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コスメショップ、エルフの化粧事情

 ――ゲーテの為に地下礼拝堂を造ったら、散々な目にあった。

 久しぶりに冒険者ギルドに行こうと屋敷を出ると、マーガレットさんに待ち伏せされ、着いた先はマルゴー様の一室。



「――貴族街に化粧品屋ですか?」

「ええ、そうですわ。元々、貴族街に化粧品屋は多くありますが、セイジュ卿の新しい化粧品はどこよりも高品質で珍しい物ばかりなのです。それを売っている場所さえ用意できれば、卿に直接迷惑がいくことはないと思いますの……」


 なるほど。

 俺の屋敷に直接押しかけられたり、呼び出されたりするのは迷惑だ。

 店を作って、売り出した方が無難(ぶなん)というわけか。

 これも、この世界にとって刺激になるのかな?

 実現するには、色々問題もありそうだが……



「分かりました。店を出すことに反対はありませんが、差し上げた化粧品の材料に豊穣の森産の物を多く使っています。生憎(あいにく)、僕はまだD級冒険者で森に立ち入りことができません。売り出すとなると、手持ちの素材では間に合わないような気がします……」

「その点でしたら、問題ありませんわ。マーガレット、例の物を」

「かしこまりました。セイジュ様、こちらをどうぞ」


 命令されたマーガレットさんは、俺に書簡(しょかん)を渡した。

 最高級の羊毛紙(ようもうし)に王家ゆかりの封蝋(ふうろう)

 見るからに重要書類だと分かる代物(しろもの)だ。


「これは……?」

「そちらには、陛下、私、そして特級冒険者セレスの直筆が入った推薦状(すいせんじょう)ですわ。セイジュ卿がA級冒険者に匹敵する実力を持っていること、豊穣の森出身であることを証明しておりますの」

「セイジュ様、そちらを冒険者ギルドにお持ちください。直ぐにでも昇級できるはずでございます」


 これは推薦状ってよりは、脅迫状(きょうはくじょう)だろ?

 ブリギットさんこんな物見せられたら卒倒(そっとう)しそうだな。

 マルゴー様も、俺が提案を受け入れる前提で用意してたのか。

 この方は、思った以上にしたたかなのかもしれない。



「マルゴー様……最初から僕が提案を受けると思っていましたね?」

「さて? 何のことでしょう。フフッ。お店の場所も何点か候補(こうほ)がありましてよ?」


 彼女は、扇子で口元を隠しながら楽しそうに笑う。

 ここまでお膳立(ぜんだ)てされていたら、もう腹をくくるしかないだろう。

 やるからには、全力だ!



「しかしマルゴー様。例えセイジュ様でも、購入希望者分の素材を集めるのは余りにも危険なのではないでしょうか……? あの森は、A級冒険者でも簡単に死ぬ場所。それはこの身を持って痛感(つうかん)しております」


 確かに、豊穣の森は危険過ぎる。

 B級冒険者でパーティーは絶対、A級でも最奥(さいおう)にたどり着くのは一握。

 マーガレットさんも森の被害者の一人だし、彼女の心配はもっともだ


「やはり、問題はそこですわね。セイジュ卿やセレスがいくら強くても、需要と供給は満たせないでしょう……未来のシルフィーの夫や、大切な友人を亡くしたくはないですの」

「だったら、思い切って販売相手を(しぼ)ってみてはどうでしょうか?」

「「絞る……?」」


 マルゴー様とマーガレットさんは、不思議そうに首をかしげた。


「はい。供給が満たされるまでは……例えばですよ? 会員制にしてみるとかはどうでしょう? マルゴー様やセレスさんが紹介状を書いて、それを持つ方しか入店できない仕組みです。お店も普通の門構(もんがま)えではなく、貴族の屋敷を改造して一部屋一組を接客している姿を想像してみてください。丁度、今みたいな感じです。広めの一室でマルゴー様が紹介状を持ったお客、僕が接客係、マーガレットさんがおもてなしをする係です」

「なるほど。不特定多数に売るのではなく、選ばれた者のみが買える仕組みですわね?」

「貴族の方々は、特別視されることを好みます。自分が王族や大公爵から選ばれた優越感(ゆうえつかん)は、計り知れないでしょう。それに、お店に並ばせず部屋でゆっくり選べるのは防犯的にも良さそうですね。セイジュ様、よくそこまで思いつきますね……」


 イメージは、二人に伝わったようだ。

 客数が限定的なら素材集めも余裕を持ってできる。

 なんなら、王家からギルドに依頼を出せば良いし、他の化粧品屋が潰れることもないだろう。


「他にも利点がありまして、僕の化粧品を大っぴらに売ってしまうと他の化粧品屋が苦しくなるかと……彼らの生活を守る為にも、流通を制限した方が良いと思います。それに、貴族を相手にするのでしっかり教育された人材が必要になります。時間は掛かるかもしれませんが、これによって新たな雇用(こよう)も――」

「――セイジュ卿!! 素晴らしいですわ! 自分のことだけでなく、周りのお店のことも考えているなんて。まして、新たな雇用を生み出すことで王国経済の先を見据えている……私感動致しましてよ!」

「確かに、セイジュ様の化粧品を制限なく出してしまえば他のお店は死活問題。反感や嫌がらせがあるかもしれません。だからこそ、最初から別畑で商売をするわけですね。セイジュ様は、卓越(たくえつ)した商才もお持ちなのですね」


