いですか?」

「えぇ、構いませんよ。私がお答え出来る限りの範囲であればですが。」

「さっき、もうすぐ到着する……とは言っていたのですが、この馬車は一体何処に向かっているんですか?」

彼はほんの一瞬だけ黙っていたようだが、すぐに答えが帰ってきた。

「今向かっている馬車は、()()()()()()()()()()でございます。」

「貴方様は数多くの候補者の中から選ばれた入学生です。」

「他にもご不明な点はございますか?」

 耳慣れない言葉に、私は思わず声を詰まらせる。

アルカディア?魔法学園?選ばれたとは一体どういうことなんだろう?

頭の中ではそんな言葉がぐるぐると、堂々巡りのように渦巻いていくだけだった。

「私の他にも、この学園に選ばれた人っているんですか?」

何とも陳腐な答え、我ながらもっと良い質問があっただろうと自己嫌悪に陥る。

それに対し、馬車の御者は勿論ですと答える。

 これがもし本当ならば、きっと私を含めたあのメンバー達がここに来ているのではないかと思ってしまう。

「そういえば、貴方の名前聞いてませんでしたね。

もし良かったら教えていただけませんか?」

「いえいえ、私どもには語るほどの名はありませんとも。またお会いする機会があれば、その時にでも名を名乗りますよ。()()()。」


─────え?今、なんと?


 自分の名前を言われ、固まる私。

いつ私の名前を言ったんだ?と思わず不安がる。

その様子に気づいたのか、彼は怪訝(けげん)そうな声をする。

「おや?どうかなさいましたか?四夜様。」

「そういえば私、まだ名乗っていませんよね。」

「えぇ、でも私は貴方のことをよく知っておりますとも。 貴方が妖精のもとで育ち、そしてどういうお仕事をなさっているのかも────。」

「待った、そこまで言わなくていい。だいたい伝わった。」

「左様ですか。」

「本当に何者なんだ、貴方は…………。」

「それもいずれ、時が来ればきっと分かりますよ。」

「そうか……分かった、それを覚えていればな。」

「そろそろ到着しますよ、ここから先は引率の先生がいらっしゃる頃ですね。」

気づけば揺られる馬車の音も、徐々にゆっくりになっていくのを感じた。

馬車の窓、分厚めのカーテンを捲りながらその景色を見る。


 外はすっかり日が暮れたのか、薄らと星々がチラつくのが見えている。

やはり異世界と言えども見える景色は同じなんだろうと半ば感心した。

空を見上げた視線を周囲に移し、景色を見つめる。

切り立った崖のような土がむき出しになっている路地、その周辺には木々が鬱蒼(うっそう)と茂っており、よく見るとぽつぽつと街と思われる光が蛍のように光を纏っていた。

普段滅多に見られないその幻想的な光景に、思わず息を飲む。

本当に自分は住んでいる世界とは全く違う場所に居るんだなと感心できた。



 目的地に着いたのか、馬車が留まる音が聞こえる。

馬車を引いていた彼が降りる音が聞こえて私は降りる準備をした。

とはいえ、ふと気づけば寝る前の服装ではなく……金色の刺繍が施された黒いローブのようなものを身に纏っている事に気づく。

フードの確認をすると、被っていないのは確かなようだ。

手持ちもない手ぶらだと言う点に至っては、そりゃ当然かとひとりごちながらも少しだけ不安になった。

「扉を開けてもよろしいですかな?」

急な声掛けに思わず飛び上がりそうになる。

「あっ、えっと、はい大丈夫……です。多分」

「もしかして手荷物の方が気になりますかな?」

 こいつはもしかしてエスパーか、もしくは読心術でも使っているのか?

本当に話をしているとどうにも油断できない。

そんな疑心暗鬼に勝手に駆られていると、ガチャリとドアノブを回す音が聞こえる。

薄暗い馬車の中に光が漏れ、私はその眩しさに目を細める。

「降りられますか?もし宜しかったら御手をどうぞ。」

「ありがとうございます。」

 西洋の貴族の人が被るような三角帽子の男性が、そっと手を差し伸べる。

私はその手を取りながら、恐る恐る馬車を降りる。

降りた途端に感じる、心地よい涼し気な顔が頬を伝う。

私の住んでいた場所では、変に蒸し暑さを覚えたはずなのに……やはり空気が違うというものはここに由来するのだろうかと思っていた。

「あぁそうでした、四夜様。───どうぞ此方を。」

男が差し出したのは、艶やかな袋に包まれた長細いものだった。

妙な既視感のようなものを感じた私は、男の手からそれを受け取る。

 その手には確かにずっしりとした重み、手に馴染むその形に………私はハッとした。

「これ…………」

「貴方の大切なものですね?此方で少しの間お預かりしておりました。四夜様に万が一の事があってはなりませんからね。」

「本当に大丈夫でした?」

「えぇ、()も私の事を信頼しておりましたようで……やはり、分かっているものでしょうね。」

驚いた、私の名前や素性以前に私の持っていた彼について知っていたとは。

───── ()()()()()()()()()()()()()

そんな事を心の中で呟くと、それを読んだのかいたずらっぽい笑みを浮かべて男はウインクをした。

 とんだ食わせものと出会ったな、そう一人心の中で呟き…そのそばにいる男にただ連れられるままに歩みを進めた。

これから先に起こるであろう、未知の出逢いに期待と胸を膨らませながら。

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