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「アルカディア魔法学園の歩き方」~七人の問題児が聖杯戦争に挑むようです。~  作者: 鬼屋敷 夜雲
序章 アルカディア魔法学園入学編
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第12話 ─────断章

 新入生歓迎の祝宴は、無事終わりを告げた。

残った生徒達は各々上級生に導かれながら自分たちの所属している寮へと向かっていく。

残された食器類は、使用人と思われる人達によって丁寧に片付けられて行く。

学園長を含めた教員達もまた、疎らに立ち上がっては各々の明日やる事の為に席を立つ。

一人だけ残った学園長は、閑散とした大食堂を眺め、顎を摩りつつ見回す。

そしてそれを確認したのか、一人頷いて大食堂を後にする。

途中清掃をする使用人達に挨拶を交し、二、三言葉を交わしながら廊下を歩く。

 動く肖像画達も学園長を一瞥すると彼に声を掛ける。

学園長もまた、笑顔で手を振り、時には言葉を交わしながら自室である学園長室へと向かい……扉を閉じる。

「ふぅ………先に会議というか、話も進めないとな。」

「しかしクロさん、このことは想定してたのだろうか。」

「………………いや、あの人は特別だ。私のような人には到底及ぶまい。」

「さて、その前にほかの学園の先生達にもこの試練について話し合わなければな」

彼は1人呟きながら、自身の席に付いて魔導工学によって作られた魔法陣、画面の展開を行う。

ブゥンという音によって現れる複数の分割画面……おおよそ私達の済む現実世界においてはリモートワークのようなものと言ってもいいものだろう。


 彼自身を含めた八人の先生達による、今後についての話し合いがこれから始まろうとしていた。

「こんばんはアスター先生、どうやら其方で最後の寮の選定者が現れたと聞きましたよ。」

「やぁ御機嫌ようエミリア先生、彼はどうやら異境の存在でこそあるが、こうして揃ったのは素晴らしい事だよ。」

「此方でも確かに保管してある星の欠片が力を取り戻したのは確認しました、やはりあの預言は本当だと窺えますね。」

「そうですね、我々としては半ば想定してなかった。

やはりこういった思わぬ所で発生する運命というものは……いつの時代もあるのですね。」

彼らもまた、口々に言葉をぽつぽつと発しながら頷く。

魔法の国、武道の国、自然の国、宗教の国、熱砂の国、極寒の国、海洋の国、商業の国といった八つの国を通じた学園長達による会議が今、正にこうして行われているのだ。

 「それで、今年の"星の祝福の試練"はどうなさるおつもりですかな?アスター先生。」

学園長が、ぽつりと言葉をつぶやく。

それに伴い、魔法による画面越しに伝わる緊迫感が辺りを包み込む。

当然ながら、この1000年もの間本来なら起こるはずもないこの出来事が一夜にして塗り替えられてしまったのだ。

たとえそれが、おとぎ話として伝わった伝説ですらも。

彼は椅子の背もたれに身体を預け、しばし唸りながら顎をさする。

彼が困ったり、何か考え事をする時にするその癖は…最早この場にいる誰もが理解しており、それが重大な決断を下す時にだけ行われることをよく知っていた。

いくら形骸化したとはいえ、起こったことは事実だ。

八つの国に存在する寮の数は、それほどまでに多いものには変わりない。

とはいえ、それを毎年のように1年で済ませられるほど簡単では無いことも、今の状況を考えてみれば明白だった。


 固唾を呑んで見守る一同、不用意な言葉はここでは出しにくい。

とはいえ、1000年もの間に入れ替わってきた学園長達の悲願でもあり、その誰もが一度は望んだ真の英雄たる象徴。

折角手に入れたそのチャンスを、こんな場でみすみす逃すつもりは無いと………虎視眈々と狙うものだっているのだ。

長い時を経るように、ただ無情に過ぎる時を待つ。

だがその静寂は、エイブラハム=アスターの口によって破られる。

「やりましょうか、勿論一年では到底終わるはずもないのは承知の上です。」

「ですから、今まで通りに寮対抗という形での勝ち抜きをこの2年に分けてやるのは如何だろうか。」

彼の口から発されたその提案は、この場の誰もが思ってもみなかったことだった。

