アシトランテ領9 発見1
あいつだ――――――!
その瞬間、体が勝手に動いた。窓枠に手を掛けふわりと飛び降りる。
ここが3階であることはわかっていたけれど、大して問題ではなかった。
普段から、体を鍛えて有事の際の訓練を受けている。3階程度なら飛び降りても怪我はない。
アシトランテは武の貴族。
才能を見出されたときから、いつでも、一人の戦士として戦える教育をされてきた。敵を追いかけてしまうのは性かもしれない。
見つけた人物は、貴族の従者のような格好をしていた。
庭園の隅をただ男が一人歩いているだけだった。特に不審な様子はない。
しかし、勘としか言いようがないが、この男は怪しいと感じた。
お父様を傷つけたのはコイツだ。
ふわりと降りた側では、邸内へと案内される貴族の面々が列を成している。
中央扉からは離れた位置に降りた為、ほとんど気づかれなかったが、一部には目撃されてしまい少々騒がれた。
しかし、構わず、一直線にあの従者の格好をした男を追った。
絶対に捕まえてやる――――。
暗くなる前に決着をつけなければ逃げられてしまう。
男が庭園を抜けて森へ入ろうとしている。
まだこちらには気付いていない。
追いかけて、追いかけて、わたしも森へと入っていった――。




