わたしの話2
わたし、アンナ フォン アシトランテ伯爵令嬢は今日、16歳になった。
わたしは生まれて間もなく、5歳年上の公爵家嫡男と婚約が決まった。
公爵家は格上貴族だけれど、ぜひにと打診があった。
アシトランテは領地も豊かで、上昇貴族。
繋がりを持ちたい家は沢山ある中でも、1番条件の良いフリッツ公爵家と仮婚約を交わしたと聞いている。
でも、この16年間、婚約者である彼とは1度もあったことがない。
絵姿すら見ることなく過ごした。
なんでも、初代アシトランテが、ある魔法使いとの約束で"子の伴侶となるものは16歳まで会わせてはならぬ"という誓約を交わしたらしい。その代わりに未来永劫の繁栄を約束されると。
なんてバカバカしい話しか。
それに何の意味があるのか。
未来は自分で掴み取るものじゃないの。
成功が約束されたレールの上を走るだけなんてつまらないわ。
とはいえ、初代アシトランテの時代の爵位は男爵であったが、代を重ねるごとに、神の采配かと思うような奇跡的な武勲を立て、爵位を上げていった。
それはもう、初代アシトランテの誓約を信じるに値するほどだ。
豊かな土地に胡座をかかず、武を極め、真摯に国に仕えて150年。
今では、武のアシトランテの名は国外に轟くほど有名になった。
今も子の伴侶となる者とは、16歳になるまで会わせない習わしが続いている。
わたしは、幼い頃から二人の兄と共に腕を磨いた。
3つ上の兄は剣の才能があった。2つ上の兄は魔法の才能があった。わたしは剣の才能も多少の魔法の才能もあったため、魔法剣士として育てられた。
普通の貴族は、女性は戦には参加しない。しかし、武の貴族アシトランテは、才能があるものは積極的に戦に行く。
わたしは幼い頃から、お絵描きやままごとよりも、木登りや戦いごっこが好きだったので、兄達と腕を磨くのがとても楽しかった。
兄達は今、国王軍に所属している。
16歳で成人してからすぐに、己を磨くために入隊を決めた。
上の兄は、いずれは領地に戻り家督を継ぎ、アシトランテ軍を総指揮する。下の兄も、アシトランテ魔法部隊隊長として隊を率いるだろう。
それまでは国王軍の一人として研鑽を積んでいる。
とはいえ、優秀な二人は十代にしてそれぞれに小隊長を任されている。
流石はアシトランテの血筋てある。
そんな兄達も例に漏れず、16歳まで将来の伴侶となる婚約者とは顔を合わすことは無かった。
今ではそれが嘘のように仲睦まじく、それぞれ愛を育んでいる。
「わたしの婚約者も素敵な方でありますように」
ドレスと端をぎゅっと握りしめ、誰にも聴こえない声で小さく唱えた。
わたしは父親から、まるで息子のように厳しく育てられたためか、色恋には疎い。そもそもいつも騎士のような格好で、ドレスを着るのは式典などの公の場でしかなかった。
それが楽だったし、問題はなかったけれど、思い返せば、女性同士の交流の妨げになっていたのだろうと思う。
他の令嬢とどこの貴族がかっこいいだの、誰が素敵などと話したことがない。
そのためか、わたしは殿方に気に入られる為に何をすれば効果的か、全く術を知らない。兎に角、粗相のないように努めようと決めている。
今夜が本当に待ち遠しい。