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「アルカディア魔法学園の歩き方」~七人の問題児が聖杯戦争に挑むようです。~  作者: 鬼屋敷 夜雲
序章 アルカディア魔法学園入学編
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第9話 秀才同士の確執。

 ─────私達が大食堂の席に着いた後、学園長はおもむろに立ち上がり、口上を述べ始める。

「それでは、これから新入生の歓迎を含めた晩餐会を始めようと思います。」

「その前に、私から一つお知らせがあります。」

神妙な面持ちで、ぽつりと話し始める学園長。

その歓迎ムードになっているはずの大食堂の空気が妙に張り詰める。

私はその空気から、これから何が始まるかを察した。

「今年は名誉ある、アルカディア魔法学園の創設1000年となりました。 それと同時に、皆さんもご存知でしょうが………今年の寮の選定において遂に、我が校から今まで現れなかったストレイナイツ寮の資格者が現れました。」

 その最後の一言で、再びざわめきが訪れ、私の元にその興味と好奇心、はたまたまあらゆる感情が入り乱れている視線が一斉に向けられる。

「それに伴い、毎年行われた交流会を兼ねた学園対抗の「星の祝福の試練」は………どうやら、今年は少し……いやもしかしたらこの状況そのものが大きく変化しているかもしれません。」

「この晩餐会が終わり次第、これから他校の先生達と共に会議が行われる予定です。」

「引き続き、新たな試練についての予定が決まり次第………皆さんに連絡をしようと思います。」

 しん………と静まり返る大食堂、それは確かに私を含めた学園の全ての生徒達が気づいているであろう大きな出来事である。

私も先に話は聞いていたが、やはり学園対抗ともなればそれほど大きな規模になっていくということが現実になっていることが肌に伝わるのを感じる。

緊迫したこの雰囲気に、思わず胃がキリキリとし始める。

正直なところ、私を含めた異世界転移のメンバー達は幾度と無くこんなことを経験してきた。

とはいえ、学生の身とはいえここまでの事となると自分の身に降り掛かったこの責任に対して……本当に乗り切れるか不安になる。


 そんな不穏な空気や、神妙になるこの状況の中……学園長はそれを吹き飛ばすようににっこりと笑みを浮かべて持っている杯を掲げた。

「それはそうとして、今はこのアルカディア魔法学園に入学出来た新入生の歓迎を行いましょう。」

「我々の新たな希望となる新入生たちの歓迎と、アルカディア魔法学園の1000年記念を祝して乾杯!」

「「「「乾杯!!!」」」」

教師や生徒達が、学園長に倣うように各々の杯を掲げる。

晩餐会は、始まってしまえば意外と楽しいもので………気づけば先程の慎重な空気とは打って変わって、既に賑やかな場所へと一変していた。

私もその楽しげな空気に充てられ、他の生徒達との会話を楽しんでいた。

そして、何よりも今最も気になる存在─────レイ=エルウッドへと接触を試みようと私は声を掛けた。

「こんばんは、こうして面と向かって話すのは初めてだったよな………私はアシュレイ=グッドフェローズ。気軽にアッシュと呼んでくれ。」

「………俺はレイ=エルウッド、この寮の創設者であるステラ=ルミナスマギアの末裔だ。」

ストレイナイツ寮に最も近いと言われた理由は、そこにあったのか………だとしてもルミナスマギア寮に選ばれたのはとても凄い名誉とも言えよう。

だが、彼にとって一番は私のようにストレイナイツ寮に選ばれることこそが本望だったのだろう。

杯に入った飲み物を口にしながらも、時折エルウッドは私に対する鋭くも燃え盛るようなその激情の籠った視線を向けている。

 やはり、目下の敵である私がこうして現れたのは……彼にとって一番不愉快なのだろう。

それはそうとして、よく見ると本当にエルウッドはとても綺麗だ。

綺麗に切り揃えられた髪、艶やかなラベンダー色の髪色、陶器のように透き通った白い肌、それに……何よりもその吸い込まれるような美しさを持つエメラルド色の瞳がそのレイ=エルウッドそのものを形作っている。


