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森での生活、そして

「――あんたバカァ?」


 運命の十字路で仰向けに倒れこむ俺に、聞き覚えのある台詞(せりふ)をかけてくる。


「流行ったよな、その台詞。後、見えるぞ?」


 なぜかセーラー服を着ているゲーテは、ズガン! っと顔のすぐ横を踏みつけた。

 その衝撃(しょうげき)に大地は引き裂け、激震(げきしん)


「そ・ん・な・こ・と・は・ど・う・で・も・い・い・の・よ! アタシは、あんたはバカかと聞いたの? 何やってんのよ! ここまで魂を引っ張ってこなかったら、あんたは確実に魔素の暴走で弾け飛んでたわよ。『ガイドブック』にも書いてあったでしょ! それなのに、いきなりフルパワーで魔素の圧縮を行うなんて……やっぱバカでしょ!?」


 彼女? は本気で怒っているようだ。

 フンッと腕を組み俺を見下ろしているが、口から上はぼやけて見えない。


「申し訳ない。いかに効率よく魔素を練り上げられるか試したら、止まらなくなっちまった……助かったよ」


 やっとの思いで立ち上がる俺に――


「――アタシ性別なんかないから! 別にあんたの為じゃないし。アタシ達の計画の為に、あんたには生きててもらわなきゃ困るの。勘違いしないで!」


 そっぽ向いて答える様は、おいおいツンデレキャラかよ。

 今日日(きょうび)流行んないぞソレ……


「いや、これはあんたのせいよ? あんたがアタシに名づけをした結果、アタシはあんたの記憶領域に引っ張られて形骸化(けいがいか)してるの。あんた……記憶の中ではいっぱい女神様と恋してるのねぇ? おやおや? 随分(ずいぶん)淫靡(いんび)な女神様もいるもんねぇ?」


 悪辣(あくらつ)に口の端を上げて笑っている。

 これは、ゲーテ本来の特徴なのだろう……


「って、それ以上はいけない! てか、よく見たらそのセーラー服『どきどきメモリアル』じゃねーか」


 ゲーテはゲームキャラを女神と勘違いしているようで、俺を数多くの女神と恋をした強者(つわもの)と考えているようだ。


「まぁ、そんなことどうでもいいわ。さっさと戻んなさいッ!」


 ビシッ! っと人差し指を突き付けてくる姿は、さしずめ委員長とのイベントシーン……


「最初のキャラどこいったんだよ? 尊大不遜(そんだいふそん)なキャラが懐かしいぞ」


 光に包まれあの森に帰る俺に、『……うっさいわねー』っという微かな声が聞こえた。



 ――そんなやり取りも懐かしく、森での生活は一年近くは経っていた。

 時計もカレンダーはない。

『ライブラリ』に聞くこともなく、俺はここでの生活を楽しんでいた。


 この一年費やし衣食住は大きく変わった。

 先ず家に関しては、テント生活を早々に切り上げ滝近くの崖に土魔法で洞窟を掘った。


 初めはただ穴を掘っただけの穴倉(あなぐら)だった。

 しかし、魔法に慣れた今となっては十畳ほどのメイン部屋にキッチンやバストイレ、作業部屋、修練部屋を繋げて色々こだわった納得なできだ。


 洞窟入口にも、魔物虫除けの結界魔法や認識阻害(にんしきそがい)魔法を駆使して対策もバッチリである。

 魔法が思い通りに使えるようになり、『アイテボックス』や『ライブラリ』にも頼る。

 これは、前世以上に快適な生活だな。


 転生して一年近く……やっと手に入れた健康で文化的な生活は、控えめに言っても最高だ。


 一日のルーティンはほぼ決まっている。

 日の出と共に起き、軽く朝食を取った後修練部屋に移動する。

 ここでは瞑想(めいそう)と祈り、魔力操作訓練と身体訓練を行う。

 修練部屋は、洞窟内では一番広く道場をイメージして掘った。


 床の間として二柱の神像とその周りには、運命の十字路と四つの選択肢を抽象画(ちゅうしょうが)として描き込んだ。

 彫刻、絵画センスなんて勿論ないが、スキルのお陰か恐ろしくイメージ通りのできだ。


 二柱とも、ゲーテの両性を表して母性と父性を体現している。

 共通項はローブのフードを鼻先まで被り、口の端を吊り上げて笑っている点だ。


 訓練後は、作業部屋でポーション作りに精を出す。

 この森は、希少な素材が多く研究も楽しんで進めている。

 昨日、見つけた『陽光の甘草』。

 鑑定では回復効果を飛躍的に上げると出てたが、今日はこれを使って作ってみるか。


 ポーション作成で最重要なのは、不純物を限りなく取り除くことだ。

 そこは、錬金術の分離を使えば100%除去できる。


 ポーション作りの要の薬草達と『陽光の甘草』を細かく裁断し、魔法で創り出した水に投入する。

 本当はもっとめんどくさい行程があるらしいが、錬金術のお陰で後は合成するだけ。


「合成!」


 完成した液体を除菌済みのフラスコに入れる。

 美しい緑の液を鑑定すると……



 ――不死の行軍液――

 リジェネーショナルポーションの一種。神薬の一つ。回復速度が早く、全ての傷を一瞬で癒し続ける。有効時間は七日間。



「……ヤベーやつだろこれ。神薬ってなんだよ。一週間は不死身ってことだよな?」


 何はともあれ新作ポーションは、必ず神像にお供えしているので捧げている。

 でも、これは人目には出さないようにしないとな。



 昼はしっかり食べる。

 昼飯後は、森の探索に向かうのでエネルギーを貯めなくては。

 探索は住処を中心に行う。

 魔物やモンスターとの実戦経験を積みながら『マップ』を使い、薬草の群生地(ぐんせいち)や鉱石が取れる場所、食べ物が多い場所などにピンを打つ。


 日が傾く前には帰る。

 部屋の壁に『マップ』をトレースした壁画を描いているので、そこに今日の成果を描き込む。

 べつに壁画にする必要はないが、これは完全な趣味だ。

 だってかっこいいし。

 壁画を改めて見ると、森の探索は八割近く終わっている。

 後は森の出口周辺だ。



 夕飯後、作業部屋で日課の鉱物加工を行う。

 希少な鉱物を使ったアイテムクリエーションだ。

 主に、アクセサリー中心に生活雑貨も作る。

 武器や防具も造ってみようとしたが、思いのほか重労働だったので後回しにしていた。


「今度、鍛冶場でも作ってみるかな」


 作ったアクセサリーは数百を超え、そのいくつかは伝説級や神話級など、とても人目には出せない物もあった。



 いつもこんな感じで一日が終わる。

 ベットに潜り込み、まどろみつつ物思いに(ふけ)る。


「森の探索が終わったら……一回だけ街に出てみようかな……」


 人に飢えているのか? 誰かと話をしたい。

 そんなことを考えたのは久しぶりだった……


「周囲一キロ以内ニ人型ノ生体反応!! 二体。一体ハエルフ、モウ一体ハ人間デス」


 寝耳に水とは正にこのこと。

『ライブラリ』の音声認識シェリ(仮名)に叩き起こされる。


「こんな時間に人?」


 俺は状況を確かめる為、洞窟を飛び出した――

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