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アシトランテ領18 報告

 屋敷に戻った二人は、シャワーを浴び、新しい服に着替え執務室へと向かった。アシトランテ伯爵から事の次第を直接聞きたいと連絡が来たのだ。

 ニコラスが執務室に到着すると、すでにアンナが伯爵の隣でお茶を飲んでいた。


「お久しぶりです。アシトランテ伯爵。本日はお招きいただき、ありがとうございました」


 ニコラスは儀礼上、今日の誕生日会に招かれた礼を述べた。もう開催されないかもしれないが。


「いや、フリッツ公爵。こんなことになってしまって本当に申し訳ない。連絡をくれて本当に助かった」


「いえ、私は何も。賊の確保はアンナ嬢の機転と勇気の賜物でしょう」


 実際、戦って倒したのはアンナだ。フリッツはアンナの行動が気になって追いかけただけだ。


「いやいや、貴方がいてくれたから早急に事が運んだのだ。ありがとう」


 伯爵は礼を述べ、向かいに座るように促した。

 直ぐに温かい紅茶とお菓子が運ばれてきた。


「それで、賊について二人から話が聞きたいのだがいいかな?」


 伯爵は早速本題に入った。


「ええ、でもごめんなさい。そんなに情報は無いわ。お父様の所へ向かう途中に襲われたって聞いてお部屋に引き返して、そうしたら窓から怪しいやつを見つけて追いかけただけだもの」


 アンナは簡単に説明するが、アンナの自室は三階だ。その高さから飛び降りて、追いかけられる事ができるの者はほとんどいない。普通は無事では済まないが、彼女だからできたことだ。

 犯人であろう怪しい奴を追跡捕縛できただけで素晴らしい成果であるのは間違いない。


「私もすでに倒されて地面に伏したところしか見ていないので、特に何も…」


 ニコラスも右に同じく、報告すべきことはない。


 伯爵は落胆の色をにじませていた。


「そうか、では賊が目を覚ましたら尋問で聞き出すしか無いな。でももう少し思い出してみてくれないか。ちょっとしたことでもいいから、何かないかな」


 何でもいいからと少し困った顔で食い下がる。


「そういえば…思い出したのだけど、小屋の前で人を待っているようだったわ」


 アンナは、はっと思い出した。


「実際に人を待っていたかどうかはわからないけれど目的を持って小屋の前で立ち止まったように見えたわ。あと、なんだかフラフラ歩いているように見えたわ」


 伯爵は、情報があったことに喜んだが、直ぐに顔が曇った。


「そうか…それはまずいな」


 伯爵は苦虫を噛み潰したような顔をした。


「誰かを待っていたように見えたということは、敷地内に仲間がいるかもしれないということだ。実行犯が捕まったことで諦めて逃げていればよいが」


 伯爵は、何か考えてから側に控えていた者を呼び、少し耳打ちをして、部屋から退出させた。


「アンナ、今日はお前の誕生日だったが、こんな事になって本当に申し訳なかった。すまないが、まだ危険が取り払われていない以上、今日の夜会は開催できない。わかってくれ」


「お父様。わかっています。来てくださった皆様をこれ以上危険には晒せません」


 アンナは特に今夜の夜会が無くなった事には何も思っていない。婚約者に逢うことだけを楽しみにしていたので、その目的は思わぬかたちで果たされ、何も困ることはなかった。


 ただ、1つ心残りがあるとすれば、ニコラスに贈ってもらったドレスを汚してしまったことくらいだ。


 伯爵はニコラスの方へ向き直った。


「申し訳ない。フリッツ公爵、そういうことだ。」


 言うと同時に深く頭を下げた。


「伯爵、わかっています。残念ではありますが、私は今日アンナ嬢と逢うことができただけでじゅうぶんなのです。頭を上げてください」


 ニコラスの言葉に嘘はない。

 前世、前々世、それよりもずっと前からアンナ以外に大した執着は無い。記憶を取り戻し、混同したニコラスは、夜会よりも彼女と再び出逢えた事実で胸がいっぱいだった。




「しかし、まさかこんなかたちで二人を逢わせることになるとはなぁ。初代様は許してくれるかわからんな」 


 伯爵はハハハッと乾いた笑いで自分を誤魔化した。


 ニコラスは、"絶対に大丈夫ですよ!"と気持ちを込めて伯爵を励ました。




そう、栄華を授けた本人が言うのだから絶対に大丈夫だ。


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