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ギャンブル?、珍事再来

 ――俺は、ドゥーヴェルニ大公爵家に新しい娯楽『トランプ』を紹介する為に訪問。

 いわゆるババ抜きに夢中になったセレスさんは、勝つまで止めない様子だ。

 そこに、ガーネットさんも加わり戦況は更に泥沼化した。



「――ちょっとセイジュ、そこはダメだって!」

「坊主、ちょっと待て待て。これ以上は無理だ!」

「あー、ダメダメ! またヤられちゃった…」

「坊主、もう一回だ! もう一回ヤろうぜ!」


 寝室から、セレスティアとガーネットの声が漏れる。

 その誤解を生みそうな声を聞くたびにメイドは足を止め、中の情事を探ろうと扉に近づく。


 すでに、数十人が扉に張り付き聞き耳役。

 その上、噂を聞きつけた他のメイド達もやってきて二重三重の人垣ができていた。


「セイジュ! もっとだ。一回だけじゃ全然満足できないぞ」

「セレスティア! 次は俺の番だって! 俺の」



「――おぉ〜、まさかセレスティア様がここまで積極的とは……」

「ガーネット様も一緒に!?」

「でも、成人前に手を出すのはちょっと……」

「昼下がりから……なんて破廉恥な……」

「セレスティア様とガーネット様のあられもないお姿……私にも聞かせてよ!」

「わわっ! 押すなって」


 メイド達は、扉の前で押し合いへし合い。

 急な圧がかかる扉……その圧が、扉をこじ開けるなど容易であった。


 ――バァン!! と大きな音と共になだれ込むメイド達。

 バランスを崩し倒れ込む者や、尻もちをつく者……そんな彼女達の目線の先には、楽しそうに遊ぶセレスティア達の姿があるだけだ。


「……何やってんだ? オマエら」

「よく見りゃ、厨房や庭番の奴までいるじゃねーか!」

「「「はは…はははっ……失礼しました――ッ!!」」」


 メイド達は、顔を真っ赤にしながら蜘蛛の子を散らすように退散。

 まさか、自分の主人でふしだらな妄想をしていましたなど口が裂けても言えなかった。



「にしても、この『トランプ』っつー娯楽は単純だけど面白いな。他の奴らにも教えてやりたいぜ」

「確かに、素材も最高級品だし貴族に受けるのは間違いないな。それに、素材を安くすれば平民にだって行き渡る。セイジュ……これは、革命的娯楽だ」

「良かった! 拾った本に書いてあったことは、間違いではありませんでしたね。今日は道化抜きだけ遊びましたが、遊び方は色々あるようです。何だったら、独自の遊び方を考えることもできます。他の遊び方も試してみますか?」

「おぉ~、良いね。やってみようぜ」


 遊び足りない彼女達に、色々なゲームを紹介する。

 ポーカー、ブラックジャック、七並べや神経衰弱。

 果ては大富豪まで。

 ありとあらゆるゲームは、とても新鮮なようで時間を忘れて楽しんだ。




「――おい……もしかして、この娯楽ってすごい賭けに向いてないか?」


 さすが、セレスさん鋭い……トランプゲームは、ギャンブルの王道だ。

 一回一回のゲーム時間が短い為、短時間で大金が動く。

 一夜にして、無一文や借金まみれなど日常茶飯事だった。


「そうですね。一回に費やす時間が少ないので、その都度金貨を賭けていれば、今日僕達はすごい金額を動かしていましたね……だからこそ、遠い昔に失われてしまったのかもしれません」

「……セイジュ、コイツを一旦預かっても良いか? コイツは単純だが、中毒性が高い。野放しに広めたら、身を亡ぼす奴も出てくると思うぞ。王族に一回相談した方が良い。流通の制限か、賭けを制限する法を作るべきだ」


 セレスさんは、先ほどまでの楽しそうな表情を一変させ真面目な表情。


「良かった、考えていることは一緒でした。それゆえ、最初に相談したかったのです。僕もついさっきまで安く作れば、国中に流通できると考えてました。しかし、広まれば広まるほど身を亡ぼす人が増え、ズルをする悪意ある集団も増えると思います。ここは、明確に法を敷いた方が良いかと……」


