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美味しいアルファベット

作者: 村崎羯諦

「こちら『W』と『I』のアミューズ、ハーブ添えでございます」


 小粋なフレンチレストラン。髪をムースで整えたウェイターが男女が座るテーブルにそっと料理を置いた。これはどういう料理ですか? と女性が尋ねると、ウェイターはにこやかに微笑み、料理の解説を行う。


「こちらはブルガリア産の『W』の周りを酢漬けした『I』で巻き、その上にハーブソルトを振りかけたものとなっております。ブルガリア産の『W』は乾燥地帯で栽培されていまして、市販されているものと比較すると口触りが滑らかなことが特徴です。それではごゆっくり」


 ウェイターが優雅にお辞儀を行い、テーブルを立ち去った。女性は『I』に巻かれた『W』端っこを一口かじり、美味しいと驚きの表情を浮かべる。


「前菜は、旬のアルファベットを贅沢につかったテリーヌとなります。『L』の希少部位である角部分だけを2本分食感が残るように粗切りにし、アメリカ産『Y』のミンチを繋ぎとして高温のオーブンで焼き上げました。香り付にオリーブオイルだけを使い、具材本来の旨味をお楽しみいただけるようになっています」


 テーブルに座る二人は談笑を交わしながら、美味しいアルファベットを食していく。店の奥では専属のピアニストが軽やかなジャズ音楽を演奏している。二人は『O』がプカプカと浮かんだヴィシソワーズを嗜みながら、その音楽に耳を傾けた。


「『U』のソテー、フュメドポワソンを添えて、です。フュメドポワソンはオホーツク海で獲れた『M』のアラ部分、真ん中のV字の部分ですね、こちらを香味野菜とともに煮詰めたものです。後味がすっきりしており、鼻を突き抜ける爽やかな香りが特徴となっております」


 女性が『U』のソテーをナイフで綺麗に三つに切り分け、カーブ部分を口に運ぶ。淡白な味の中にも旨味が詰まった深いコクを感じることができ、飲み込むときにはフュメドポワソンの爽やかな香りが口一杯に広がるのがわかった。


 お口直しのソルベ、『A』の果肉が入ったシャーベットを食べながら、女性は「そういえば昨日言っていた大事な話って何?」と男性に尋ねる。男性はグラスに入った白ワインに口をつけながら、「今は食事を楽しもうよ」とはぐらかす。


「こちらが本日のアントレ、イタリア産『R』のガランティーヌです。二切れあるうち、一方には『Y』、もう一方には『M』を『R』の穴部分に詰めて焼き上げています。一見、魚介系の風味とは合わないように思うかもしれません。しかし、イタリアでは『R』に与える飼料として、漁港で獲れたボラのすり身を使うという習慣があり、そのため魚介系の風味とかなり相性がいいのです。ぜひ、ジャガイモのピューレとともにご賞味くださいませ」


 二人がアントレを食べ終えると、最後にデザートとして『E』のキャラメリゼを乗せたタタンタルトが運ばれてくる。ピアノの演奏はいつの間にか陽気な音楽からしっとりとした曲へと移り変わっていた。デザートを食べ終えた女性がフォークを置き、男性に話しかける。


「こんな素敵なレストランに来るのは初めてだったけど、どのアルファベット料理もとても美味しかった。それで、食事の途中にも聞いたけど、大事な話って何?」

「大事な話はもう伝え終わったよ。後は君の返事を待つだけさ」


 男性の言葉に女性が首を傾げる。


「どういう意味?」

「今日のコース料理で出てきたアルファベットを順番に思い返してみて」

「えっと、最初は『W』と『I』のアミューズで、次は2本分の『L』と『Y』を使ったテリーヌで……」


 女性はそこであることに気が付き、あっと小さな声を出して口を押さえた。その反応に男性が満足げに笑う。そして、男性はポケットに入れていた結婚指輪を取り出し、彼女の前に捧げてこう言った。


「WILL YOU MARRY ME?(私と結婚してくれませんか?)」


 それに対して女性が答える。


「さすがに臭すぎて無理です。ごめんなさい」

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