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神の国

アンナとニコラスの出逢いの話し。始まり。


 始まりは神の国。

 



 アンナとニコラスがまだ名もなき神だった頃。


 主神の娘として生を受けたアンナ。

 生まれたばかりのニコラス。


 彼女は、新神として生まれ落ち何不自由なく、ただ暮らしを楽しんでいた。

 彼は、美しい成人男性の肉体を持ち、いつの間にか森に現れた。



 そして、二人は突然出逢う。




 その日、彼女は薬草を摘みに森へ入り、いつの間にか奥へ奥へと迷い込んていた。

 明るく美しい森であったが、特徴が無く、方向を見失ってしまう危険性を孕んだ森だった。

 しかし、彼女は何も心配はしていなかった。

 彼女の父は主神。この世の全てを見透かす目を持ち、全てを見通す。何か困ったことが起きると必ず助けてくれた。

 迷子になろうが、故意に隠れようが、父には変わりないことだった。

 きっとお父様が助けてくれる。

 それは、絶対の安心感だった。


 しばらく歩き、清らかな泉の側へと辿り着いたとき、ほとりで水に足を浸けて休んでいる青年がいた。

 彼は何も身に着けてはいなかった。


「まぁ!」


 彼女は一瞬で理解した。


 彼は新しく誕生した仲間だと。


 

 神の誕生にはニ種類ある。

 1つ目は神同士の婚姻。

 2つ目は自然発生だ。


 彼は後者。滅多にお目見えしない自然発生的に生まれた神だった。

 彼女は直様、持っていた大判のショールを彼の身体にかけてあげた。


「ねぇ、あなた言葉はわかるかしら?」


 彼女は、泉に足を浸けたままの青年に声をかけた。

 彼はゆっくりと振り返るように彼女に目をやり、じっと見つめた。


 そのまま動こうとしない。よく見ると黒く美しい髪は濡れ、わずかに水が滴っていた。

 泉の中にいたのだろうか。


「ねぇ、あなたはいつからここにいるの?」


 彼女の問には何の反応もない。やはりただ、見つめられるだけだった。


 彼女は、彼を連れ帰ることにした。


 泉から足を引き上げ、肩を抱き、立つことを促した。

 彼は素直に応じてくれた。


「そういえば、私迷子の途中だったんだわ!」


 さて、どうしようかと一瞬悩んだが自分ではどうにもならない。

 諦めて助けを求めた。


「お父様!!」


 彼女は大きな声で、父親を呼んだ。しばらくすると、大きな風が吹き大きな大きな木の葉が真上から落ちてきた。ちょうど大人二人分の大きさだ。

 彼女はその木の葉の上に乗るよう促した。そして、自分もその上に座った。


 その瞬間ふわりと浮き上がり、森の外へと抜け出した。




 

 あれから時が経ち、彼は言葉を覚え、神の国の一員になっていた。


 彼女は今まで、右も左もわからない彼にここでの暮らしと掟を教えていた。


 彼は彼女を慕い、どこへ行くにも彼女についてまわった。

 

 彼女のことが大好きだった。

 彼女も彼が大好きになった。


 二人は愛し合い、自分たちの世界を築くはずだった。




 ある日突然、アンナは殺された。

 殺せないはずの女神が殺された。



 ニコラスは、生まれて初めて黒い感情に支配され、狂った感情に押し潰されそうになった。


 いったい誰が彼女を――――――――。


 誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ。

 

 彼女に逢いたい。



 彼女に逢いたい。


 

 彼女に逢いたい。



 彼女に逢いに行くから――――――。



 受けとめられない思いを力に乗せ、また逢える日を夢見て命の輪に魂を預けた。


 それが、終わらない時の迷子の始まりとなった。


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