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本日、二回目の投稿です。

ご注意ください。



 

 アルメルは身構えた。ピイちゃんは自分で避けられる。ポコとチョロをひっつかんで逃げないといけないかもしれない。しかし、そうなったら、プニルは? 置いていく選択肢はない。それができるなら、アルメルは残念令嬢とは呼ばれなかっただろう。

 アルメルが懸命に考えている間に、魔王は動いた。


 巨大なドラゴンの輪郭りんかくがうねる。

 驚いた。絵本の挿絵ではなく、巨大で熱量や重量を威圧を伴ってひしひしと感じられる存在が、するすると縮んだ。そして、違う輪郭を作り上げ、別の存在を形成する。

「と、鳥?! って言うか、煙は出てこないの?!」

『驚くのはそこですか?』

 変化の術を行使したにもかかわらず、ぼふんという音も煙もたたずにおどろくアルメルに、ピイちゃんが白い眼を向ける。こんな急場に平常運転のふたりだ。


 大きく優美な姿をした鳥はさっと羽根を広げたかと思うと、また姿を変える。今度は馬だ。

 魔王は次々に変化した。非常にスムーズな姿変えだった。

 鳥に、馬に、カワウソに、そして、タヌキに。

『どうだ?』

 そう言ったのは本来の姿であるドラゴンの形に戻ってからである。


 アルメルはピイちゃんが言っていたことを思い出す。魔王の本当の姿はもっと大きいのだ。城の中に入れるサイズではないくらいに。

 こんなにあれこれ変化できる技術の持ち主はもっと大きく、それだけに力も甚大なのだろう。

 アルメルは足元からどんどん冷えがい上ってくるのを感じた。それは不安からくるものだ。


 しかし、ポコはあきらめていなかった。

『あ、待て、今度こそ、俺の番!』

 そんな風に言うチョロをよそに、ポコが木の葉を一枚頭の上に乗せる。

 ぼふん、と煙が出る。

 なんだかそれが、ポコの生命力が発散されているような気がして、無性に、かき集めてタヌキの身体に戻したい気持ちになった。


 ポコは今度は蝶に変化した。

『ほほう、見事なものだな』

 対する魔王は余裕たっぷりだ。

 蝶がひらひら飛ぶのに、ついうっかり、チョロが狩猟本能を刺激され、ぴょいっと飛び上がる。かろうじて避けたが、すぐにポコはタヌキ姿になって、尾を前に持ってきて、涙目でふうふう息を吹きかけている。かわいい。


『むむう』

 はじめて、魔王の余裕の姿勢が崩れた。

 魔王もまた同じく蝶の姿を取る。そして、チョロの目の前をあおるように飛ぶ。チョロは耐えた。か弱そうに見えて、あれは魔王だ。でも、あんなに薄いはね、ちょいと前足を払ったらさっくりいくのでは―――いやいや、だめだ。でも、柔らかそう―――いやいやいや、だめったらだめだ。


『ッシャァ!』

 とうとう、我慢できなくなったチョロが襲い掛かる。


『ぎゃっ』

 しかし、傷ついたのはチョロだった。


「チョロ!」

 アルメルは慌ててチョロに飛びつく。力なく横たわるチョロの前足の爪がはがれかけている。このくらいで済んでよかったというべきか、アルメルは王妃から渡された物資の中から薬を引っ張り出してじゃばじゃばとかけた。

 とたんにチョロの前足は元通りになる。


 安堵する間もなく、しみじみとした声が聞こえてくる。

『ふむ。やはり、わたしは変化の術を用いていても耐性は変わらないのだ』

 魔王だ。見れば、ドラゴンの姿に戻っている。


『そこなタヌキの変化は蝶そのものの繊細さを体現していた』

「ということは、変化の術対決はポコの勝ち?!」

 魔王の述懐に割り込み、そんなことを言ってしまえる豪胆さがアルメルにはあった。だからこそ、残念令嬢と言われるのだ。


「やったわ、ポコ! 勝ったわ!」

『え、そ、そうなのかな、』

 喜ぶアルメルに水は差したくないけれど、勝ったと言ってしまって良いものか、魔王が気を悪くしないかとポコはおろおろする。


『ちっ、しゃあねえな。まあ、ポコは俺より唯一優れた変化の術の持ち主だからな』

 唯一ではなかろう。たぶん、ほかにもいっぱいいる。チョロは認めないだろうけれど。


『そのポコを運んできたのは吾輩だ』

 プニルも復活して立ち上がっていた。たまに八本ある肢のどれかがふるえることもあるけれど。


『……』

 ピイちゃんは用心深く魔王の様子を観察していた。


 その魔王といえば、ポコに近づいた。

『ひぃっ』

(なしくずしの)変化の術対決をしたときはあんなに雄々しかったポコが悲鳴を上げてアルメルの後ろに隠れる。


『すばらしき変化の術であった』

「じゃあ、ポコの勝ちということで良いですね?」

 アルメルはにっこにこで言う。


 しかし、事態は妙な方向へ転がっていく。

 魔王はドラゴンの首をたわめてポコをのぞき込む。

『ひぃっ』

 ポコは魔王の顔がのぞき込んでくる逆側のアルメルのスカートに抱き着く。

 なんの状況だ、これ。

 アルメルも困り果てた。


『弟子にしてください!』

 魔王のとうとつな言葉に、居合わせた者たちはぽかんとした。

「な、なんでだ?!」

『わたしの変化の術は完ぺきではない。その存在そのものになりきる変化の術を体得したい!』

『……完ぺきじゃないの?』

 ポコが身動きして顔をドラゴンの方に向けると思ったよりも間近に迫ってきていたから、またうずめる。アルメルのスカートに。


『ポコ、弟子になさい』

「ピ、ピイちゃん?!」

 なにを言い出すのだ。魔王を弟子に? そんなものがまかり通るのか。

『弟子にすればポコの言うことは聞くでしょう』

「あ、なるほど。魔王は討伐しなくても、無力化すれば良いのね」

 無駄に他者を害しなくても良いということに、アルメルは安堵する。


『ええと、僕もまだ変化の術を磨いているところだから、いっしょに練習しよう?』

 そういうことならば、とポコは提案する。おずおずと言うのに、魔王は感極まる。

『なんと! さすがは師匠! 変化の術の奥深さをよくよく理解されておられる!』


 魔王は今までいっしょに励もうと言われたことがなかった。たいていなんでもできたからだ。変化の術も、魔王本来の頑丈さを残していても別段何も問題はない。ただのこだわりだ。

 でも、長い生なのだから、目的をもって努力するのも楽しいではないか。




緊迫シーンは一瞬です。

お次はアレです。相変わらずです。

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