アシトランテ領13 出逢う
彼女を探して痕跡を追い、森に入ってしばらくすると小屋のある開けた場所に出た。
キン!ガカ!
金属がぶつかり合う音が聴こえる。
人がいる。…2人?
淡い水色のドレスを着た女性が、背の高い男と切り結んで――――今、その短剣を絡め落としていた――――。
男は鳩尾の一発でその場に倒れ伏し、意識を無くしている。
彼女は肩で息をして、意識のないその男を上から見下ろす。
「アンナ嬢!」
私は思わず、彼女の名前を呼んでしまった。
彼女は腕で汗を拭いながら、こちらに目をやる。
彼女と目が合う。
その瞬間、弾けたような感情が生まれた。
「あぁ、あなたは変わらず美しい…」
???
今、私はなんと言った??
逢ったのは今日が始めてで、顔も知らなくて、会話もしたことがない。なのに、懐かしい気持ちと愛しい気持ちと悲しい気持ちと…覚えの無かった感情が溢れ出す。
「あなたは、アシトランテ伯爵令嬢ですよね」
彼女は私の顔を見て目を丸くした。そして直様恥ずかしそうに下を向いて、手に持っていた剣をサラサラと塵に変えていた。
◇◇◇
"アンナ嬢!"
!?!?!?
急に名前を呼ばれた。誰?
わたしの名前を呼ぶその人と、目があった瞬間、目の前がスパークする。
貴族の正装をした、長い黒髪を後ろでひとつに束ねた背の高い男の人。
あの人…。
知ってる?
なんだか懐かしい?
わたしの中から何だかよくわからない感情が溢れた。
あれ?今あの人、わたしのことを"変わらず美しい"つて言った!?美しいって!
…変わらず?
彼はわたしをアシトランテの伯爵令嬢だと知っていた。
途端に、土で汚れて、戦いで乱れた自分の姿が恥ずかしくてたまらない。
わたしったらなんて格好を!
静かに刀を塵に戻したーーー。