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本日、二回目の投稿です。

ご注意ください。



 

「お、お嬢さまァ?!」

 鳥に言われた薬草を取って来て、指示通りに煎じて飲ませた。うとうととまどろみだした鳥に安堵する。通常の令嬢は館に閉じこもっているものだ。残念令嬢だと言われてあっちこっちをふらふらするアルメルではあるが、さすがに館に戻らなければならない。

 小屋を出たアルメルを見つけた侍女が卒倒せんばかりだった。


 貴族の令嬢が顔に傷を作って、と家人にこっぴどくしかられた。

「これでは嫁の貰い手がない」

 そう言われ、以前から考えていたことをここぞとばかりに主張する。

「では、わたくしは修道院へ参ります」

「待て。結婚もせずに修道院だと?」

「はい」

 修道院ならば、各種薬草を育て、家畜の世話をして生涯を終える。すぐにアルメルが馴染めそうな生活だと思うのだ。


「ならんならん。そんな枯れた生活! お前はまだデビュタントも果たしていないのだぞ!」

 デビュタントする前に修道院へ直行する令嬢など、後ろ暗いことがあるに違いないと痛くもない腹を探られる、と両親や兄姉がそろって反対した。アルメルは言葉を尽くしたものの、まったく言い分に耳を貸さない。


「ねえ、ひどいと思わない? さんざん、残念だって言ってきたのに、デビュタントしろ、結婚しろと言うのよ? 今さら社交界に出たいとは思わないわ」

 翌日、様子を見に行った鳥に愚痴ぐちを言う。残念令嬢そのものだが、アルメルとしては誰かに聞いてもらいたい。


『なんでも、成しげようとするなら、きれいなままではできません』

 大きくうつくしい鳥は理知的なことをしゃべる。きっと、性格もそんななのだろう。

「それって、「貴族的な笑み(アルカイックスマイル)」で心の中をさらさないことみたいね」

『あなたは本当に賢い』

「え、そ、そうかな?」

 褒められることなどめったにないアルメルは顔がにやける。


『貴族のご令嬢というのもそうです。うつくしく着飾って作法を身に付けて、それが当然というように振る舞っていますが、その実、その姿を作り出すのに努力や金銭などを必要とします』

 なんで鳥が貴族令嬢について詳しいのかと思ったが、ひとつ質問したらふたつみっつどころか十は返ってきそうだから、違う感想を述べた。

「なんでも簡単にはいかないねえ」

 それでも、やはり向き不向きはある。だから、アルメルは修道院へ行って、動植物を育てることが良いと思うのだ。


「ところでさ、あなたはふつうの鳥じゃないよね?」

 ふつうの鳥はしゃべらない。

『はい。妖精です』

 あっさり答える鳥の言葉に、アルメルは面食らう。

「妖精ってもっと小さいものじゃないの? 蝶のはねを持つ小人とかさ」

『型破りに見えて、あなたは案外、ステレオタイプなんですね』

 鳥は目を細め、ふっと鼻息を漏らした。


「あっ、馬鹿にして!」

『いえいえ、破天荒はてんこうなのかと思ったら平凡———いえ、偏見———もとい、わりにふつうなんだな、と』

「平凡って! 偏見って! 絶対馬鹿にしている!」

 そんな風にアルメルとぎゃあぎゃあ言い合えるほどに回復していた鳥は、礼を言って去って行った。


「妖精っていうんなら、もうちょっとさ、なにか恩返し的なものはないのかしら」

 そんな風に言ってみても、その実、アルメルはなにかを欲しいとは思わなかった。

 だって、しゃべる鳥といっしょに過ごしたのだ。ちょっとばかりとっつきにくいのもご愛敬あいきょう、補って余りあるほどきれいな羽根を持っていた。なにより、ちょっぴり冒険の匂いがする。

 アルメルはわくわくと高揚してくる気分を存分に味わった。

 まさか、冒険も冒険、そんじょそこらの者が経験することがない旅立ちが待っているとは思いもよらなかった。

 それよりも、鳥が去る時に見せた、うつくしい色彩の羽根を広げて大空を優雅に飛翔する姿に、とても満足していた。




 鳥が旅立って数日後、館に立派な馬車がやってきた。

「王妃殿下がアルメルを王宮へ招待されると?」

「はい。ぜひにと」

 王宮の使者の言葉に、両親は貴族的微笑を忘れてとまどった。

「しかし、末の娘はデビュタントもまだでして」

「存じております」

「申し上げにくいのですが、礼儀作法もまだ教育途中でして」

「ご懸念けねんには及びません」

 両親はせっせと断りの言葉を告げるも、使者は確固たる意志を伝えた。これは断れない。


 両親は諦めてアルメルに支度をさせ、あれこれ言い含めて送り出した。なにせ、使者は王妃からいっしょに連れてくるようにと命じられていると言うのだ。

 通常ならば、いついつに召喚に応じますという返答をたずさえて、使者は先に王宮に戻る。

 さすがに馬車は別のものを仕立てた。王宮の使者と同乗するなど、アルメルは窮屈きゅうくつだし、両親からしても娘がなにかしでかさないかと心配この上ない。


 不安に駆られたのか、父が同行した。

 アルメルは馬車の中でくどくどと禁止事項を言い立てられ、気が遠くなりそうだった。幸い、クラルディ子爵家領は王都からそう遠くない。二泊三日の旅を終えて、無事にバデンタール王国の王宮に到着した。


「ふわぁぁ、立派ね!」

「ほら、口を開けっ放しにしない」

 見上げれば自動的に口も開こうものだ。父親に背中を押され、アルメルは精いっぱい淑女らしい姿勢を取る。


「ここが白鷺しらさぎと言われる城ね!」

 噂に違わぬ優美な白い建物だ。

 両翼を広げた形がちょっとあの鳥が飛翔する姿に似ている。

 だからか、アルメルはそれほどいやな気持になることなく、父の後をついて王宮の廊下を歩いた。


 案内された部屋は豪奢な部屋だった。

 こぢんまりした部屋でしばらく待たされるとばかり思っていたアルメルは、そこにうつくしい女性が背筋を伸ばして立っているのを見た。そばにはものすごくうつくしいけれど冷たい雰囲気がただよう男性が控えている。貴族的な微笑の向こうから、観察や値踏みといった視線を向けてくる。


 父が慌てて最上級の礼をするのに、内心驚きながらアルメルも淑女の礼を取る。

「お楽になさって。急に呼び立ててしまってごめんなさいね。わたくしはクリステル・バダンテール」

 王妃さまだ!

 アルメルは王妃から召喚されたというのに、まさか謁見えっけんするのだとは考えもしなかった。そのくらい、縁遠い雲の上の存在だったのだ。




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