1-(2) 長い髪
次の日、直君が深刻な表情で僕たちに話しかけてきた。
「昨日、風呂で変なことがあってね。……お湯につかってたら、長い髪が一本浮いてきたんだ」
「長い髪って、どれくらい?」
トシくん(俊雄)が聞くと、直君は手をぐっと横に広げて言った。
「このくらい」
「俺んちも、それくらいのよく浮いてるよ。お母さんのだけど」
たっ君(孝)の話に、直君は首を振った。
「俺の母さんはそんな長くないよ。パーマかけてるし」
「そうかあ。なんだか気持ち悪いね」
直君はおびえていたけど、ただ髪が浮いていたというだけの話だったから、これ以上みんなの話題になることはなかった。
ところが直君はまた次の日も暗い表情で登校してきた。
「直君、もしかしてまた髪の毛でも浮いてきた?」
僕が心配して聞くと、直君は頷いてから、
「昨日は一本じゃなくて、何本も浮いてきたんだ。それに……」
そこまで言ってから直君は黙ってしまった。
「それに、どうしたの?」
昨日のことを知っている仲間も集まってきた。
直君は少し声を震わせながら答えた。
「あまり髪が浮いてくるから、立ち上がったんだ。すると、風呂の底の方に白い女の人の顔が見えて……」
「あっ、もうダメ!やめてぇ」
怖がりのトシ君は逃げてしまった。