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薄紅の冒険者、ドラゴン退治へ

 ――ゲルマニアの冒険者ギルドにて、何も問題を起こさないようにしていたつもりが、ブチ切れたツクヨミの大立ち回りでとある女性冒険者と知り合いに。


 破壊してしまった槍の弁償も兼ねて、彼女の手伝いを提案すると何故(なぜ)か再びギルドの門を叩いていた。



「――さっきの今では、やっぱりこうですよね」

「そうでしょうけど、ここは関係ありませんわ。アタクシ達が行くのはギルドマスターの部屋ですから」


 戻ったギルド内は、死屍累々(ししるいるい)巣窟(そうくつ)である。

 ツクヨミの魔力に当てられた冒険者は軒並み震え上がり、受付嬢は恐怖のあまり気絶している。

 ことさら、俺達に悪態をついた者達は壮絶だ。

 完全に廃人一歩手前であり、長期的なケアか回復魔法に高い金を払うだろう。


 静まり返った室内を進み、奥まった所にあるドルンフェルダーさんの部屋に着いた。

 彼女はドンドンとノックをし、遠慮なしに扉を開く。


「失礼するわ、ドルンフェルダー。例の討伐仲間を連れて来ましてよ」

「おぉ、って随分(ずいぶん)と早いお帰りじゃねぇか? お前さん達」

「えぇ……ちょっと店外でこちらの方と知り合いになりまして」

「ドルンフェルダー……先ほど実力を見た限り、今回の氷竜の討伐には彼らの協力が不可欠ですわ」


 氷竜? ドラゴンがいるってことか?

 フィンブルヴェルド山脈が立ち入り禁止になっていることと、何か関係があるのだろうか?


「氷竜ですか?」

「あぁ……数日前からフィンブルヴェルド山脈の中腹で、滅んだはずの氷竜が現れた。幸いまだこっちには下りてこないみたいで、討伐面子を集めてたところだ」

「そうですの。遠の昔に絶滅したはずの氷竜……まさか、この目で拝める日が来るとは思いもよりませんでしたわ。でも、アタクシ以外に戦える冒険者がいなさそうで……」

「それで、僕達に声を掛けたと?」

「えぇ、そうですわ! ツクヨミさんの実力もさることながら、彼女が主と仰ぐアナタ。これ以上、心強い仲間はいません! それに、『何でもする』って言ってくれましたよね?」

「勿論、協力はしますよ。ドラゴンの素材は貴重ですからね? どうします、今から行きますか?」

「いえいえ、ゲルマニアの夕は早い。今からでは危険過ぎますわ。明日の朝からお願いしますわ。それと! 壊した槍の代わりをきちんと用意してくださいまし!」

「大丈夫ですよ。こう見えても、まとまったお金を持ってますし趣味で鍛冶もしています。貴女に合った一振りを用意しますね」



 明日の朝からフィンブルヴェルド山脈に赴き、ドラゴン退治だ。

 山脈には用があったし、不凍大瀑布の探索に丁度良い。

 正式に依頼を受けてギルドを出ると、彼女は振り返って姿勢を正した。


「今回のご助力感謝致しますわ。いけない! 自己紹介がまだでしたわね。アタクシはリムステラと申します。リムと呼んで頂いて構いません」


 そう言えば、お互い名乗っていなかったな。

 彼女……リムステラさんは、ないはずのスカートの(すそ)を摘み膝を曲げる。

 言葉遣いもそうなのだが、()しかして身分の高い人なのだろうか?


