アシトランテ領3 貴族の仕事
アシトランテ伯爵邸に続く道には、沢山の馬車が並んでいた。
馬車にはそれぞれ家紋が入っていて金彩や彫りで豪華な仕様になっている。
一目で高貴な人達が乗っている馬車であるとわかる。
ズラリと並んだその先頭では、招待状の確認と伯爵令嬢へ贈り物の預かりをしていた。
大きな白磁色の門柱の両側には、甲冑に身を包んだ屈強な兵士が武器を手に警戒をしている。
そのすぐ内側にある詰め所では、品のある紳士が指示を飛ばしつつ、来賓者の対応をしていた。
その仕事ぶりは有能だ。
チェックが終わると敷地奥へと通される様だ。
私達はその列の最後尾に馬車を停めた。
「受付まではしばらくかかりそうですね」
サビスは姿勢を正して座り直し、目の前座る私に今日の心得を説き始めた。
「いいですか。今日は伯爵令嬢様の成人の誕生日でもありますが、あなたにとっても大事なお披露目の日です」
横でエイミーがウンウンとうなずく。
父が死んでからは覚えることも膨大で、貴族のパーティーにゆっくりと顔を出すこともしていなかった。
実質、このパーティーが爵位を賜ってから初めての社交の場だ。
「この3年、ほとんど社交の場に出ずに、領地の足場固めをしてきましたか、やっとあなたは成長しました。次は他貴族との交流で地位を固めるときなのです!」
サビスは今まで、あえて社交を強要しなかった。
足場を固め、成長と共に自覚と威厳を持てる時まで待っていてくれたのだろう。
苦労をかけた分、頑張りたい。
「あなたは、公爵。王族の血の一端が流れる高貴な御方です。おそらく、この場の誰よりも地位があります。胸を張って堂々としてくださいね。亡き御父上のためにも」
そう、我が領地は豊かではないが、腐っても公爵。
その流れる血は一流だ。
祖父は、当時の王の3番目の子どもだった。
つまり、第3王子で当時王位継承権がある高貴な人だ。
父の話では、長兄が王位を継いだと同時に継承権を剥奪され、祖母の家に婿入りしたと聞いている。
祖父はすぐにフリッツの領主になった。
祖母の父親、元フリッツの領主は病弱で、婿入りする時にはもう家督を譲る話になっていたのだろう。
領主交代と共に、フリッツは公爵へと引き上げられ、祖母の両親は隠居生活をしていたと聞く。
「このパーティーであなたの価値が決まります。後ろから手助けしますので、頑張ってください」
既に、このパーティーに参加するであろう貴族をリストアップして、何人かパイプを作っておきたい人を見繕ってある。
あとは、上手く行くように自分の仕事をするのみだ。
そして、願わくば、アシトランテ伯爵令嬢に気に入られたい。