アシトランテ領12 戦い
魔力を込めた鉄のクロスはほのかに熱くなり、サラサラと周囲の砂鉄を集めだす。
イメージは長剣。片刃にして薄く切れ味を重視。
前に東方からの輸入品の中に変わった形の剣があった。刀というらしい。
妙に手に馴染んだから好んでその形を愛用している。
扱いは難しいが切れ味が素晴らしく、軽くていい。
砂粒だった鉄が媒介に集まり密度を増す。
柄から鍔へ、鍔から刀身へ。徐々にその形が現れ、美しく輝きだす。
それは、漆黒の長剣の形を成した。
刀を腰で構えて、重心を低くする。
殺してはダメ。捕まえるだけ…捕まえるだけ……。
深い深い深呼吸で、鼓動の高ぶりを鎮め、気持ちを凪にする。
大丈夫。あとは敵の油断を待つのみだ。
男は小屋を背に足を止めていた。誰かを待っているようだった。
遠くで馬車の音がする。今も続々と貴族の馬車が到着しているのかもしれない。
大きな鳥の声がした。男の視線がそちらに向いた。
今だ――――――。
素早く走り距離を詰める。
男まであと3歩。
柄を握る手に力が入る。
男の視線がこちらに向いた。構わず距離を詰める。
今―――!
足を狙って刀を振り切る―――――。
男は後ろによろけた。
避けられた。浅い。浅かった。
これでは動きを止められない。だけど、一太刀くれてやった。
「クソ!誰だ!!」
男は懐から、長めの短剣を取り出し構えた。
足からはうっすら血を流している。
わたしは刀を正面に構え直す。
「あなたこそ、なぜお父様を襲ったの!」
チッ。
小さな舌打ちと共に、こちらに短剣を向け襲いかかってきた。
構えは素人、どうやらプロの始末屋ではなさそうだ。
キンッ!ガカッ!
突出された短剣を、刀で受ける。刀身をぐるりと回し、短剣を絡め落とした。
そのまま距離を詰め、柄で鳩尾を一発。
男はその場に崩れ落ちた。
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