 俺達の思惑は一致している。

 多分、この娯楽がこの世界で初のギャンブルになる。

 金が賭かると人は変わる。

 非合法な組織も増えるだろう。

 だからこそ、明確なルールが必要だ。

 むしろ、王家管轄の娯楽にしてもらった方が安全だ。




「――はいはい。セレスティア~、難しい話はそこまで。今、鐘は何回鳴ったでしょ~か?」


 ちょっと重くなった雰囲気を断ち切るように、ガーネットさんは声を上げた。

 彼女は、ニヤリと笑って窓の外を指さす。


 夢中過ぎて、俺もセレスさんも鐘の音を聞き逃していたようだ。

 外はすっかり暗くなり、さすがにもう帰った方が良いだろう。


「いつの間にか、夜になってましたね。そろそろ帰ります。今日はありがとうございました」

「いや〜、違うんだな坊主。今、鐘は七回鳴っただろ? 貴族街の門は、防犯の為七回の鐘で完全に閉じられ朝まで開かない」

「え!!」


 彼女は、客人を時間までに帰さなかった不手際などお構いなし。

 というか、わざと今まで黙っていた。


「申し訳ございませんセイジュ様。こちらの不手際でございます。本日は、当屋敷にお泊りください」

「ガーネット……テメー……謀りやがったな」


 ガーネットさんは、芝居めいた懐かしの無表情キャラで悪びれもせず提案する。

 そんな彼女に、セレスさんは恥ずかしさと怒りでプルプルと震えていた。



「……ったくよー。しかたねぇ、セイジュ今日は泊まってけ。部屋なんていっぱいあるからよ」

「すいません、セレスさん」

「オマエが謝ることじゃねーよ。そこの、笑いをこらえてる奴が全部悪いんだから」

「ささっ! セイジュ様、部屋にご案内致します。直ぐ近くですから、()()()()!」


 何がご安心だ、ご安心。

 満面の笑みのガーネットさんに案内され、隣の部屋に案内された。

 って、隣じゃねーか!


 セレスさんと同じような部屋。

 掃除は行き届き、ベットには真新しいシーツ。

 テーブルには新鮮な果実や飲み物が並ぶ。

 この部屋は、まるで今日誰かが泊まることを見越したかように整えられていた。


「あの、ガーネットさん……?」

「ん? 何だ坊主?」

「皆さんの様子から察すると、セレスさん以外は今日僕をここに泊める気満々でしたね……?」

「さぁ~て、何のことやら。夕飯の準備が出来たら呼びに来るから、ゆっくりしてな」


 彼女は、白々しくヒラヒラと手を振り部屋を出て行った。

 さて、どうしたものか?

