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アシトランテ領16 その頃屋敷では

 アシトランテ伯爵邸は大混乱していた。


 伯爵が賊に襲われた事実が、屋敷に訪れた貴族たちに伝わり始めて“警備はどうなっているんだ!”と怒鳴り散らす者や、荷物をまとめて帰ろうとするものなど皆様々な動きを始めた。



 現領主、ルーカス アシトランテ伯爵は焦っていた。


 襲撃から半時ほど経ってもまだ賊の痕跡や、姿の情報が入ってこない。

 直ぐに各貴族へ警戒するように伝達を送ったため、もう屋敷中に襲撃の事が知れ渡っているだろう。

 今日はアンナの誕生日と婚約披露のために、スペシャルな客人ばかりで警護には格別な注意をはらっていた。


 だが、なかなかどうして、こんなことになってしまったのだろうか。


 可愛い娘の晴れの日をワザワザ狙って来るとは、本当に忌々しい賊だ。

 もう捕縛は叶わないのだろうか。

 捕縛が叶わないということは、脅威が取り払われていないということ。

 今日の夜会は中止せざるをえないだろう。


 深くかすめた自身の傷がジクジクと痛む。

 

 手当てをして新しい服に着替えたので、見た目では襲撃の痕跡は無い。しかし、ルーカスの心は憤りで燃えていた。


 一通り屋敷の警護を固め直した後、執務室へ戻り何か新しい連絡がないか待っていた。


 なんの変化もない時間にイライラが募りだした頃、扉がコンコンッとノックされた。


「入れ」


 部屋の前は現在騎士が警護をしている。最初のノックはこの騎士か、家の者だと決まっている。


 “失礼します”の声とともに、警護の若い騎士が入ってきた。


「フリッツ公爵家の使いが来ておりますが、どうされますか?」


 部屋の前にフリッツ公爵家の使いが来ていると言う。大方近況を聞きに来たのだろうが、今は何もわかっていない。

しかし説明は必要だろうと思い、通すように指示をした。


 コンコンッと再びノック音が響いた。


「どうぞ」


 先程の騎士が扉を開けて中へと招き入れた。

 使者がツカツカと急ぎ足で、伯爵の前まで来て、恭しく挨拶をする。

 

 急いで来たのか、少し息が荒い。


「お久しぶりでございます。アシトランテ伯爵様。フリッツ公爵家でお世話になっております、サビス ランドルフでございます」


「おお!久しいな。今日は本当に申し訳なかった。せっかくお前の主人の晴れの日だというのに」


 伯爵は申し訳無さそうに少し頭を下げた。


「いえいえ、そんな。伯爵様はお怪我をなされたとお聞きしましたが、お元気そうなお顔を見れてホッとしております」


 伯爵が下の者に頭を下げたため、少し動揺してしまった。

 ここに素晴らしい人格者たる所以をみた気がする。


「こんなかすり傷程度の怪我なぞなんともないわ!武のアシトランテの異名は伊達じゃないぞ」

 

 そう言って怪我をした腕にムンッと力こぶを作ってみせニカッと笑った。


「ところで、ここに来たのは賊のことかな?それとも今日の夜会についてかな?」


 伯爵は、完全に自身が説明する側だと思っていた。


「アシトランテ伯爵様のお嬢様についてのお伝えしなくてはいけないことがございまして参りました。賊に関係することかもしれません」


 伯爵は、驚きのあまりに机にバンッと手をついて立ち上がり、座っていた椅子を倒し、目を見開いて前のめりになった。

 待ち望んだ情報が、まさか娘の婚約者の家からもたらされるとは思いもしなかった。


「して、その情報とは?」


「はい、当家の主人とお部屋で休んでいましたところ―――――」


 サビスは、お嬢様が窓から飛び降りた事、森へと走り去った事、フリッツ公爵が後を追っている事を丁寧に伝えた。

 そして、その行動が異常である前提で、何か賊に関わる事がおきたのではないかと推測を交えて話した。


「なるほど、確かに娘の行動は異常だな」


 伯爵が考えを巡らせていると、そこにアンナの侍女が入ってきた。


「来客中に申し訳ございません。至急お伝えしたいことが御座いまして入室させていただきました」


 走って来たのか、ハァハァと肩で息をしている。


「丁度よいところへ来た。聞きたいことがあったのだ。アンナは今どうしている?」


 伯爵が侍女に問うた。

 侍女のメアリはちらりとサビスに目をやったが、伯爵が“うん”と頷き話すよう促した。


「アンナ様がお部屋から消えてしまいました。少し目を離したすきにです。どこにもいらっしゃいません」


 侍女のメアリは申し訳なさそうに話した。

 ここに来るまでにかなり探したのだろう。額が汗で濡れていた。


 伯爵は落ち着いていた。

 先程、サビスかの話を聞いていたからだろう。誘拐や拉致の可能性がないことはわかっていたので、大きなため息1つですんだ。


「よい。アンナの動向はこちらにも話がきている。窓から抜け出して森へと行ったそうだ。おそらく犯人を追っている」


 メアリは驚きと安堵で複雑な顔をしていた。こつ然と消えたお嬢様の行方がわかったのはうれしいが、まさか賊を追っているとは考えもしていなかった。


「まったく、お嬢様は。見つけたらただじゃ、おきません!!」


メアリは、安心したらふつふつと怒りが湧いていた。顔が鬼のように恐ろしい。



 



 伯爵は、アンナとフリッツ公爵が消えた森へと早急に騎士を手配した。


 日が落ちるまで、あと少しだ。

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