アシトランテ領8 追跡
「ニコラス様、ニコラス公爵様!!お待ち下さい!急にどうなされたんですか」
庭に出たところでやっと追いつき、並走しながら真意を聞く。
パーティーに訪れた人達の視線が痛い。
「あれは、私のなんだ」
走りながらポツリといった。
「はい?」
「だから、あのドレスは私が伯爵令嬢に贈ったものなんだ」
サビスは驚愕の顔をした。驚きすぎて、足が縺れそうになった。
「ままま、まさかあれはアシトランテ伯爵令嬢ですか?!」
「おそらくは」
「今日の主役じゃないですか!どうするんです!もうすぐ、夜会が始まりますよ!?」
「そうだな。どうするんだろうな」
サビスは慌て困惑していたが、わたしは構わず彼女の後を追った。
追いかけてどうするのかと言われてもわからない。ただ、今、逢いたいと思ってしまっただけだ。
彼女に何があったかわからない。
彼女は私が誰だかわからないだろう。
でも助けになりたいと思ってしまったら、体が勝手に動いてしまった。
「ニコラス様、すみません。護衛の立場ながら今ここを離れるのは心苦しいのですが、この事実を一度アシトランテ伯爵にお伝えしなければなりません。どうせ、あなたは何を言っても足を止めてはくださらないでしょう。私は一旦離脱します。どうか危ないことはなさいませんよう、くれぐれもお願いします」
サビスは、悔しそうに言葉を絞り出した。
「心配するな。無茶はしない」
「絶対ですよ!直ぐにまた追いかけますのでくれぐれも気を付けてください!」
そう言って、その場を離れた。
私は、ひとり、彼女が向かったであろう方向に足を進めた。
大きく傾いた陽が眩しい―――――。