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夢を見ている。さっきまで笑いあっていた人がいきなり刃物を持って襲い出す夢だ。誰もが争いをする光景に足が引けてしまい、逃げることが出来なかった。
そんな間抜けを見逃すはずもなく、刃物を刺された俺は絶望したように喋る。
「また、駄目だった」
抑揚のないその声を聞いた俺は自分が人間なのか分からなくなった。そうして、視界が光に包まれていき――――――
「―――!――起き――!―――怒ら―る―!」
「ぁあ?」
「こんな暑い中よく眠れるなぁ大空翔くぅん?」
「先生?…あっ、ちょっと気分悪くて、ははは…」
「そんな適当言って誤魔化せると思うなよ?ってほんとに顔色悪いな。保健室行くか?」
「…すいません」
逃げるように教室から出て保健室に向かった。先生から連絡がいっていたのか直ぐにベッドを貸してくれた。
こんなことをしてていいのだろうかと不安な気持ちになってしまう。あの夢のせいだろう。寝るまであの夢のことが頭から離れなかった。
翌日。結局昨日は早退して家で休んでいたのだが、不安な気持ちは無くならなかった。何も変わりない、平穏な日常なはずなのに焦りを感じるのはなぜだろうか。
ガンッ!
「いってぇ…なんだ?」
「あいったたた…ごめんなさい!急いでて左右確認を忘れてました。それじゃあ、私急いでるのでこれで!」
そういえばここは人通りが多かったな。こんなとこで考え事なんて危ないしちゃんと前を見て歩こう。そう思って前を向いたらさっきの子が信号を渡っていた。
あの先には俺の通ってる結刈高校がある。だが制服はうちのとは違うってことは転校生か?
「チッ、運が悪いな」
俺が丁度信号を渡ろうとしたタイミングで赤になるとかついてねぇな。暇な時間を潰すために見慣れた20階越えのビルを眺めていると、環境の変化を感じる。
前まではあんな広告なかったのに今では普通だ。日本の総理大臣がコミカルにゲームの紹介をする光景に慣れた自分が怖く感じる。
あの夢を見てから色んなものを見て懐かしいと感じるようになったのは歳をとったということなのだろうか。
嫌だなぁ。
「やっと赤になったか」
学校に着くと、先生たちが忙しない動きをしているのとに気づく。話を聞いてみると、朝から体育館で大事な発表と説明があるとのこと。
ふとさっき見た広告を思い出す。総理大臣が紹介していたゲーム、VRRPGツクールX。
それがこれからの授業に組み込まれることにげんなりする………おかしい。なんで俺はそうなることを確信しているんだ?
言いようのない不安が膨れ上がり、心臓の音がいつになく大きく聞こえる。
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクン―――
「大丈夫ですか?」
「あ、あぁ。心配させたみたいで悪いな」
心配そうに見つめる彼女の声で何とか正気を取り繕うことが出来た。最近の俺はどうもおかしい。さっさと教室に荷物を置いたら体育館に行こう。
「これから大事な発表があるらしいですけど、なんなんですかね?先生達に聞いても教えてくれなかったし」
「さぁな…」
なぜ隣にいるんだろうか。知り合いでもないので話すことも無いだろうに。
教室に着いたら彼女は友人の方に行ったようで、喋る声が聞こえた。
「おはー藍」
「らんらんおはおはー」
「おはよう美希、凛」
「大空と一緒に来るなんて珍しいねー。付き合ってるの?私というものがありながら酷い子」
「そんなわけないでしょ、全く。そもそも誰と付き合おうと美希には関係なじゃない」
「凛助けてー蘭がいじめるぅぅ」
「よしよし、いい子いい子」
「凛ってほんとに撫でるの上手いよねー」
「猫飼ってるから」
「いいないいなー、うちの家猫ダメなんだよね〜」
名前を聞いて思い出した。確か、大雲青藍、華城美希、西条凛はファンクラブまであるほどに人気だったか。
3人の可愛さについて誰が一番か言い争っているのをよく見るから名前だけは知っている。さすがに顔までは知らなかったが。
なんでクラスメイトの顔を知らないんだ?…あ、そういえば俺入院してたから学校来てなかったのか。なんでこんなこと忘れてたんだ?
時間もそんな無いし体育館に行こう。決して知り合いが居ないクラスに居心地が悪くなったわけではない。
思い付いて時間があったら更新するかもです。