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冒険者談義、ロンディアへ

 ――エルフの化粧騒動で一悶着(ひともんちゃく)あった後、俺はA級冒険者へと昇格した。

 ルリさんから登録変更されたカードを受け取り依頼掲示板に向かうと、ダルマイヤックとカントメルルさんコンビを見かけた。



「――おはようございます、ダルマイヤックさんにカントメルルさん」

「おぉ! セイジュ。いや、今はセイジュ卿と呼んだ方が良いかな?」

「おはようございます、セイジュさん。先日はお披露目会にお呼び頂きありがとうございました」


 カントメルルさんはいつも通りだが、ダルマイヤックは随分(ずいぶん)機嫌が良さそうだ。


「ふふん! セイジュ、お前がもたもたしている間に俺はC級に上がったぞ?」

「本当ですか!? ダルマイヤックさんおめでとうございます」

「ふむ。しかし、セイジュ。これに関しては、お前に礼を言わんねばならん」

「お礼ですか?」

「そうだ。お前からお土産で貰ったこの長剣に代えてから、すこぶる調子が良いのだ。剣が手に吸い付き、身体が思うように動く。素直に感謝するぞ」

「私もありがとうございました、セイジュさん。この杖、凄い効率的に魔法が放てるんです」


 それもそのはず。

 ダルマイヤックに贈った長剣は、彼のサイズに最もあった物だ。

 以前まで持っていた剣は、彼には大ぶりで、尚且(なおか)つ派手な装飾が更に首を締めていた。

 本来ならこのサイズがベストフィットで、ダルマイヤックの実力があればC級昇格は当然のことである。


 カントメルルさんの杖に関してもそうだ。

 彼女は、ダルマイヤックを守る大切な役目がある。見

 た目こそ地味な杖かもしれないが、その内部は『魔紅石』が埋め込まれている。

 この杖を持っている限り、いつも以上の実力を出せるのだ。




「――うぃーっす。元気でやってるかね? 諸君(しょくん)

「セレスさん、おはようございます」

「セ、セ、セレスティア殿!! お! おはようごじゃいます!」

「セレスティア様、おはようございます」


 俺達の会話にセレスさんも参加。

 深紅(しんく)の髪を一本に()い背には大剣。

 全冒険者憧れの的の登場にダルマイヤックの声は裏返った。


「おう! フィリピーヌの坊ちゃんは、C級に上がったそうじゃねぇかよ。それに、カントメルルもA級間近だって聞いたぞ? 最近調子良いなオマエら」

「あ! あ! ありがとうごじゃいます!!」

「ふふ、ありがとうございますセレスティア様」


 ダルマイヤックはガッチガチに緊張して、直立不動で返事をする。

 そうだ? 俺も上級になったし、セレスさんやカントメルルさんの話を聞いてみたい。


「そう言えば、セレスさん? ダルマイヤックさんも中堅(ちゅうけん)になったことですし、是非セレスさんやカントメルルさんの上級冒険者の話を聞きたいのですが良いでしょうか?」

「ん? あ~良いぜ。ちょっとルリと話してくるから、待っといてくれ」

「良かったね、ダルマイヤック。憧れのセレスティア様と話ができそうだよ?」

「セイジュ!! 感謝する!」


 セレスさんを見送ったダルマイヤックは、俺の両手をがっしりと掴んだ。

 憧れのセレスさんと話ができる。

 ダルマイヤックは天にも昇る気持ちだろう。




「で? 若い冒険者諸君はアタシに何が聞きたいんだい?」

「や! やっぱりA級になるには強いことが最優先なのでしょうか!?」


 先ずはダルマイヤックが質問をした。


「そうだな。強いに越したことはない。でも、それだけじゃダメなんだよ。実際、A級より強いB級は沢山いる。じゃあ、カントメルル問題だ。A級より強い彼らは、なぜ昇級できないと思う?」

「う~ん、教養でしょうか? 読み書きは勿論(もちろん)、計算能力も必要だと思います」

「正解だ。いくら強くても読み書き計算ができないんじゃ、話にならない。A級の依頼相手は、貴族や大店(おおだな)の商会がほとんどだ。少なくとも依頼人と同じ水準は必要だな。それに、上流階級を相手にするから芸術面に関してもだ」


 なるほど。

 強さ同様に教養も求められるのか。

 確かに依頼人のレベルが上がれば、(おの)ずとこちらも高いレベルが要求される。

 請負人(うけおいにん)が強いだけの野蛮人(やばんじん)なら、依頼人として不安も多いだろう。



「それと、セイジュ。余裕ぶって聞いてるけど、もう一つ大切なものはなんだ? 言ってみろ」

「人格面ではないでしょうか? 強くて教養もある、だけど依頼人の秘密を誰かに喋ったり、物を盗んだりは(もっ)ての(ほか)だと思います。後、ないとは考えますが誘拐したり殺したりとかも……」

