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家族像、王都帰還

 ――晴れて俺とセレスさんは夫婦になった。

 ペトリュス領での依頼も終えて、王都に帰る馬車の中は、来た時以上に幸福な雰囲気だ。


 ペトリュス(きょう)は最後まで俺が帰るのを引き留め、やれ『ここに住んで共にワインに生涯を捧げよ』だ、やれ『お前の知識を全て書き出すまで帰さん』だ、挙句(あげく)の果てには『やっぱりラフルールの婿にする』だと、説得するのに数日掛かってしまった……


 隣には終始上機嫌なセレスさん。

 少しだけ俺と距離を詰めて座り、手を繋いできたり、指を絡ませたり、掌を(くすぐ)ってきたりと可愛い悪戯を仕掛けてくる。

 そんな甘々な空間を、ガーネットさんは肩をすくめながら口を開いた。



「――いや~、セレスティアが幸せそうで何よりだよ。こんな甘い雰囲気出されちゃ、俺達がちょっかいを出せないじゃん」

「良いではないですか? ガーネット。セイジュ様の屋敷に戻ったら、ユグドラティエ様やエルミア様がいらっしゃる。今はこの雰囲気を楽しみましょう」


 マーガレットさんとガーネットさんも心なしか表情が柔らかだ。

 お互いが幸せを噛みしめ、俺達は家族になったのだなと感じた。


「折角なので、重要な話をさせて頂きたいと思います」

「重要な話ですか? マーガレットさん?」

「はい。それは、オーヴォ家とドゥーヴェルニ家の今後についてです。セイジュ様はシルフィード殿下と婚約している為、オーヴォ家の家督は殿下の御子が継ぐことになります。これは、(くつがえ)しようがありません。では、ドゥーヴェルニ家は誰が継ぐのかはお分かりになりますね?」

「僕とセレスさんの……」

「左様です。ドゥーヴェルニ家は王国切っての血筋。絶やすことは決して許されません。御無礼ではありますが、セイジュ様はエルフお二人と過ごした時間が長い為か少々のんびりしております。そして、セレスティアの年齢ですと子が一人や二人いてもおかしくない年頃……」

「あ~、成程。おい坊主にセレスティア、さっさと子作り始めろ。何だったら俺も一緒に」

「……」


 手を繋ぐことや先日のキスでいっぱいいっぱいのセレスさんにこの話題はキツイのでは? っと思いチラリと横を見ると、案の定彼女は瞬間湯沸かし器みたいに真っ赤になっていた。


「セレスティア。恥ずかしいのは勿論分かりますが、当主の義務ですよ? それとも妹君に家督を譲りますか?」

「う…うん……アイツにも考えはあるだろうし、もう少し考えてみる。それに、アタシは特級冒険者だし……」

「はぁ~。そうだ? セレスティア。貴女の子と私達姉妹の子が冒険者パーティーを組んでるのを想像してみて。あの頃の夢の続きが見れそうよ。私の子は冒険者させながらメイド教育も致します。そして、必ず殿下の御子のメイドをさせます」

「それいいな~。じゃあ、俺の子供はセレスティアの子供のメイドだな。簡単に想像できるぜ」

「アタシの子供が冒険者……」


 何やら三人とも想像している様子で、マーガレットさんは邪悪な笑みを、ガーネットさんはうんうんと力強く頷く。

 セレスさんも想像できたのか、はにかんで笑った後キュッと繋いだ手に力を入れた。


「と言うことで、セイジュ様? 早速今夜から……」

「そ! そう言えば、結婚式はしなくて良いのでしょうか!?」

「誤魔化しましたね?」

「あぁ、あからさまに誤魔化した」

「結婚式は直系の王族しかしないぞ?」

「そうなんですか?」

「はい。通常結婚の儀は直系の王族しか致しません。それも国を挙げてのお祝いになりますので、セイジュ様と殿下の儀は大きくなりそうですね。それに比べて貴族は細やかな宴会をする程度でしょうか?」

「ってことは、セレスさんと僕の儀も屋敷で身内だけの宴会になりそうだと?」

「はい、そうなりますね。しかし、セレスティアは大公爵ですからそれ相応の参加者が出ると思われます。エルフに関しては(つがい)と言う人間にはない概念ですし、貴族でない私達は特に何もございません」

「う~ん、それはそれで寂しいですね。何か良い案はないかな……」


 この世界の結婚は、思った以上に質素なんだな。

 でも、折角夫婦になったのだからウェディングドレスとか着てみてはどうだろう?

