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新人教育①、薬草採取と若い才能

 ――ギルドマスターブリギットさんの指示で『低級教育』に参加した俺とセレスさん。

 今回の生徒達とも顔合わせも終わり、荒城(こうじょう)目指して馬車に乗りこんだ。


 俺とセレスさんは分かれて、それぞれ五人の生徒と街道を進む。

 って、何で皆無口なんですかねぇ?

 俺を含めて六人乗ってるのに、誰一人として話題を出さない。

 俺としては『アイテムボックス』の整理や『ガイドブック』を確認してれば苦じゃないが、残りは苦痛だろう。


「み、皆さんは何故(なぜ)冒険者になったのですか?」

「セレス様に憧れて……」

「セレス様みたいに成りたくて……」

「はぁ……あっちの馬車が良かった」


 うん。知ってた、分かってた。

 こいつら歳が近いのもあってか、俺を完全に舐めている。

 ツクヨミを呼び出してわからせてやりたいが、ここは我慢だ。

 隣を走る馬車からは楽しそうな声が聞こえ、皆がそちらに目を()っている。

 俺も視線を送ると、セレスさんがひょっこり顔を出した。


「おい、オマエらセイジュに何も聞かなくて良いのかよ? ソイツはそう見えても男爵様だぞ」

「セレス様から話を聞きました! セイジュ様は男爵で、何と騎士団長のグロリイェール様と一緒に住んでいらっしゃるそうよ!」

「更に、ヒルリアン様とも家族同然の付き合いで、シルフィード殿下の婚約者なんだってさ!」

「あ! 後、『トランプ』を作ったのもセイジュ様だよ! セイジュ様! 馬車降りたら話聞かせて下さい!」

「「「えぇえええ――ッ!!!」」」


 セレスさんや他の生徒から話を聞いた彼らは、一気に俺の方を向く。


「い、今の話本当なんですか?」

「はい、本当ですよ? 男爵ですし、ユグドラティエさんやエルミアさんとも住んでます。シルフィーが成人したら結婚する予定ですし、『トランプ』はセレスさんとガーネットさんの協力を得て作りました」

「「「マジ?」」」

「はい、マジ」

「す! す! すげぇええええ!!! 噂では聞いてましたが、まさか貴方様だったとは……」

「も、申し訳ございません! 貴族様相手に失礼な態度を取ってしまいました!!」

「いえ、気にしてませんよ。今はただの冒険者ですから。これからも(かしこ)まらなくて良いですよ」

「俺も家族も『トランプ』大好きなんです! 夕飯の後はいっつも寝るまでやってます!」


 見事な掌返しである。

 さっきまでの沈黙が嘘のようにがっつき、詰め寄ってくる。

 活気が出てきた俺側の馬車をセレスさんは満足気に見つめ一言。


「冒険者の心得その二、『人を見かけで判断するな』だ」

「「「はい!!!」」」

「ハッ、返事だけは一丁前になってきたじゃねぇか」



 ――そのまま馬車に揺られて小一時間。

 荒城を囲むように広がる小さな森に着いた。

 ここからが本番だ。

 馬車を降りた生徒達は早速『ディア草』採取に繰り出す。

 前はゴブリンで(あふ)れていた森も落ち着き、魔物の気配も(ほとん)どない。


「薬草を採取する時は、根までしっかり採取して下さい。でも、根や葉を傷つけないように注意を。後、全て取ってはダメです。密集してても必ず複数は残して下さい」

「分かりました、セイジュ様。うぅ……なかなか難しい……」


 各々が薬草と毒草をにらめっこして採取を始める。

 俺達はどれが正解かは教えない。

 唯取り方を教えるだけだ。

 大方の採取が終わろうとしていた時、甲高(かんだか)い声が響いた。


「その薬草は俺が先に見つけたんだぞ!」

「ここは私がずっと採取してたの! 貴方全然取れてないじゃない? 先が思いやられるわね」

「何だと! 俺にはこんなちまちました作業は似合わないんだよ」


 簡単なことだ。どっちが先に見つけたか喧嘩。売り言葉に買い言葉。

 お互いが悪態をつき、一触即発(いっしょくそくはつ)になっていた。


「おいおい、オマエら大声出して仲良いな? 何があった?」

「セレス様聞いて下さい。俺が先に見つけた薬草をこいつが横取りしようとしたんです!」

「違いますセレス様。この方は、自分が全く取れないから人の物を()ろうとしています!」

「はぁ~、あのなぁオマエら……丁度良い。ちょっと皆集まってくれ」


 二人の話を聞いたセレスさんはため息をついて、全員を集める。

 未だ怒りは収まっていないようで、お互いが(にら)み合い。


「質問だ。冒険者の死亡原因の一番は何だと思う?」

「魔物に殺されることだと思います」

「正解だ。じゃあ、二番目は? ほら、オマエ答えてみろ」

「えぇっと……不慮(ふりょ)の事故でしょうか?」

「違う」


 彼女は皆の前で冒険者の死亡原因を聞き始めた。

 言い争いをしていた二人に回答を迫り、一番目は正解、二番目は不正解と言った。


「二番目の原因は、同じ冒険者に殺されることだ」

「「「え……」」」

「今のオマエらと一緒だよ。最初は些細(ささい)な口論。そこから頭に血が上って武器に手を掛けるのさ。パーティーでも一緒さ。依頼達成の報酬をどう分けるかでもめる。例えば、四人パーティーがいて偶然超高価な武器を手に入れたらどうする? 一人だけ依頼人から優遇されてたらどう思う? なまじ力がものを言う世界。争いの火種はどこにでも転がってると思え」

