幕間 ───レイ=エルウッドの過去
この物語は、産まれた時から敗北が決められたとある男の過去の物語である。
その名前は、レイ=エルウッド。
かの五大英雄のうちの一人である、ステラ=ルミナスマギアの本家であり末裔だ。
俺は産まれた時から、既に敗北と言ってもいい人生ばかりだった、きっと今でもそうだ。
俺の家であるエルウッド家では、代々それぞれ特有の属性魔法を使うことが当たり前であり………特に俺にとって適性があったのは、エルウッド家では絶対に使わないと言われる呪詛系の魔法だった。
他の属性には全く適性と呼べるものがなく、出来るのは最も忌避される呪詛系の魔法のみ─────。
それが判明してから、俺に対する周囲の反応は一変した。
もういっその事、魔法すらも扱えない、魔力を持たなければこんな事に対して諦めなんてつくはずだった。
だが、かの賢者の血筋であることは確かであり……こうして俺が魔法を簡単に使えるのがただ憎らしくて仕方ないくらいだった。
父からは「お前のような出来損ないのせいで、私の顔に泥を塗ったんだ!恥を知れ!」と罵られ………
母からは「貴方みたいな子供を産んだせいで私は不幸よ、何でお兄さんやお姉さんのように属性魔法が扱えないのかしら………貴方なんて産まなきゃ良かった」などと嘆かれる。
兄や姉は俺を見て笑いながら「お前のような異端が居ていい場所なんてどこにもないんだよ!」「あぁ穢らわしい、その穢れが移ってしまうわ。さっさとどこかに行ってしまえ!」など嘲笑われ、蔑まれて来た。
それが俺にとって当たり前であり、そんな俺たちを馬鹿にして来たやつに対して見返す為だけにひたすら力を磨いてきた。
今までのようにしてきた、友達との遊びや交流を減らして魔法の勉強に費やしてきた。
俺が使えない魔法がないように、どんな奴らにも劣らないようにと………必死に、毎日毎日血の滲む様な特訓もしてきた、発狂寸前になるまで追い込んでまでそれを身体に、頭の中に叩き込んできた。
次に俺は魔術や勉学だけでは、それではただのガリ勉でしかない為………他の人に劣らないようにと、武術や社交術も必死になって覚え、誰もが一流だと言わしめるほどに俺を認めてくれる人すらも増えてきた。
俺自身を認め、そしてそれに倣って友人と呼べるような人だって幾人かは出来た。
俺は自分の手で、その努力で築き上げた一流の魔法使いとしての地位は揺るぎないものになると思っていた。
アルカディア魔法学園という名の名門校に入る資格が得られた時には、俺はまるで天に舞い上がるような気持ちだった。
ようやく自分の努力が報われる、そう思いながら俺は確かに入学式に臨んだ。
─────最もストレイナイツに近い存在。
そんなことすらも言われるくらいに、俺は自他ともに認めるくらいには一番優秀な存在だと思っていた。
だが現実というのは、いつだって無情だ。
俺が入学したアルカディア魔法学園、その寮の選定という儀式で………俺は最悪な運命を知ることとなった。
今でもあの光景だけは、頭の中に焼き付いて離れない。
学園長に連れられ、やってきた見慣れない七人の新入生。
そのうちの最後の一人………短く束ねられた柘榴のような赤い髪、その整った顔立ちには、薄群青と銀色の瞳が特徴の男…───アシュレイ=グッドフェローズ。
あの男が、寮の選定の壇上へと歩み、その皮袋から手にした黒いキングの駒。
紛れもなく、俺がずっと望んでいた筈の…俺が目標にしていた筈のストレイナイツ寮の証が、その手に握られたのをハッキリと目にした。
あぁ、神というのは本当にこの世に存在しないとあの時あの瞬間に分かった。
いつだって俺の努力は、俺が心の底から切に望んでまで手を伸ばしたはずの希望が、夢が………今こうして目の前であの赤い髪の男に全て奪われたのだ。
ふつふつと湧き上がる、どろどろとして鬱屈とした感情が腹の底から込み上げてくる。
今すぐにでもあの男の前にまで歩いていき、あの澄ました顔に向かって思い切り拳をぶつけてやりたいくらいに腸が煮えくり返るような思いをしていた。
それすらもぐっと堪える、爪が掌に食いこんで血が出るくらい…それすらも構わないくらいにただただ拳を握り締めるしかない。
今感情のままに殴りに行ったら、それこそ俺が築き上げた全てが無に帰ってしまう………それだけは避けたかった。
あぁ、どうしてなんだ。
どうして俺はこうやって、無数の人の喧騒が渦巻く大講堂の片隅で一人だけ拳を握って見つめるだけなんだ。
どうして、どうしてこうなんだ!いつだって必ず俺の全てを奪われなきゃならないと言うんだ…!
あぁ、誰か教えてくれよ。
どうやったら俺はあの場で選ばれなかったと言うんだ。
どうして、どうして俺ではなくお前が選ばれたと言うんだ。
アシュレイ=グッドフェローズッ─────!!!!




