アシトランテ領7 青い天使
「えっ?」
私の視界端に、見覚えのあるモノがふわりと舞い降りて―――落ちていった。
「サビス!」
「はっ!」
一瞬にして部屋中に緊張が走った。
サビスはいつでも魔法発動ができるように構え、窓の縁に身を隠しながら外の様子を伺う。
エイミーは腰の短剣に手をやり警戒態勢をとる。
「サビス、今のは…」
「はい、上からおそらく人が落ちてきたのかと」
「あれは、私のだ」
「はい?」
サビスは、訳がわからないといった顔をしている。
「いや、いい」
「はぁ」
あれは、確かに私がアシトランテ伯爵令嬢に贈ったものだ。
あの淡い水色、柄はわからなかったがあの金の刺繍はそうそう無い。
ということは…あれがアンナ嬢…。
ドクンっと心臓が大きく脈打った。
一瞬人影を見ただけなのに、何故か確信と心がざわついた。
「ニコラス様、上から落ちてきたのはドレスを着た女性のようです。今、あちらへと走って行きました」
サビスは、西の方を指した。
迷いなく走っているのを見ると、どうやら落ちたのではなく、故意に降りたようだ。
害は無いと判断し、警戒を解く。
「しかしびっくりしましたね。まさか人が飛び降りて来るなんて、しかも女性ですよ」
サビスは、彼女が消えた方を見ながら口にした。
天使のようにふわりと舞い降り、庭園の向こうへと姿を消した彼女が私の婚約者。
人影しか見えなかったが、ざわつくこの心は何なのか。
この気持ちがどうしてなのか、わからない。
「サビス、エイミー、ちょっと急用を思い出した」
そう言って駆け出した。
「ニコラス様?!待ってください!急にどうしたんですか!エイミーすみませんがここをお願いします!」
サビスはエイミーを残し、後を追った。