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アシトランテ領6 事件

 メアリに促され、わたしは自室を出てお父様の元へ行く途中だ。

 

「ねぇメアリ!フリッツ侯爵様にはいつお逢いできるの?」


 「夜会の会場とお聞きしています」


「そうなのね。ねぇ、ところで今日のわたしの格好はおかしくないかな?」


 本日5回目の“おかしくないかな?”だ。


「ステキな装いに仕上がってますよ。何度も言っていますが、自信を持ってください!」


 本日5回目の“自信を持ってください!”だ。


 「だって、普段こんなに着飾らないから心配で」


 父から魔法剣士の才を見出されてからは、いつでも剣の練習がしやすいように騎士服姿で過ごすことが多かった。

 だから、着慣れない豪華なドレスやアクセサリーに、自が相応しいか度々不安になる。



 しかし、わたし自身にこんな感情が生まれるなんて、なんだか信じられない。


 今朝までは特に何とも思わなかったのに。急に見たこともない婚約者にたまらなく逢いたい気持ちが生まれた。


 これって成人の自覚の芽生えかな?なんてね。


 友情や家族愛は以前からもあった。だけど、異性が好きだ、好かれたいという気持ちはほとんど無かったから、ふわふわした気持ちがくすぐったい。


 そういえば、こんなおかしな婚約って初代様と契約した魔法使いが決めたのよね…。

 まさか魔法にでもかかってたのかな。


 でも、なんだか魔法っていうよりも呪いみたい。




 タッタッタッタッ…。


 前方から若い使用人が、焦った様子で急いでこちらに向かって来る。


「何事ですか。廊下を走るだなんてはしたない。

もう、来賓の皆様もおいでになられてるんですよ」


 メアリが使用人を咎めた。


「お嬢様、騒がしくしてしまい申し訳ございません」


 彼女の代わりにメアリが使用人の非礼を詫た。


「いいわ。それよりどうしたの?何かあった?」


 彼女は、わたしを見るなり安心したのか、ハラハラと涙をこぼし始めた。

「はっはい…わたくし、ご領主様の部屋付き侍女をさせていただいております」


 確か、父の部屋で何度か見かけた気がする。

 

「それが、今し方ご領主様がっ!ご領主様が何者かに襲撃されました!」


 ドクンッと心臓が大きく跳ねた。


 「なんですって!どうして!」


 さっきまでの楽しかった気持ちが急に地の底まで落ちた。

 もう誕生日パーティーなんてどうでもいい。


「執務室でアンナお嬢様をお待ちになられていたのですが、何者かが窓の外から魔法を放ったらしく、お怪我をされて…。襲撃犯も逃げてしまったようです」


「お父様は!生きていらっしゃるのね!!」


「はい、でも腕を深くかすめて血が…。わたくしはお嬢様にこのことを知らせて、警戒するように伝えろと仰せつかってこちらに参りました」


「そう、わかったわ。ありがとう」


 まさかお父様が怪我をされるなんて…。


 全盛期からは衰えたものの、いまだ国で5本の指に入るであろう武人の父だ。武勲も多いが敵も多い。

 いつ何時も警戒は怠らない人だったが、まさか娘の晴れの日を狙って襲撃されるとはさぞ悔しいだろう。


「ねぇ、あなたは襲撃されたときその場にいたの?」


「はい、側で控えておりました」


 涙で声が震えている。


「じゃあ、犯人は見た?どんな攻撃方法だった?覚えていることを教えてほしいの」


 犯人については、できるだけ情報は持っていたほうがいい。

 お父様の襲撃は失敗している。また同じことが起こるかもしれない。


「あのっ、窓の外から何かが飛んできて、ご領主様の腕をかすめて、壁に刺さったのは見ました。とっさに避けられたのだと思います。その、犯人の姿は見ていません」

 

「そう、ありがとう」


 私は、お父様の侍女にお礼と持ち場に戻るように言った。


 侍女はペコリと頭を下げて戻って行った。


 この襲撃のことは、直ぐに屋敷中に伝わるだろう。

 私の誕生日と婚約披露を祝うために、王都から帰省している兄達にも今頃伝令が飛んているはずだ。


 あぁ、せっかくフリッツ様に逢えるはずだったのに…仕方ないけど、もうしばらく無理かしら…。

 一旦部屋に戻って体制を整えなきゃ。


「メアリ」


「はい」


「一旦部屋に戻って着替えます。メアリも周りを警戒してください」


「かしこまりました」


 私は身につけていたアクセサリーを外しながら、早足で来た道を戻った。

 メアリは、すかさずアクセサリーを預かり、ポケットから出した小箱に収める。



 姿を現していない襲撃犯は何人で、武器は何を持っているのか、全くわからない。


 私は歩きながら頭の中を巡らせた。


 お父様の執務室は東南側の庭園が1番綺麗に見える3階の真ん中だ。普通の人には容易に狙える場所ではない。そして、屋敷入口には常に人がいて、怪しい人物は目につく。


 つい先程の犯行だからまだ敷地内、いや、庭園内にいるかもしれない。

 今日は沢山のお客様が来ているから、知らない顔があっても不審じゃないから隠れるにはうってつけの日よね。


 ああ、もうすぐ陽が落ちきってしまう。急がなくては!




 お父様の執務室と同じ階の端がわたしの部屋だ。


 自室にたどり着き、メアリは直様クロゼットへ行き、服を用意し始める。

 わたしは、窓辺で外の様子を伺いつつ、メアリが動きやすい服を用意してくるのを待っていた。





 見つけた―――――――――!!



 その瞬間、わたしは窓に手を掛け、ふわりと飛び降りた―――――。


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