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増える趣味、正体不明の襲撃

 ――エルミアさんと別れて、三ヶ月が経とうとしていた。

 森に行く時間は減った。

 探索は森全体を網羅(もうら)したので今は、採取目的で出かけるくらいだ。


 その代わりにハマっているのが鍛治だ。

 作業部屋ではスペース不足だったので、住処からちょっと離れた場所に鍛治専用の洞窟を掘った。

 材料の鉱物や魔物、モンスターの素材もアイテムボックスに大量にある。

 最初は失敗することもあったが、コツを掴むと思い通りの武器防具を作れるようになった。


「そういえば、エルミアさんを助けた時ゴアウルフの王の爪を一本手に入れたっけ? 今日は、それを使ってナイフでも作ってみるかな」


 爪を取り出し改めて眺める。

 汚れを取ってやると純白に輝き、爪先は禍々(まがまが)しい鋭さを放っている。

 一本だけでもズッシリと重く、そして驚くほど硬い。


 鍛治や加工に自然の火や水は使わず、全て魔法で代用している。

 硬い鉱物や素材の時は、光魔法のレーザーで大まかな形に切り取り風魔法で研磨(けんま)していく。


 まずは爪を縦半分にカットし、ライブラリで調べたナイフの形状を真似て形作る。

 刃の逆側にギザギザのソードブレイカーが付いた、某国民的映画に出たナイフを参考にした。

 刃の部分は、極限まで薄くする。

 逆側は、ある程度厚みを残し切れ味が多少落ちても頑丈さを優先だ。


「悪くない出来だ。持ち手の部分は滑りにくい素材を貼り付けて、ついでにナックルガードも付けとくか」


 完成したナイフを数回振った後、試し切りに使っているターゲットに投げてみる。

 暖簾(のれん)に腕押し(ぬか)に釘。

 ターゲットなど元からなかったように貫いたナイフは、後方の壁に深く突き刺さった。


「切れ味良すぎだろ? 軽く投げただけだぞ……」


 試しに鑑定してみると。



 ――○×△☆♯♭●□▲★※――

 セイジュ・オーヴォ作のナイフ。まだこの世界に認識されていない為個体名なし。ゴアウルフの王の爪から作り出された、神話級武器。闇魔法が常時発動、あらゆる影から剣撃を対象の影を通して当てることができる。



「なんつー性能だよ。完璧暗殺向きじゃねーか! 純白のナイフなのに、闇魔法発動は厨二度高いな。名前がつくのは、誰かが認識し名付けてもらわないとダメなのか。確かに、今まで特殊な素材で作ったアイテムたちは名前がなかったな。つまり、俺はこの世界に存在しないアイテムを作り出しているのか……料理は良いとしてその辺は自重しないとな」


 取りあえず、できたアイテムは一度ゲーテの神像にお供えし祈りを捧げないと。



 修練部屋に移動した俺は、神像にナイフをお供えする。

 二体の神像は、相変わらず悪辣(あくらつ)に微笑むだけで表情全てが見えるわけではない。

 初日に消滅しかけた時以来、その姿は見ていない。

 神様だしそんな簡単には降臨しないか?

 また変なキャラで来られてもリアクションに困るだけだしな。


 少し離れた場所で座禅(ざぜん)を組み祈りを捧げる。

 新しいアイテムの報告。

 そして、自分は魔素操作が上達したことを報告するかのように身体の中心に向かって魔素を圧縮させる。

 血管全てに魔素が通り、心臓を中心に台風ができあがるイメージ。

 限界まで圧縮したそれを限りなく丁寧(ていねい)に外に放つ。

 ここまでが一セット。

 放出された魔素は、現象を(ともな)わない。

 ただ通常より濃くなった魔素が周囲を満たす。



「――面白いことをしておるのぅ? はぁんむ」


 ゾワっと全身が総毛立つ!

 背後から肩に手を置かれ耳元で(ささや)かれる声は、セイレーンの歌声以上の破壊力。

 それに、柔らかい何かが耳を甘噛みするおまけ付きだ。


 全力で飛び退き、身を低く臨戦態勢(りんせんたいせい)


 あり得ないだろ!?

 俺のマップ索敵魔法もシェリの警告も発動することなく、女性が目の前に立っている。


 エメラルドグリーンに輝く髪、スラっと背は高く、エルミアさんを一万年に一度のアイドルとすると、こちらは幾億年(いくおくねん)に一度のスーパーモデルだ。

 完成された美が確かに存在する。

 (すみれ)色・(みどり)色のオッドアイが俺を見つめ、発する雰囲気はゲーテに似ていた。


 ここまで、時間にして刹那(せつな)

 (ひじ)を手で包むように腕を組む彼女の正体を知ろうと、目に力を込める。


「エッチ……淑女(しゅくじょ)を覗き見など感心せんのぅ?」


 また、背後から耳元で囁かれる。

 (まばた)きなどしていない。

 にもかかわらず、今度は首に腕を回し身を寄せてくる。


「くっ! 空間移動魔法ですか……?」


 身体がピクリとも動かせない。


「いや、純粋な体術じゃよ。魔法など使っておらぬ。しかし……本当に面白いのぅ……」


 更に身体を寄せつけられ、背中に柔らかい双丘を感じる。

 そして、何より顔が近い!