「では、リムさんと。僕は、セイジュ・オーヴォと申します」

「――ッ!!」

「どうしました、リムさん?」

「い…いえ!! 何でもありませんわ……改めて、よ、よろしくお願いしますわ……セイジュ…様?」

「ハハッ。様なんて必要ありませんよ。どうぞ、呼び捨てにしてください。僕は只の冒険者ですから」

「で、では! セイジュっと……まさか、こんな所で……」

「ん? 何ですか?」

「明日はよろ…よろしくお願いしますわ! アタクシも準備がありますので、一足先に失礼します。御機嫌よう」


 明らかに狼狽(ろうばい)したリムさんは、挨拶をした後一目散に走り去った。

 俺も一旦屋敷に帰るとするかな。

 転移魔法のお蔭で宿を取る必要もない。

 人目に付かない所で、魔法を発動し目を空ければそこは屋敷の中庭だった。




「――って、ことがあって明日はリムステラさんと言う冒険者と竜狩りに行くことになりました」

「ぷぷっ…ぷぷぷっ……くはっはっはっは! そうかそうか。坊やなら心配ないが、決してリムステラを死なせてはならんのじゃ」

「ぶっはっはっはっは!! 本当に坊主といると楽しませてくれるぜ。流石、俺の旦那だ! なぁ? セレスティア」

「……『オマエの』じゃねーよ、『アタシ達の』だ」


 四人と食卓を囲みつつ、今日の報告をする。

 しかし、雰囲気が妙だ。

 ユグドラティエさんとガーネットさんは心底楽しそうだが、セレスさんはあからさまに不機嫌になった。

 エルミアさんに至っては、板挟みでオロオロしている。


「じ、実はね、セイジュ君――」

「おっと、エルミア。それ以上は言うでないぞ? こんな偶然楽しまんでどうするのじゃ」

「何ですか? 皆さんさっきから変ですよ」

「えへへ~、ごめんねセイジュ君。お師匠様からの命令だから言えない」

「の、割には楽しそうですね」

「はいはい……でも、どうしてフィンブルヴェルドに竜が? 竜種なんてとっくの昔に絶滅したはずだろ、ユーグ?」

「そうじゃのぅ? 我の知る所で現存する竜は数えるほどしかおらんし、どいつも引きこもりばかりじゃ」

「あーしも六千年前くらいに見たのが最後的な?」

「現存してんのかよ……それに六千年前って、もうオマエらの時間感覚じゃ分かんねぇわ」


 二人の話を聞くと、竜は(ほとん)ど現存しないし隠れ住んでるらしい。

 では、なぜそんな竜種の一つが人気の近い場所に現れたのか?

 疑問は増すばかりだ。


「もしかして、変異種ってやつですか?」

「う~ん。竜種は元々、超上位な種族じゃからのぅ? 皆が皆変異種と言っても過言でないのじゃ。何はともあれ、我でも知らぬ存在……準備は万端にしておくのじゃぞ? それに、リムステラに槍も用意してやるのじゃろ? 出し惜しみはせん方が良いじゃろな」

「どうする、セイジュ君? 私も付いて行こうか? ちょっと不気味だよ……」

「ありがとうございます。でも、いざとなったら転移魔法でリムさん連れて逃げるので大丈夫だと思います」

「リムさん――ッ!!??」

「どうしたのですか? セレスさん。さっきから少しおかしいですよ?」

「何でもねぇよ!! ったく、仲良さげに呼びやがってブツブツブツブツ……」


 また不機嫌になったセレスさん。

 他の三人はそんな彼女を微笑(ほほえ)ましく見守り夕食は終わった。

 そのまま風呂に入って、自室でリムステラさんに渡す槍を『アイテムボックス』から見繕う。


 丁度良い時間だし、明日に備えて寝ようとベッドに向かうと、当たり前のようにユグドラティエさんが待ち構えていた……




 ――そして、次の日。


「お待たせしましたわ、セイジュにツクヨミさん」

「おはようございます、リムさん。今日はよろしくお願いします」

「おはー、リムたん。今日は任せろし! いぇあ」

「リム…たん……? どうしましたの? 昨日と比べて随分くだけた様子ですが……」

「あーね。セイジュの好きピから頼まれてるし、セイジュ自身もリムたんのこと悪くは思ってないから。だから、あーしもリムたんと仲良くすると決めたし」

「すきぴ……? まぁ、アタクシもお二人と仲良くできてら嬉しいですわ」

「よきよき。さぁ~、密ってこー。ほら! リムたんも空いた方の腕組むし!」

「ちょ、ちょっと待ったツクヨミ。先ずは約束の槍を渡してから行くよ」


 問答無用で俺の腕に絡み付くツクヨミ。

 リムさんにも空いた方の腕を組めと言うが、槍を渡すのが先だ。

 俺は『アイテムボックス』から自作の槍を取り出し、彼女に渡した。


「セイジュは『アイテムボックス』持ちだったのですね。通りで手荷物が少ないはずですわ。それにこの槍……手に吸いつくように軽くてしなやか。意匠(いしょう)は地味ですが、質実剛健と言いますか今まで触った槍の中で一番しっくりきます」


 彼女は受け取った槍を試すように振り回す。

 流麗(りゅうれい)に動く穂先とリムさんの体躯(たいく)

 何の問題もないようだな。

 一応『鑑定』しておくか。



 ――リムステラの槍――


 セイジュ・オーヴォ作の伝説級の槍。リムステラが手にしたことによって、世界に認識された。周囲の魔素を吸収し、素材以上の硬さを出す。



 あれ? それだけ? 何か弱くね?

 何時(いつ)もみたいに光る演出もないし。

 リムさんも相当な実力者なはず。

 なのに、この性能は少し変だ。

 素材も豊穣の森の『ミスリル魔鉱石』を使ってるし、申し分ないはずなんだけど……


「ふふっ、この槍があれば百人、いや千人力ですわ。さぁ! 氷竜討伐に行きますわよ!!」

「……あ、はい! 頑張りましょう」


 予想以上の槍を手に入れたリムさんは、上機嫌にフィンブルヴェルド山脈側の市門を目指す。

 俺も一抹の不安を覚えながら、彼女の後を追った――

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