ツクヨミの実力、お披露目会開始
――晴れて貴族となった俺は、貴族としての初仕事お披露目会に向けて準備を進めている。
家宰となったセギュールさん、契約をした上位精霊で専属メイドのツクヨミ、王宮から派遣された使用人達のおかげでスムーズだ。
「――おーい! セイジュ、アタシ達も手伝いに来たぜ~!」
「セレスさん、おはようございます。ガーネットさんもありがとうございます」
「おう! 頼れる奴ら連れて来たからからよ、こき使ってくれや。おい、持って来た物も適当に飾っといてやれ」
約束通りに、セレスさんとガーネットさんも登場。
ガーネットさんは、てきぱきと部下の使用人に指示を出し何やら運び込んでいる。
「ガーネットさん、あれは何ですか?」
「ん? セレスティアからのお土産だよ、お土産! 多分、屋敷内が殺風景だと思ってよ、ウチにあった使わないやつを持って来たんだ」
「そうそう。折角だから使ってくれよ。屋敷の肥やしにしとくには、惜しい物ばっかだからよ」
「良かったな~、坊主。セレスティアとお揃いだぞ? お! そ! ろ! い!」
「ガーネット! テメーつまんねぇこと言ってんじゃねーぞ!」
「セレスさん、ありがとうございます! 素直に嬉しいです。こういった、貴族文化には疎いもので……」
「お…おう……」
二人が来た途端、賑やかになる。
鮮やかな赤色の前髪を直しながら照れるセレスさんに、しっかりお礼を伝え今日の議題に移った。
「ドーヴェルニ家のお二人まで手伝いに来て頂けるとは、セイジュ様の人望は計りしれません」
「な、な、何でセギュールの旦那がここに居るんだよ!? アンタはブリオン陛下専属の執事だろ?」
「いえいえ。歳のせいでしょうか? 陛下から暇を出されましてね。余生は、セイジュ様に仕えてゆっくり過ごせと諭されましいましたわ。ほっほっほっほっ」
「ん? お知り合いなんですか?」
「お知り合いも何も、俺とお姉ちゃん……てか、王宮に居る使用人達の師匠みたいなもんだよ……」
「セギュールさん……そんなすごい方だったなんて」
「ほほっ。その話題はまたの機会にしてセイジュ様、本日はお披露目会の料理について話を進めたいと思います」
セギュールさんが、ブリオン先代国王陛下の専属執事だったとは……通りで、仕事ができるはずだ。
彼は、そんなことは些事だと言わんばかりに今日の議題を出した。
「料理……ですか?」
「屋敷の調度品もそうなのですが、料理やお土産、使用人の教育度はその屋敷の『格』に直結します。その為、お披露目会や晩餐会は多少無理をしてでも豪華にするのが習わしでございます」
「特に僕は最初の一発目だから、失敗はできないと……?」
「左様でございます」
「セイジュ、なんだったらウチの料理人達を手伝いに来さすか?」
「う~ん……」
貴族の宴では、料理が屋敷の格に繋がるらしい。
俺が作れば問題ないだろうが、主役の当主がキッチンに籠りっぱなしなのはあり得ない。
セレスさんに料理人を借りても良いが、最初だから派手にいきたいな。
派手? もしかして、ツクヨミなら……?
「ねぇ、ツクヨミいる?」
「ちゃおっすおっすー!! セイジュどしたん?」
「ツクヨミって、『六花』の生活担当だったんでしょ? 人間用の料理って作れるの?」
「料理? あーし達は食べる必要ないからできんけど、セイジュの記憶領域を共有してるけん作れると思うよん」
俺の影から飛び出てきたツクヨミは、今日もピースをしながら変なポーズを取っている。
俺の記憶を辿れば、料理ができるらしい。
さすが、筆頭メイド。
「皆さん、ツクヨミに任せれば料理はできるそうです。材料は僕の『アイテムボックス』から……って、あれ?」
「おい、セイジュ……誰だそれ? てか、なんだその異常なまでに圧縮された魔力は?」
「坊主……俺達じゃなかったら、ソイツが出た瞬間即死してたぞ……」
「なんともはや……セイジュ様、老骨にその魔力は少々毒でございますぞ」
俺は嬉しそうに解決策を提案したつつ振り向いたら、三人はドン引きした様子で距離を取り、ガーネットさんに至っては臨戦態勢をとっていた。
「めんごめんご! わりとガチめのめんご。セレスたんもガーネッたんもセギュールじぃじも、セイジュの記憶見たらさ! 好きピみたいじゃん? テンションあげみざわで出てきちゃったテヘペロ。ほら、今は大丈夫だし!」
ツクヨミは三人に謝罪しているが、どうも上位精霊の強すぎる魔力は人間に毒らしい。
そう言えば、紹介もまだだったな……
「す! すいません。彼女はツクヨミと言って、闇の上位精霊であり僕の専属メイドなのです。普段は僕の影に潜んでて、落ち着いたらメイド長もやってもらうつもりです」