 ─────どこからどう見ても美しさの権化と言っても過言じゃないだろう、もしかしたらこういう人ってモデルとかにも向いているんじゃないだろうか。

なんて心の中でそっと呟きながら見てしまっていた。

エルウッドの方も、私の視線に気づいたのか………不機嫌そうに眉間に皺を寄せて眉を顰める。

「俺の顔になにかついているのか?さっきからジロジロと見つめていて失礼だろう。」

「それとも何か?お前のところはそういうのが礼儀だというつもりか?」

言葉の端々に鋭い棘が混ざっている、確かに私も彼の事を見つめすぎたことは悪かったと思う。

ちょっと流石にに言い過ぎでは?───いや、訂正しよう。

私ももし彼の立場だったら、こうしてジロジロと見つめられるのは実に気まずいし不愉快だろう。

「あぁいやすまなかった、悪気は無かったんだ。」

「じゃあ何のつもりなんだ。」

「いやぁその……………」

実の所、思ったことを正直に言おうかどうか迷っていた。

だってどう足掻いても私が想定するルート的にこんな険悪状態って嫌だろう?だからせめてこう和ませるようなことをだな…

「何ださっきからモゴモゴして、言いたいことがあるならハッキリ言えよ。」

「本当エルウッドって誰がどう見ても綺麗だなって、つい見とれてしまったんだよ。」

─────何を口にしてんだ私ぃぃぃぃっ!!!!

誰がどう見ても口説いてるように見えるだろう!!

あれか?あれなのか?ストレイナイツ寮の人間はそうやって敵を褒める習慣でもあるのか?嫌でもこれは事実な訳で私も正直彼のことは本当に綺麗だなと心から思ってたけど、いやさっきの話に戻るじゃないか。

「あ、ごめん余計だったよな。すま────」

訂正して言葉を発想とした時、ふと………寮の選定の時と同じように……静かに、それでいて確かに私に対する憎悪、憤怒、羞恥、そして嫉妬めいた複雑な感情を孕んだ視線が静かに送られる。

この場で大きな音を出したら確かに場がしらける。

それを分かった上で行う、彼のささやかな私に対する抵抗は………確かに私に対する大きく強い敵意となって現れたのは確かだった。

「こんな俺に対して口説き文句のようなことを言って、取り入ろうと考えているつもりかお前は。」

ようやく絞り出したであろうその一言に、私はどうすることも出来ないようにただ狼狽えるばかりだった。

大食堂内はまだそこまで冷えきっていない。

でも流石に私の周囲だけは確かに、その異様な空気に対してあまりいい顔は出来ないだろう。

私は慎重に、それでいてハッキリと深呼吸をする。

「でもお互い新入生同士だ、私は君と友達になりたいんだエルウッド。」

「お前なんかと馴れ合うつもりは無い、驕るな。」

「─────………」

 私の状況を察した他学年の生徒達が間に入り、場を和ませようとしてきたが……私にはその言葉がどうにも耳に入ってこなかった。

私の心の中では、氷のように冷えきった鋭い刃が差し込まれたような気がした。

こんなところで、私と彼の間で確執が出来るなんて……思いたくもなかったのだ。



 どうにも煮え切らないような空気の中、私は食事を進めていた。

とはいえ………さっきの初めの頃の空気よりかは大分良くなったとは言えるだろう。

気づけば彼らにとっての注目は、1000年に1度のストレイナイツ寮の選ばれた私自身に向けられていた。

相変わらず、エルウッドから向けられる視線はあるものの………これ以上気にしたところでどうとなる訳でもない。

彼らに囲まれながら、私はただ質問された事を答えるだけだった。

 どれも在り来りな内容で……「ストレイナイツ寮はどんな感じになっているか」、「アシュレイ自身はどんな人間か」、「この試練について参加するつもりか」、「これからの専攻や、部活動などはどうするか」など目まぐるしく聞かれるものばかりで…会話の終盤にもなると流石に辟易してきた。

正直私にとってここまで質問攻めになるとは思わなかったし………少しだけ一人になりたくなってきた。

「すまない、ちょっと今日は色々ありすぎて疲れてきたから………そろそろ私は寮に戻るよ。」

ある程度相手にとっては不愉快にならない程度に、そして私の意思表示を示すように軽く笑みを浮かべながらも手を振って答える。

それに対して、彼らもその私の様子に気遣ってくれたのか…気にしないでくれと言いながら少しだけ離れてくれた。

まぁある程度頃合だし、明日もきっとクラス分けとかもあるだろうから……その準備もしないと行けないだろう。

私は長机の銀皿に載せられた果物の中から、林檎のような果物を手に取って出来るだけ静かに大食堂を後にした。


 後で寮にでも戻りながら………ゆっくりと食べようとと思いながら廊下を駆け抜けて行く。

そういえば、寮の掃除をしていた時に気になるものがあったことを思い出した。

─────ストレイナイツ寮の応接間の隣、書斎の床がどうにも変な箇所があったんだ……今は時間があるし、確認しに行こうかな。

私はそう考えつつ、足早に寮に向かう帰路についた。

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