「ハハッ! 分かってんじゃねーか。アタシ達冒険者は、信用が第一だ。一部の頭のおかしい連中のせいで、冒険者全員が貴族や商人から不興を買ったら商売あがったりさ。でも、その点は大丈夫だろうな。なぜなら、ここには――」

「ブリギットさんがいる」 「ブリギット殿がいる!」 「ギルドマスターがいますから!」


 俺達三人は、セレスさんの言葉を待たず同じ言葉を口にする。

 ブリギットさんの人物に特化した『鑑定眼』があれば、人格に問題のある冒険者は昇級できない。

 彼女もその答えに満足したようで、満足げに笑っていた。


 A級冒険者とは、強さ、教養、そして人格面でも優れたスーパーエリートなのだな。

 俺も今日からその末席(まっせき)に名を連ねることになった。

 ブリギットさんが言ってた通り、王都ギルドの看板に泥を塗らないよう行動しよう。



「セレスティア殿、今日はありがとうございました! うぉおお! 行くぞ! カントメルル」

「ちょ、ちょっとダルマイヤック……セレスティア様、貴重なお話ありがとうございました。待って、待ってよー」


 話が終わったダルマイヤックは、すっかり感化されお礼を言った後、テンション高くギルドを出た。

 カントメルルさんも急いで後を追い、俺とセレスさんが残される。




「セイジュ、オマエはこの後どうするんだ?」

「A級の依頼を受けようと思ってましたが、目ぼしい依頼はなくなっちゃいましたね……」


 依頼掲示板を見上げるが、依頼は(ほとん)どなくなっている。

 俺達が話をしている間に大方の依頼は取られてしまったようだ。

 こればっかりは、早い者勝ちだ。

 諦めて今日は帰るかと考えていたら、セレスさんから声が掛かる。


「だったら、一緒にこれ受けるか?」

「これって……?」


 セレスさんから渡された一枚の依頼書。

 そこには、セレスさん宛の特級依頼が書かれてる。

 内容は商人警護。

 商業国家ロンディアから来た大店商人を、本国まで護衛する依頼だ。

 商業国家ロンディア……行ってみたいと思ってた国だ。


「商業国家ロンディア! いつか行ってみたいと思ってました! でも、特級依頼に付いて行って良いのですか?」

「ああ、それは大丈夫だ。アタシの仲間ってことにすれば、大抵のわがままは通る。それに、依頼人に取って強い奴が増えればより安全だろ? じゃ、ルリに報告に行くぞ」


 セレスさんに促され、ルリさんの受付に向かう。


「あれ……? どうしたの……? セレスティアにセイジュさん……」

「おう、ルリ。今さっき受けたこの特級依頼、セイジュも連れて行くことにしたから修正頼む」

「セイジュさんも……? セイジュさんはA級になったから……反対はしないけど……あの国は……良くも悪くも……子供には刺激が強すぎる……」

「大丈夫だろ? アタシがちゃんと見てるからさ。てか、コイツなら何が起きても動じなさそうだぞ?」

「ふふ……確かに……セイジュさんなら大丈夫そう……でも……セレスティア……セイジュさんに……悪い遊び教えちゃダメだよ……じゃ……二人とも気を付けていってらっしゃい……」


 ルリさんは、(こころよ)く俺の同行を認め依頼を修正した。

 良くも悪くも刺激が強いって? 商業国家だろ? 商売が盛んで、色々な物が揃っている貿易都市。

 俺のイメージは、そんな感じだ。


「依頼開始は二日後だ。朝一に西門に集合してくれ。大きな商隊(しょうたい)がいるから一目で分かるはずだ。後、長期留守になるから屋敷の者にはしっかり話しておけよ? オマエはもう貴族なんだからな」

「はい! 分かりました。明後日からよろしくお願いします」



 屋敷に帰った俺は、早速セギュールさん達に報告をする。

 丁度ユグドラティエさんも一緒にいたので手間が省けた。


「セギュールさんユグドラティエさん、明後日から冒険者依頼でロンディアに行ってきます。申し訳ないですが、留守中はお願いします」

「かしこまりました、セイジュ様。初めての他国でございますね? 存分(ぞんぶん)に見分を広めてくださいませ」

「う~ん、ロンディアか……坊やなら大丈夫じゃろうが、要らぬことに首を突っ込むでないのじゃぞ?」


 家宰(かさい)のセギュールさんは温かく送り出してくれそうだが、ユグドラティエさんは妙に言い(よど)んでいる。


「ルリさんもそうやって心配してました。良くも悪くも刺激が強いって。ユグドラティエさん、ロンディアって危険な国なのですか?」

「いや、そういうわけではないのじゃ。何と言うのじゃろう? 実に商人らしく、欲望に忠実な国じゃよ。坊や、財布の(ひも)だけはしっかり絞めておくのじゃぞ」



 ユグドラティエさんの(いまし)めを受けて二日後。

 朝一で西門に向かった俺の目の前には、想像以上に大きな商隊とセレスさん。

 そして恰幅(かっぷく)の良い男が待っていた――

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