「上位精霊を宿しているとは……シルフィード殿下だけではなかったのですね……」
「セレスティアー、俺もう坊主で驚くの止めにするわー」
「上位精霊って……セイジュ、オマエ『精霊王』に会っただけじゃなくて、上位精霊とも契約してたのかよ……?」
「ハハ……そうなんです」
三人にもツクヨミと契約した経緯を説明。
彼女の力を借りれば、料理も最高の物が用意できる。
そんな彼女の力量を見る為、キッチンに移動した。
「セイジュ様、ツクヨミ様の実力を見ると仰ってましたが、何か作らせるおつもりですか?」
「そうです。とりあえず、今日手伝いに来ている使用人分のお昼ご飯を作ってもらいます。できるだろ? ツクヨミ」
「いぇあ! 余裕っしょ」
彼女は、大量に用意された食材を前にして五人に分裂した。
そして、次々と料理に取り掛かりあっという間に様々な物ができあるがる。
パンからパスタ、魚料理に肉料理。
和洋中にデザートのおまけ付だ。
「いぇいいぇい、お待ち~。初めてにしては上出来だし! 食べてみ食べてみ」
「これは……美味しいですね」
「うおー、美味ぇ!」
「確かに、セイジュの料理にそっくりだし美味い」
「なんじゃ? なんじゃ? 飯の話か。我も食べるのじゃ」
いつの間にか参加していたユグドラティエさんは置いといて、期待通りのできだ。
俺はツクヨミに向かってサムズアップをし、彼女はピースサインとウインクで応えた。
「いやはや、申し分ないですね。分身もできるようなので台所はツクヨミ様に任せて、配膳係りを集めましょう。後で、ツクヨミ様分のメイド服も用意させておきますので」
「だったら、僕がツクヨミの分を作りますよ」
「そマ? セイジュ、あーしに服作ってくれるん?」
「だって、ツクヨミは僕の専属だろ? それくらいの贈り物はさせてよ」
「セイジュ、きゅんです。マジきゅんです」
ツクヨミは喜んでいるようだ。
彼女のパートナーとして最高のものを作ってあげよう。
「――美味しい~」 「こんなの初めて食べた!」 「疲れが吹き飛ぶぜ」 「まかないまで食べれるなんて最高」 「セイジュ様、ありがとうございます!」 「もしかして、この屋敷に仕えたらいつもこれが食べれるかも?」
お昼を食べた使用人たちは大盛況だ。
まさか、昼ご飯が出るとは思ってもいなかったらしい。
皆の嬉しそうな顔に、ツクヨミは誇らしげだった。
――時の流れは早いもので、お披露目会当日がやってきた。
開始は貴族街の門が閉まる、鐘七つの刻。
国王一家もいらっしゃる本日、失敗は許されない。
時間ぎりぎりまで打ち合わせをした。
屋敷の前には馬車の群れ。
時刻より少し前に来る者、時間通りに来る者、遅刻する者。
知らない顔が、どんどんと俺の屋敷に入る。
その様子を二階から眺めていると、だんだん緊張してきた。
本当にセギュールさんや、派遣されたメイド達には頭が下がる。
彼らは完璧に招待客をエスコートし、よどみなく会場まで案内した。
「――おぉ! ペデスクロー卿、久しいな」
「ベルグラーヴ卿か! そなたも招待されておったのだな? なんでも今日は、史上初の成人前に叙爵された男爵らしいぞ」
「うむ、勿論聞いておる。それにしても、錚々たる顔ぶれだな。ヒルリアン卿やドーヴェルニ卿までいらっしゃる……」
会場の大広間で貴族の男二人が話し合う。
彼らから見たら、今回のお披露目会は異様だった。
たかが男爵風情のお披露目会に、名誉公爵のユグドラティエや大公爵のセレスティアが参加するのはあり得ない。
まして、会場の警備が騎士団長たるエルミアなど以ての外だ。
ユグドラティエもセレスティアも、今日は珍しくドレスを着ている。
流水のように艶めくエメラルドグリーンと真紅の髪。
黄金比を体現したボディーラインは細いドレスに浮かび上がり、男達の視線を釘付けにしていた。
「噂では、国王陛下もいらっしゃるらしいぞ?」
「国王陛下まで!? オーヴォ男爵とは、いったい何者なんだ? もしかして、秘密裏に他国から亡命した王族か?」
「いや、分からん。しかし、並べられた料理やこのワイン、どれを取っても一級品だ。これほどの財力。オーヴォ卿の底が見えんな」
ビュッフェスタイルの料理やワインに舌鼓を打つ彼らの視線の先には、人垣ができたセイジュがいた。
彼らの息子よりも小さい子供が、堂々かつ謙虚に他貴族達を対応している。
考えれば考えるほど混乱した。
そして、その混乱を断ち切るように誰かが叫んだ。
「国王陛下がいらっしゃったぞ――!!」
【5話毎御礼】
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