 大まかな枠組みは決まり、人員や場所はマルゴー様に任せれば良いらしい。

 俺は、あくまでコスメの開発や新商品の提案をする裏方だ。


「最終的には顧客に合わせた化粧品の開発や、豊穣の森産の宝飾品(ほうしょくひん)を販売するのも良いですね」

「まぁ!? そこまでして頂けるの? セイジュ卿から頂いたこの髪留めも、膝掛けも国宝級ですのよ?」

「あくまで最終的にですよ? 本当に特別なお客様だけです。それこそ、マルゴー様やセレスさんの信用がある方のみです」


 初めて会った時に差し上げた『極楽鳥の飾り羽』の髪留めも、お披露目会のお土産『シルクスパイダー』の膝掛けも大事に使って頂いてるようだ。


 彼女は、(いと)おしそうに膝掛けをさすっている。

 ユグドラティエさんやエルミアさんを見慣れているせいで、見落としがちだがマルゴー様も人間を代表するほど美しい。


 亜麻色(あまいろ)の髪に、ヘーゼルの瞳。

 愛らしさと、権力闘争を勝ち抜いてきた矜持(きょうじ)が折り重なったトランジスタグラマー。

 貴族界に咲き誇った華のように、彼女の美しさは自信に満ちあふれていた。


「セイジュ卿、本当にありがとうございます。この国は暖かいですが、こういった薄での膝掛けは重宝(ちょうほう)しますわ。それに王家の紋章まで入っていますの」

「いえいえ。僕がこの街に来てから、王家の皆様には本当に良くして頂いてます。ほんのお礼ですよ」

「フフッ、ほんのお礼が国宝級とは。ユグドラティエが認めるわけですわね」


 お茶がなくなったところで、今日の打ち合わせは終了。

 取り扱う商品は次の機会で、という約束をして俺は王宮を後にした。





「――なんじゃ? 坊や、化粧品屋を始めるそうじゃな?」

「耳が早いですね。そうです。今日は、その打ち合わせに行ってきました」

「豊穣の森の素材を使った高級化粧品に、会員制のお店。貴族の好きそうな要素が全て詰まってるね」


 屋敷に戻った俺は、いつもの三人で夕ご飯を食べている。

 キッチンも改装を終えて、ツクヨミ特製の温かい料理が食べられるようになっていた。

 今日あったことを報告しながら、俺はふと疑問に感じたことを聞く。


「そう言えば、エルフの方々は化粧ってしないのですか?」

「せんのぅ」

「私達に取って化粧は、おしゃれって言うより儀式用(ぎしきよう)に近いね。数百年に一度『ユグドラシル』を(たた)えるお祭りがあるんだけど、その時『踊り巫女(みこ)』が全身に化粧をするぐらいかな?」

「そうじゃな。じゃが、坊やはいつでも我を称えて良いのじゃぞ?」


 ユグドラティエさんは、エッヘンとドヤ顔をしているが華麗(かれい)にスルー。

 なるほど、儀式用の化粧か。

 昔テレビで見た、原住民や先住民が派手な色を塗りたくったみたいな感じかな。


「そして、何を隠そうこ奴が今世(こんせい)の『踊り巫女』じゃ!」

「お師匠様! 止めてください! (ただ)でさえ恥ずかしいのに……舞ったのだって、もう400年以上前の一回切りですよ」

「凄い! 凄いじゃないですか、エルミアさん。あ! だから、ユグドラティエさんに付き従っているわけですね。いいな~、舞ってる姿一度見てみたいです」

「セイジュ君も勘弁(かんべん)してよ。あの格好で舞うの、本当に恥ずかしかったんだから……」


 真っ赤になったエルミアさんは、顔をブンブンと横に振りながら恥ずかしがっている。

 ってことは、彼女達は普通の化粧はしたことないのか……



「良かったら……二人とも人間用の化粧してみます?」

「我が?」

「私が?」

「はい。二人は間違いなく美の頂点の一角ですし、化粧をしたら更に美が引き立つと思います。ツクヨミに任せれば、完璧にできます。何より、二人の化粧した姿に興味があります」


 言葉にするのは恥ずかしかったが、純粋にエルフが化粧をした姿を見てみたい。

 そんな俺の考えを察したユグドラティエさんは、ニヤリと笑った。


「そうかそうか、坊や。我らの顔に興味があるのじゃな? だったら、叶えてやるのじゃ。ほれ、エルミアもしっかり(ほどこ)してもらうのじゃぞ」

「え? え? 私もするの?」

「ちゃおっす~。いぇいいぇい、呼ばれた気がしたから出てきたし。セイジュ、この二人に化粧すればよき?」


 呼びかける前に飛び出てきたツクヨミは、今日もテンション高めな挨拶と相変わらずのポージングだ。

 しかし、記憶領域が繋がっている分さすがに理解が早い。


「そうそう、お願いできる?」

「りょ! 人間用はやったことないけど、セイジュのおかげで完璧だし。盛って盛って、盛っちゃうよ~。そだ! セイジュ、折角だから後ろ向いて目隠しな? ビックリさせてやるし! 覗いちゃやーよ」



 俺は言われた通り、ツクヨミに化粧品を渡して後ろを向いた。

 アイマスクをして30分くらい()った頃だろうか、思わずそのまま寝てしまいそうな時彼女から声が掛かる。


「セイジュ、おけまる! こっち向いて良いし~」

「な――ッ!!??」


 アイマスクを外して振り返った俺は、思わず声を上げてしまった――

【5話毎御礼】

いつも貴重なお時間頂きありがとうございます。

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