 急遽セレスさんの屋敷に泊まることになった。



 勝手に屋敷内をウロウロすることもできず、いたずらに時間が過ぎていく。

 手持無沙汰に椅子に座っているとトントントンとノックが聞こえた。


「セイジュ、ちょっと良いか……」

「セレスさん? どうぞ」


 セレスさんは、そのまま俺の正面に座る。

 その表情は、どこか思い詰めている。


「セイジュ、本当にスマン。使用人達が浮足立っちまって、オマエにすげぇ迷惑掛けちまった」

「いえいえ、迷惑だと思ってませんよ。実際、今日はすごい楽しかったですし」

「そうか、そう言ってもらえれば助かるが……本当オマエには、いくら感謝してもし切れない。マーガレットやガーネットとのこと……そして、何よりアタシ自身のこと……」

「感謝されたくて、やったわけじゃないですよ? 自分がそうしたいからしたまでです。今を全力で生きないと、本当の僕の願いは叶いませんから」


 打算があって助けたわけじゃない。

 俺は、この世界で全力を出して生きると決めた。

 困っていたから、力になりたいと思ったから助けたんだ。


「なぁ? セイジュ……アタシはオマエに何を差し出せば良い? 金貨か? 奴隷か? 伯父様やマルゴー様に頼んで爵位か?」


 しかし、セレスさんにとっては何かしらお礼をしないと気がおさまらないのだろう。

 与えられてばかりでは、自責の念に押しつぶされてしまう。



 覚悟に潤んだ瞳が俺を見つめる。


「それとも……アタシじし――」

「――オーイ、セイジュ! 飯の準備が出来たぞ~。って、あれ?」


 突如、勢いよく開けられた扉にビクッとなる俺達。


「なんでセレスティアがこっちに? はは〜ん、どうぞごゆっくり。しばらくしたら、また呼びにくるからよ〜、むふふ」

「そんなんじゃねぇよ! ほら、セイジュもいくぞ」


 彼女は何事もなかったかのように立ち上がり、部屋を後にした。



 そのまま食堂に移動したのだが、夕食の味なんて覚えてない。

 それもそのはず、食堂には数えきれないほどのメイド達。


 そんな中、俺とセレスさんだけが食事を取る。

 俺の後ろには常に三人以上が控え、あれやこれやと世話を焼く。

 料理は豪勢そのもの。

 まるで、王族にでも成ったかのようなビップ待遇だった。


 そして、そのまま息つく暇もなく風呂へ案内された。

 入浴係りだと言うメイドが一緒に入ってきそうになったが、断固拒否。

 風呂ぐらい一人でゆっくり浸からせてくれ……


 にしても、広い風呂だな。

 円形の湯船の中心には女神像が佇み、その水瓶から暖かい湯が流れ落ちる。

 まるで打たせ湯だ。

 天井は高く、大理石の支柱にはランプが取り付けられ全体を優しく照らしている。


「あぁ~、いい湯だぜ。生き返るわ~」


 久しぶりの風呂に、おっさんのような声が出た。

 いや、中身はおっさんなんだけどね。

 転生してから大浴場に浸かるのは初めてだな。

 洞窟に作った風呂は一人用だったし、王都に来てからはもっぱら洗浄魔法に頼りっぱなしだった。



「おーい坊主、邪魔するぜ~」

「ブッ――ッ!! ガーネットさん何ですか急に。てか、前を隠して! 前を!」


 風呂を堪能していたら、いきなりガーネットさんが乱入してきた。

 少し黄色掛かった銀髪を無造作におろし、一糸まとわぬ姿。

 セレスさんと比べれば全体的に一回り小さいが、女性らしい曲線が湯気を割るように俺に近づく。


「はぁ? 何でって、坊主が入浴係を拒んだからだろ。それに、冒険者同士だったら一緒に水浴びなんて日常茶飯事だろ? なぁ? セレスティア……って、いつまで恥ずかしがってんだよ早くこい!」

「……う…うん……」

「同士だったらって、それ女性冒険者同士ってことでしょ! それに、ガーネットさんはとっくに引退してるじゃないですか。て、え? セレスさん……?」


 何が起きている?

 ガーネットさんの後ろには、バスタオルをガッチガチに巻いたセレスさん。

 あまりの恥ずかしさにうつむいた顔は紅潮し、引き締まった脚もモジモジさせ落ち着きがない。


「あの? これは本当にどういう……」

「うるせぇ! 細かいことは良いんだよ。ほら、セレスティアも早く湯に浸かろうぜ」

「……う…うん……」


 近い……湯船は広いですから、少し離れてみては?

 なんて言えない。

 二人は俺を挟むように座る。

 お互いの二の腕は密着し、動く度に柔らかい肌触りがおろし金のように俺の神経をすり減らす。


「う~ん、いい湯だなセレスティア」

「……う…うん。ブクブク……」

「それに、今日はすげぇ楽しかったぜ」 

「……う…うん。ブクブク……」

「おい、セレスティア」 

「……う…うん。ブクブク……」

「話聞いてるか?」

「……う…うん。ブクブク……」

「聞いてないだろ?」

「……う…うん。ブクブク……」


 俺越しに二人は話をしようとしているが、セレスさんは上の空だ。

 鼻の下まで湯に浸かり、泡を浮かべながら返事をしている。

 さっきから全く目を合わせようとせず、恥ずかしさのあまり泣き出しそうな目で湯船だけを見ていた。



「はぁ~。そう言えば坊主、この間ユグドラティエ様とエルミアの四人で出かけたことあっただろ? あん時、馬車の中でのセレスティアは傑作だったぜ? 坊主に会う前さ~」

「――ガーネット! テメー、それは言わない約束だろ!?」


 聞かれて欲しくない話題が出たとたん、セレスさんは身を乗り出しガーネットさんを止めに入る。

 しかし、ガーネットさんもそれに対抗。

 二人はがっしり手を組む。

 そう……俺を挟んでだ。


 片やバスタオルに巻かれたグラマラスな双丘が、片や大胆露わの胸部が俺を窒息さようとグリグリ顔を挟む。

 本来ならこんな体験お金を払って体験するようなことだが、いささか長湯しすぎた。

 興奮と熱にのぼせた意識は徐々に遠のき……


「すいません二人とも、僕そろそろ上がり……ブクブクブク……」

「ハッ! おい坊主? 坊主――ッ!」

「セイジュ? テメーこの野郎ガーネット! コイツ完全に出来上がってるじゃねーか!」


 許容範囲を超えた珍事に、俺の神経は焼き切れのぼせ上がる。

 そして、浴場には二人の叫び声がこだました――

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