 特にセレスさんやエルミアさんは恋戯曲に憧れているらしいし、俺としても何かしてあげたいな。



「でしたら……セイジュ様……? あの、お願いがございまして……」

「ん? どうしました急に改まって?」

「いえ。セイジュ様もご存知の通り、私達姉妹は孤児で名はありますが姓がありません。ですから……その……」


 今までキビキビと説明をしてくれていたマーガレットさんが何やらしおらしい。

 何か言いたげなのだが、いまいちピンとこない。

 もじもじする彼女を(おもんばか)っていると、セレスさんから耳打ちされた。


(セイジュ、コイツらにオマエの姓を名乗ることを許してやれ。当主の許しがないと名乗れないんだよ。屋敷に帰ったら、正式な書類も用意させるから)

(成程、ありがとうございます)


「マーガレットさん、ガーネットさん。オーヴォ家当主として、そして二人の夫としてオーヴォの名を冠することを許します」

「あ! ありがとうございます、セイジュ様! マーガレット・オーヴォ……これで、身も心もセイジュ様の物。フヒヒ……もう逃がさない……」

「俺もありがとよ、坊主! ガーネット・オーヴォ……良い響きじゃねーか」

「はい、こちらこそよろしくお願いします。でも、ガーネットさんはセレスさん付のメイドですからウチに住むとして、マーガレットさんはマルゴー様専属ですよね? 王宮に住み込みですし、(ほとん)ど会えないのでは?」

「その点は、ご安心ください。殿下が成人してセイジュ様とご結婚すれば、私は殿下専属のメイドになります。二年は先になりますが、一日千秋の気持ちでお待ちしております。それに、マルゴー様のことですから何だかんだでセイジュ様のご厄介になることは多いかと。その際にちょっとでも構って頂ければ幸いです」

「分かりました。少し寂しいですが、仕方ありませんね。一緒に住む日を楽しみにしてますね」

「まぁ! セイジュちゃん、寂しいだなんて……では、今夜から屋敷に着くまでお姉ちゃんの匂いをしっかり()み込ませないとね。フヒヒ…フヒヒヒ……ジュル」

「マーガレットさん、全然隠そうとしなくなりましたね……」

「すまん、坊主……これが、お姉ちゃんの素なんだよ……」


 マーガレットさんは妄想を爆発させているようで、トロンとした目に狂気な笑みを浮かべ完全にヤンデレ化していた。




 ――尚も馬車は、目的地に向かって進む。

 相変わらず大きな森を迂回し、王都までもう少しだ。

 この数日話し合ったことは、全て未来について。

 過去のことは一旦忘れ、楽しいことが待っている未来を語り合った。


 ガーネットさんについても、環境は少し変わる。

 元々屋敷三階の使用人共同部屋に住んでいたのだが、俺の妻になったと言うことで二階の主寝室近くに移動。

 本人達の希望で、姉妹一緒に住める部屋にした。

 最初一人では広いかもしれない。

 まぁ、マーガレットさんが来るまでに色々準備しておこう。


 どうせなら、二人のメイド服も特別製にしようかな?

 ツクヨミまではいかなくても、他のメイドと差別化することは彼女達も喜ぶだろう。

 デザインを考えていると、遂に馬車は王都市壁南門に着いた。



「王族の馬車だ! 道を開けろ!!」

「今年も王族の名代(みょうだい)お疲れ様です、セレスさん。それにセイジュさんも、貴族の格好お似合いですぜ」

「ハハッ、ドレスは窮屈(きゅうくつ)で仕方ないぜ? また直ぐ何時(いつ)もの鎧で来るからよ。よろしくな」

「ありがとうございます。僕もさっさと楽な格好になりたいです」

「二人とも根っからの冒険者ですな。どうぞ、お通りください」


 流石王族の馬車。正にフリーパス。

 冒険者としても馴染のある門番さんだから尚更話が早い。

 そのまま平民街を走り抜け、貴族街の大門を向ければ当家は直ぐそこだ。



 東区画、一際大きな噴水越しに俺達の屋敷が見えた。

 馬車を下りれば、既に使用人達の列。

 彼等は綺麗に頭を下げて一言。


「「「お帰りなさいませ、セイジュ様、セレスティア様!!!」」」

「只今戻りました皆さん」

「うわ~ん、やっとセイジュ様帰ってきてくれた~」


 何かあったのだろうか?

 一部のメイド達は、半泣きになりながら俺に擦り寄ってきた――

【5話毎御礼】

いつも貴重なお時間頂きありがとうございます。

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