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私の話1

 私は、北の広大な領地を預かるフリッツ公爵家の嫡男として生まれ、ニコラスと名付けられた。今年で21歳になる。

 広大ではあるが、一年を通して領地の半分は雪や氷に覆われていて、豊かとは言い難いが、安定した領地経営で住む人々は穏やかに過ごせている。


 それは、私にとって自慢である。


 現在は私がフリッツ公爵として領地をまとめているが、三年前までは、父が統治していた。


 父は優秀な指導者であった。


 領地のそこかしこにある洞穴の中で、不純物の少ない美味しい氷を生み出す術を考え、都市部や他国に美味しい氷を一年中供給する事業を始め、大成功をおさめた。


 今では、我が領地の特産品となっている。


 他にも、農業改革や都市設備の改革に取り組み、民衆の暮らしの底上げを積極的に行った。



 とても尊敬された父だったが、ある日突然にこの世から去った。


 山間の集落での林業視察で、それはおきた。


 寒い地域では木はなかなかに育ちにくい。温暖な場所よりも成長スピードは3分の1くらいになってしまう。

 しかし、その遅い成長スピードが目の細かい、硬く、質の良い木材に変わる。


 父は富裕層向けの高給素材としての売出しを検討するために視察に訪れていたのだ。


 私もその時、父に付いて一緒に視察に訪れていた。


「父上!今日はとても風が強いです。くれぐれもお怪我なさいませんよう、足元に気を付けてください!」


「ああ、わかっているさ」


 この地の林業は木の成長を少しでも早められるように、緩やかな傾斜のある山に植えられている。

 こうやって日光を満遍なく行き渡らせる工夫をしている。


 しかし、傾斜があることで、溜まった落ち葉や残った雪で滑りやすくなっているため危険な側面もある。

 

「ニコラス!ちょっとそこで待っていなさい!」


 ちょうど斜面の終わりにある、大きな木の状態を確かめていた時、父が私に声をかけ、何やら見つけたように崖下を覗いていた。

 護衛を2人付けていたので心配はしていなかったが、胸騒ぎがしたのを覚えている。

 父は、下を見ていた。

 父のローブが風ではためく。

 

 それは一瞬だった。


 あっと思うと同時に、父の姿が消えた。

 なんの前触れも感じさせずに。


――――――― 落ちた。


「父上!!!」


 私は、思わず駆け出した。

 傾斜に積もった僅かな雪と落ち葉に足を取られ、その場に倒れ込む。

 汚れた服に構わず、口の中に入った泥も気にせずに転がる様に父の落ちた所まで行った。無我夢中であった。


「父上!父上!父上―――――!!!」


 父の側近兼、護衛のサビスは、直様崖を滑り降り父を追った。

 彼は風の魔法を使う。この時も一瞬の判断で、父が落ちた瞬間に風魔法のクッションで直撃を免れるよう守った。


 しかし、父は逝った。


 確かに、風魔法で父の身体は守られていた。しかしだめだった。

 直ぐに、麓に戻り、蘇生を試みたがだめだった。


 父は病死と判断された。


 外傷が無いのに崖下で抱えられた時にはもう息がなかった。


 皆がいる前で、おきた事故で、突然の心不全で、事件性は無いと判断された。

 

 その瞬間から私は父の代わりに、フリッツ公爵領の次の領主となった。

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