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本日、三回目の投稿です。

ご注意ください。



 

 こうして、バダンテールの未曽有の危機は去った。

 後には「魔王を弟子にした」令嬢が残った。


「違うわよっ! 「魔王を弟子にしたお供」を持っただけよ!」

 だいたい、同じようなものである。


「なんなのよ! 魔王を弟子って!」

『ご、ごめんね、アルメル』

『ポコよ、そいつ、返して来たら?』

『道端で拾ってきたドラゴンではないので』

『そうだな。一度は了承したのだ。最後まで面倒を見てやれ』

 取り乱すアルメルにおろおろするポコ、小首をかしげるチョロにため息をつくピイちゃん、無責任に他者に責任を押し付けるプニル。

 一行のやり取りを見て、魔王はちゃんと別のものに見えるように擬態しているからと請け負う。


「やっぱり、この弟子入りはお断りするということで」

 アルメルは最後まで抵抗した。けれど、誰が魔王に否と言えようか。

 心の中でこっそり、王妃に謝っておく。


 道端で魔王は拾わなかったが、鳥の姿をした妖精は拾って命を救ってやった。そこから、アルメルのこの冒険は始まったのだ。そして、先へ続いて行く。




 さて、アルメル一行はいったん、バダンテールの王宮に戻って報告しなければならない。

「さすがに、ドラゴンのままでは連れて行けないわ」

『ならば』

 魔王は変化の術を駆使してチョロくらいの大きさのトカゲになった。トカゲにしては大きい部類だが、ドラゴンよりも目立たない。全体的に鋭利な印象だ。そして、長時間変化していることができるという。


 魔王も名がないという。

『……』

 ピイちゃんの無言の視線が痛いが、本人が名付けろというのだ。師匠と同じくアルメルに。いたし方がない。

「チョロはもういるしなあ」

 ちなみに、ちょろちょろしているのと同時にチョロいことから名付けた。


「デシ」

『そのまんまですね……』

 ピイちゃんが「言わんこっちゃない」とばかりに渋い顔をする。


『いやあ、それはかわいそうすぎる』

 チョロよ、お前の名前も相当なものだぞ。


「名前はその人、動物の体現よ! わかりやすくていいじゃない」

 動物ではなく妖精、そして今回は魔王であるが。

 魔王に名を与えた令嬢というのもなかなかにいない。そして、残念なことに、あまりにもネームセンスがなかった。


『デシ、いっしょにがんばろうね』

『はい、ポコ師匠!』

 ポコにそう言われて、魔王はうれしそうだ。


『本人が気に入っているのだから、それで良いではないか』

 プニルが自分には関係のない話だからとばかりに適当に言う。


 そんな風にわいわい言いながら歩いていたら、あっという間にバダンテールの王都に帰って来た。

「なんだか、なつかしい気持ちすらするわ」

 王都へは王妃の召喚ではじめてやってきたのに、不思議なものである。


 王宮へたどり着くと、すぐに王妃の下へと案内された。

「あの、この子たちは、その、」

「そちらの妖精のみなさまもごいっしょにということですので」

 話が通っている様子で、アルメルは安堵する。


 案内されたのは以前連れていかれた立派な部屋で、宝珠が置かれているところだ。以前とまったく同じで、王妃とものすごくきれいなお付きの人がいた。違うのは父がいないことだ。


 王妃はアルメルを抱きしめ、身体を離して上から下まで視線をめぐらして怪我の有無を確認し、ふたたび抱擁ほうようした。

「無事で良かったわ」

 言葉の端がふるえ、まなじりに涙が盛り上がる。

 魔王討伐の是非よりもまず真っ先にアルメルの無事を喜ぶ姿に、がんばって良かったと噛みしめる。


「疲れているでしょう。飲み物は? お腹は空いていない? そう。では、どんな風だったか話してちょうだい」

 王妃に手を引かれ、長椅子に隣り合って座る。


『な、簡単やったやろ?』

「はい。でも、ぴゅーっとの後にばばーんでした」

 ぴゅーっとプニルに乗って魔王の下まで行って、ポコがばばーんと変化の術比べで勝った。

『そんなん、どっちでもええねん!』


 さて、デシこと魔王は念のため、しゃべらず、おとなしくしているように言っておいた。しかし、宝珠は千里眼の持ち主だった。

『ところで、なあ、嬢ちゃん、なんで魔王なんて連れているん? お供? お供なの? 魔王を?』

 アルメルは目を見開いてただただ宝珠を見つめることしかできない。


「まあ!」

 王妃は両手を口元に宛てたあと、お付きの人にささやいた。つねに冷静沈着な彼が珍しく動揺を見せる。

 アルメルの視界の端に、ピイちゃんがしぶい顔をするのが見えた。ほかの妖精たちはのんびりと好きな体勢でくつろいでいる。


『いややわぁ。この子、いややわぁ! 魔王までもお供にするなんて! そんな令嬢、おる? まだ、ねえちゃんのぐうたらの方がなんぼかマシや!』

 宝珠は絶好調でしゃべりつづけた。ところで、ぐうたらってなんだろう。

「ちょっと、お黙りなさい」

 王妃がぴしりと宝珠をいさめる。

 アルメルは観念して魔王がポコの弟子になったことを話した。


『はァァァァ?! 魔王が弟子にィ?!』

「まあ、素晴らしいわ。これで王国の危機は去りました。さあ、アルメルやみなへの報酬の話をしましょうね」

『いや、ちょっと、待ってや。わしの話も聞いてや!』

「宝珠、あなた、この時期に魔王討伐に送り出したのはこうなることを知っていたのではなくて?」

『いやあ、まさか弟子入りしてしまうなんて思いもよらんかった』

「そんなあやふやなまま、アルメルを危険に向かわせたというの? 本当に役に立たない宝珠ね!」

『なんやてえ!』


 そんなやり取りを聞きつつ、アルメルはふと気が付いた。今、アルメルは王妃と手を繋いでいない。身体のどこも触れていない。にもかかわらず、宝珠と王妃のやり取りがはっきりくっきりと聞こえる。

「なんだか、ずいぶん、遠くまで来てしまった気がする」

 しかも、高尚こうしょうななにかではなく、ちょっと、いや、だいぶん、残念な方向に進んでいるような気がする。それも、自分らしい気はした。





センスがないとかそういう問題じゃないような気がします……。

ところで、残念令嬢ってネームセンスがないことも含まれているのでしょうか(今、気づいた)。

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