「……」


 セレスさんの言い分は最もだ。

 冒険者と言う職はどこまでも公平であるが、それ以上に理不尽な職でもある。

 お互い微妙なバランスで保っているが、ひょんなことから大きく崩れてしまう。

 そして、最終的には力が解決する。


 勿論、冒険者同士の争いはご法度だ。

 禁を破れば厳しい罰則が待っているし、殺しをすれば普通に捕まる。

 しかし、監視カメラがあるわけもなし。

 口さえ(そろ)えれば、いくらでも事故扱いにできるだろう。


 だからこそ、セレスさんが考える冒険者の心得その三は――


「冒険者なら常に冷静でいろ。目先の利益や感情に囚われるな。長生きしたかったら、時に引くことも大切だ。冒険者の心得その三、『誰よりも理知的であれ』だ」

「「はい……」」

(ちな)みに、オマエらが争ってるその草は『ディア草』じゃなくて毒草の『ディム草』だ」

「え!? はは……馬鹿みたい……さっきはごめんなさい、言い過ぎたわ」

「い、いや! 俺も本当はお前が先に見つけてたの分かってたんだ……ごめん」


 彼女の話を聞いた二人はお互い非を認め、協力して採取を再開した。

 そして彼らも採取が終わった後、全員の物を確認する。


「う~ん。皆さん健闘はしてますが、毒草も多く混じってますね」

「本当ですか、セイジュ様?」

「えぇ。葉っぱの裏を良く見て下さい。葉脈(ようみゃく)に黒い斑点が見えませんか? 太陽にかざすと分かりやすいですよ。『ディア草』にはありませんが、『ディム草』にはあるでしょ? これが薬草と毒草の違いです」

「本当だ! 見分けがこんな簡単だったなんて!」

「流石セイジュだな。こう言ったことは、オマエの方が分かりやすい」


 やはり慣れていない分、毒草が多く混じっている。

 見分け方を教えながら次々見ていくと、一人気になった娘を見つけた


「あれ? 凄い! えっと……」

「メ……メルローです……」

「メルローさん凄いですよ。貴女が採ってきた物は、全て『ディア草』です。冒険者になる前も薬草採取してたのですか?」


 メルローさん……ギルドを出る前、真剣に依頼書をメモっていた娘だ。

 同じ位の歳だろうか? 彼女は、どこか自信なさげに話し始める。


「いえ。何と言いますか、勘みたいな? 手を伸ばしたらこれは安全、これは危険みたいな感覚があったんです……街で野菜を買う時とかも、新鮮な物が何となく分かります」

「無意識の内に物の本質が見えてるのかな? セレスさん、これって……」

「あぁ、多分『鑑定眼』の兆候(ちょうこう)かもな。まだ若いから、完全に目覚めてないのさ」

「やっぱり! メルローさん、それはとても貴重な才能ですよ。ギルドに戻ったら、素材買取のオッチャンに話をしてみて下さい」

「はい!」


 俺とセレスさんに褒められた彼女は、嬉しそうに返事をした。

 才能は思わぬところに眠っているのだな。

『鑑定』のスキルは、俺以外にブリギットさんか買取のオッチャンしか持っていないはず。

 メルローさんは良い冒険者になれるだろう。

 例え夢半ばで引退しても、職に困ることはないはずだ。


「凄いじゃん! メルロー、おめでとう」

「えへへ、ありがとう」

「良かったら、今度一緒に依頼受けようよ。パーティーとか決まってなかったら考えておいてよ?」


 伏目(ふしめ)がちで目立たなかった彼女は、一気に時の人となった。

 周りを他の生徒に囲まれ、楽しそうに会話をしている。

 その話が一段落したところで、俺は皆を促した。


「じゃあ、教えたことを復習しながらもう一度薬草を採取しましょう」

「「「はい!!!」」」


 全員が『ディア草』10本集めたところで、最終目標の荒城玉座に向かおう。



「おい、セイジュ」

「何でしょう? セレスさん」

「次の玉座なんだけどよ……ブリギットの頼みでごにょごにょ……」

成程(なるほど)、分かりました……」


 その途中でセレスさんから耳打。

 玉座の間で一芝居することになった。

 短い森を抜け、明るい日差しが差し込む荒城。

 さぁ、『低級教育』の総仕上げだ――

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