アシトランテ領2 到着
私は外を眺めていた。
伯爵領に入りしばらく馬車を走らせていたが、農地に広がる豊かな実りと、どこまでも整備された道、そして何より、活気のある街並みに驚かされた。
アシトランテの豊かさは耳にはしていたが、まさかこれほどに栄えているとは思っていなかった。
まさに王都の様に豊かで美しい。
いや、もしかしたら王都よりも発展しているかもしれない。
見える範囲は石畳でキレイに舗装され、きちんと区画整理されて管理が行き届いている。
各通りには名前が付けられ通りごとに特色があるようだ。
商店街には賑わいが感じられ横目に通るだけで、楽しい気持ちになる。
「我が領地もこのくらい活気が生まれるようにしたいものですね」
前に座るサビスが外を眺めながらふと口にした。
「そうだな。初めて来たが、ここはすごいな。学ぶところだらけだ」
「ニコラス様、邸門が見えてきましたよ。もうすぐ到着いたします」
サビスの隣に座るエイミーが到着を知らせてくれた。
サビスとエイミーは父が亡くなった後も私に仕えてくれている。
むしろ、あの時、父を守りきれなかった思いからか少々過剰に周りを固めてくれている気がする。
二人とも普段から雑務と護衛も兼ねてくれているからか、動きやすい服装が多いが今日はパーティー用の正装をしていた。
特にエイミーは普段男の様な服が多いが、今日は騎士服とドレスを合わせたような可愛らしい装いが新鮮だ。
「エイミー、いつもそうやって着飾ればいいのに」
「今日は特別だから良く見えるんですよ。いつも着飾るなんて、毎朝時間がかかって公務に差し障ります!」
エイミーはちょっとはにかんでみせた。
実は私はエイミーのことを心配している。
今まで歳を聞いたことはなかったが、おそらく20代後半だろう。
少なくとも私に仕えてからは浮いた話など聞いたこともない。見た目も美しく、気立てもいい。そして強い。
そんな彼女が、今まで男から誘われないということはないだろう。
彼女がいつまでも結婚しないのは、私を支えるために自分を犠牲にしているせいではないかと思っている。
ある時、それとなく聞いてみたが、
『そんなことありませんよ。いい人が見付からないだけです』
と言っていた。
私の役目は、早く一人前になってエイミーに楽をさせてやることだと悟った。