 頰が触れそうだし、白檀(びゃくだん)のような良い匂いもする。


「面白い神を祭っておるな。そしてこの壁画は、お主が描いたのじゃな? 選択肢かこれは? 『停滞』 『消滅』 『再演』そして『流転』? クククッ……面白いのぅ。元来、こういった宗教画のテーマは三つで表現されるのじゃが、お主には四つ目のテーマが明確に存在するのじゃな? いったいどんな悪鬼羅刹(あっきらせつ)見初(みそ)められたのじゃ?」


 完全に頬は触れ、翡翠(ひすい)とアメジストの瞳が俺を覗き込み、唇の端まで触れそうなんですけど!


「それは……」

「それはぁ……?」


 動く唇の端が微かに触れる……煽情的(せんじょうてき)にも程がある!



 しかし、この時俺は完全にキレていた。

 人の住処に侵入、拘束、俺とゲーテの思い出に土足で踏み込み。

 更に救いの主を悪鬼羅刹つまり()()()()()()()()()()



 ――拘束を無理矢理はがし、ブチブチっと筋線維の切れる音が聞こえる。

 そんなことはどうでもいい。

 俺は、おかまいなしに渾身(こんしん)の貫手を敵の喉元めがけ突き刺した。


「じゃれあいが所望(しょもう)か坊や?」


 ギュッと腰に手を回され、お互いの下半身が密着する。

 彼女は、まだ膝を着き戦闘状態ですらない。

 俺の攻撃は、寸前のところで腕を捕まれ貫くことはない。

 ならば、アイテムボックスから短剣を取り出し、足りない距離を補う。

 されど、ボキッ! という骨を砕く音と共に短剣を落とすが、左手の二指はの至高(しこう)宝石をめがけ追撃を狙う。

 しかし、それさえも軽くいなされる。


「ほれ?」

「ぐっ!」


 腹に強烈な掌底(しょうてい)をもらい、後方に吹き飛ばされた。

 彼女にとっては軽く撫でた程度であろうが、俺にとっては十分すぎる。

 砂埃を上げ、壁際までその衝撃を消すことができなかった。


 こなた満身創痍(まんしんそうい)の俺。

 彼方(かなた)緑を基調としたボディーラインがやけに目立つワンピース型の民族衣装に、外套(がいとう)をまとう美の化身。


「『アイテムボックス』に相手の急所を確実に狙うその体技。どちらかと言えば動物に近いのぅ? まったくもって面白いやつじゃ。少し遊んでやるかのぅ?」


 立ち上がった彼女は、しっかりとこちらを見据える。

 お互いの距離は重畳(ちょうじょう)

 既に俺の傷は魔法で治療済み。

 交差する視線、異口同音(いくどうおん)――


「「俺は「我は」魔法が本分なんだよ! 「なのじゃ!」」

「全力を出すのじゃ! 失望させるでないぞ!」


 言われなくたって最初からぶち殺す気満々よ!


 極限まで光魔法を圧縮、射出方向を定め対象に向かいレーザービーム兵器を照射する。

 七色の光を放つ魔法は修練部屋を貫き森の木々を消滅させ、彼女の頬と外套の肩口を引き裂き一筋の血潮が滴る。


 こっちはまだレーザーなど発見されてないだろう。

 完全オーバーテクノロジーなチート魔法だ。

 何億度まで集束された光は、瞬く暇もなく対象を文字通り消滅させる。

 ソドムとゴモラを蒸発させた神の御業、俺はその片鱗(へんりん)を再現した。



 彼女の反応は意外だった。

 キョトンとした表情で先程までの覇気(はき)が全くない。

 頰を伝う血を指で拭い、まじまじと見つめていた。


「我は嬉しいぞ坊やぁあああ!!!」


 突如凄まじい咆哮(ほうこう)が第二ラウンドのゴングとなり、圧倒的なプレッシャーが部屋を満たす。

 息さえできない張りつめた空気。

 俺は死の覚悟を決め、もう一つの切り札を放つ為魔素を練り上げた。



「待って! 待って下さい二人とも! お師匠様もいい加減にして下さい!!」

「お〜、遅かったのぅ? 今、丁度良いところじゃ」

「エルミアさん?」


 飛び込んできたエルミアさんの登場に、戦いは呆気(あっけ)ない幕切れとなった――

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