 それを聞いた武道の国にあるターフェルルンド士官学校の校長、ドミニク・フォン・アルトマン先生がやや厳しい声を発した。

「まさか、勝ち抜きをあの2年でやるつもりでか?」

「えぇ、そうですとも。あくまで各々の学園内で選抜を行い、その上で今までの通りの4回に渡るトーナメントなどを行ってきたでしょう。」

「それはそうですが、今回は本当にそれが"試練"であるのには変わりありません。」

「まぁ、少なからず寮そのものが選ばれると言うより………個人が選ばれる可能性もあるでしょう。」

「それでは今まで我々がやってきたことが─────。」


 激しく詰め寄るアルトマン先生に、そっと手を突き出して制止する。

それを確認したアルトマン先生は咳払いを一つして座り直す。

これ以上話が激化したところで、根本的なものの解決には至らない。

「我々に今出来ることは、この試練を開催するかどうかの権利だけだ。」

「もし開催したその試練が、どう齎すか、そして彼らがどのように選択するのは僕達が決めることじゃない。」

 きっぱりと、そして毅然とした態度を持って今こうして見ている七人に向かって語りかける。

「今年は確かにいつもとは違うものになるでしょう。」

「ですが、毎年やってきたこの試練という名の競技もまた…我々にとっての伝統でもあり、その伝説を忘れない為に行われてきたことです。」

「我々に出来ることは、出来るだけ生徒達のサポートを行うくらいしかありません。」

「もし、この試練で ─────人死にが出るようでしたら………この競技、もとい試練そのものは永久に凍結しなければならない。」

「その覚悟をする上で僕は聞きたい。」

「今回の"星の祝福の試練"をするべきかどうか、この場で決議しようじゃないか。」

「もし、賛同するならばこの場で挙手をしてくれ。

そうではないならばそのまま手を伏せるがいい。」

勿論、このアルカディア魔法学園の代表たるアスター学園長は挙手をする。

一瞬の間が空き、彼らもまた悩んでいたが………次々に挙手をした。


 結果は ───── 七対一。


 先程口論したターフェルルンド士官学校の校長は、拳を握りしめながら画面越しの彼らを睨みつける。

「本当に、本当にこんなことをしたところで………」

何か言いたげだったが、これ以上を語るつもりは無いようだ。

「多数決によって決められたことです。」

ぽつりと、そして冷ややかに呟く極寒の国の学園……

ミッドフリージングアカデミーの学園長であるイヴァン=アスモロフ先生が手を掲げたままアルトマン先生を睨みつける。

その氷のように冷たい威圧に気圧されたのか、静かに下がる。

どうやらこの会議の結果は決まったようだった。

「それでは、今回の"星の祝福の試練"は開催するということに決まりましたね。」

「えぇ、問題ありません。」

アスモロフ先生に続き、口々に賛同する先生達。

彼らの会議は、静かな夜の中に溶け込むように終幕を迎えることとなったのだ。

緊張的な空気も解け、ふと ─────気になった事があるのか、海洋の国の学園長であるアロルド=ルスティクッチ先生が商業の国の先生に尋ねる。

「いつもなら、不参加を決め込む貴方が珍しくこの試練に賛同しましたね。」

それに対して、商業の国のクロエ=コルベール先生は薄らと口角を吊り上げながら微笑む。

「えぇ、今年は実に優秀な生徒を迎えられて私はとても嬉しいのですよ。」

「それはそれは、それで………その優秀な生徒というのはどんな方ですか?」

「それこそ、全てを与えて下さったような子です。

名を ─────()()()=()()()()()と言いますね。」

「ほう、聞いたことがないですね。」

「勿論、今年の新入生ですよ。彼はとても素晴らしいです。」

饒舌に語るその様子に、一部の先生達は一抹の不安を覚える。


 確かに今年は特に、誰かが示し合わせたかのように優秀だと言える生徒が大勢集まっている。

特にアルカディア魔法学園では、異界の地から来たと言われる生徒が七名もいる事が大きな要因だ。

きっと、今年はイレギュラーでは済まない何かが起ころうとしている。

それを口にするものはいないものの、その腹の底に抱える不安だけが………静かに深い夜の闇の中で渦巻いているのだった。

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